| 転校生S Special Edition | ←戻る |
| by Ophanim | |
| Final step | |
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かぽーん・・・。
なんか、人が入ったお湯にまた入るっていうのは、最初は抵抗があったけど、説明を聞いたらなんか納得したわ。それにしても、日本は水が豊富なのにどうしてこんな変な使い方するのかしらねぇ?
「いいお湯ねぇ・・・。」
「は、はい・・・。」
小さな背中を更に小さくしたレイが向こう向きのまま小さな声で答える。なんだか妙に可愛い。
「なぁに緊張してるのよ?」
あたしは湯船から上がってレイを抱きしめた。折れそうなほど細い身体を抱きしめると、予想以上に腕が回って怖いほどで、それがまた、余計に愛おしくさせる。
「背中流してあげる。」
あたしは照れ隠しにスポンジでレイの身体を擦った。
「ん?あれ?紅くなってきたわよ?肌弱いんじゃない?」
「ち、力入れ過ぎですよぉ・・・。」
泣きそうな声に促されてもう一度その肌を見る。
人のものとは思えないほど白い背中に浮き上がったスポンジの痕が痛々しい。
「それが肌弱いって言うんじゃないの?」
「・・・違うと思います。」
レイはタオルで体を隠しながらあたしの背中に回った。
「何?」
「今度は私が流します。」
あら?
仕返し?
それにしては・・・痛くないわね・・・。
・・・そっか。
この子が”仕返し”何てするわけないか。
”お返し”、ね、きっと。
「全然力入ってないぃ!」
あたしは足をばたばたさせて文句を言った。
「こ、このくらいで充分なんですっ!」
うふふ。
何だか困ってる。
「レイ、髪も洗ってぇ。」
あたしは甘えてみたくなってレイに背中をくっつけた。
「ああっ!泡がつくぅ!・・・わぁ・・・。」
「また流せば良いじゃん?」
あたしはすっかり寄りかかって身体を楽にした。
「じゃ、髪洗うから目閉じてて下さいね。」
「え?本当に洗ってくれるの?」
湯船も久しぶりならいっぱいのシャンプーで髪を洗うのも久しぶりよ。
しかも、洗ってもらえるなんて、とっても嬉しいわ。ドイツにいた頃以来かも。
「レイって上手よね・・・。」
「そうですか?」
「美容師になれるわよ。気持ち良いもん。」
「はぁ・・・。」
折角あたしが褒めても、全然手応えがない。
「何よ?嬉しくないの?美容院とか行くでしょ?」
「ご、ごめんなさい。私、美容院とか、行ったこと無いですから・・・。」
えっ!
あっ!
いたたたた・・・。
思わず目を開けてしまったわ。
「い、痛い痛い痛いっ!!」
「だ、大丈夫ですかっ??」
い、痛い〜・・・。
しばらく苦しんだ後、あたしはようやくひりひりしなくなった目を細めてレイを見た。
「お返しにレイの髪も洗ってあげるわ。」
「え、え?」
断る暇も与えずレイの髪にシャンプーをかけ、素早く泡立ててレイの顔に泡がかかるようにする。
「あ、ちょ、ちょっと、アスカさん・・・。」
「あら、ごめん。胸にシャンプーがかかっちゃったわね。」
あたしは適当なことを言ってレイの脇の下に手を入れる。
「そ、そんなの・・・う、あ、あはははは、く、くすぐったいです。」
こいつめ〜。
「レイ、窓開けちゃっても良いかしら?」
「だ、駄目ですよっ!!」
「開けちゃおっかなぁ〜?」
「わ、わ、わ・・・。」
その後あたしが色々な手を尽くしても、レイは目を開けなかった。
でも、悔しくなんてなかった。
ただ、楽しかった。
「お布団が良いですか?ベッドがいいですか?」
レイが聞いてくる。
「んー。でも、これってあんたのベッドでしょ?あたしは布団で良いわ。」
あたしはそう言ってごろんと横になった。
着替えも面倒だし、なんて思っていたら
「パジャマはいいんですか?」
って言われてしまった。仕方なしに身体を起こすと、レイが下着まで準備してくれていた。
ふふ・・・。
でも、ねぇ・・・。
「あんたのじゃ小さいかもよ?」
あたしがそう言うと、レイはちょっと悲しそうな顔で、
「お母さんの借りてくる・・・。」
って言って立ち上がった。
ちょっと苛めすぎたわね。
「あ、冗談冗談。人の借りる気にならないからいいのよ。明日帰ったらすぐに交換するから気にしないで。」
あたしはパジャマだけを受け取ってぱっぱと着替えた。レイも着替えを終える。
「おやすみなさい」「おやすみ」
かしゃ。
部屋が暗闇に包まれる。
「ねぇ。」
「おやすみなさいしたら、起きてたらいけないんですぅ。」
あたしが声をかけると、レイはそんな可愛い文句を言った。
「あんた馬鹿ぁ?起きてる間に話したら”お泊まり会”の意味ないじゃない?」
勿体ないわよ。
もう時間が無い・・・かもしれない・・・じゃない・・・。
あたし達はベッドの上と下で色々な話をして盛り上がった。
とても楽しい。
幸せな時間。
その流れを・・・その、息の根を・・・止めなければならない・・・あたしの、この手で・・・。
「ね、今日、楽しかった?」
「えぇ。とっても。」
無垢な・・・とても無防備な、答えが返ってくる。
「シンジと一緒にいられたから?」
これで、終わり・・・。
後は・・・駆け引きの世界なのよ?
レイ。
厳しい、世界なのよ?
「そ、そんな、ことないです・・・。」
「またまたぁ、そんなこと言っちゃって・・・。」
あたしは明るい風を装ってレイのベッドに登った。
ベッドはとても柔らかかった。
「正直に言いなさいよぉ。」
あたしが追及すると、ベッドが、ごろごろと壁際に逃げていった。
・・・あたしは暗闇の中で、レイのお腹に乗っていたみたいだった・・・。
それに、一言の文句をいうでもなく、責めるでもなく、恐らくは笑顔で、耐えていた・・・。
あたしは誰に対して駆け引きを仕掛けようとしたのだろう?
この上もなく純粋な、屈託のない笑顔に?
疑うことも知らない、信頼しきった友人に?
・・・。
「入っちゃえ。」
あたしはレイの布団の中に潜り込んだ。
どうしようもない自己嫌悪に陥っていた。
そんな自分がシンジと釣り合うだろうか?
他人と自然体で付き合えているシンジにも欺瞞と駆け引きを仕掛けるのだろうか?
それでも、譲りたくない。
今なら、やれる。
無防備なこの子の心臓に、致命的な一突きが、出来る。
だけど・・・。
そんな卑怯なことをすれば、この子の笑顔は・・・この、背後で微笑んでいる天使の笑顔は、永遠に失われるだろう。
その事実の、自分だけが避け得た事実の、呵責に耐えられる自信がない。
かといって、まともに行けば絶対に自分に勝ち目がない。
勝ち目はないが、良心は救われる・・・。
あたしは迷った。
迷っている間に、自然に口が開いていた。
「シンジ、いい奴だよ。」
・・・終わった・・・。
不思議に楽になった。
失ったものは大きかったけど、逃れ得た苦しみもまた大きなものだった。
永遠とも思える沈黙の後、レイの手がそっとあたしの背中に触れた。
あたしは自分を奮い立たせて声を出した。
「頑張ってね。」
声が震えている。
やっぱり、悲しい。
あぁ・・・自分はこんなにシンジを好きだったんだ、って初めて理解した。
「あ、あの。私、大丈夫です。だから、私に出来ることがあったら・・・。」
「おやすみを言ったら、眠るものよ。」
これ以上は限界だった。
口を開けば、悪魔のような言葉が出そうだった。
再び流れた沈黙の後、レイが今度は背中を押しつけてきた。
ほんのりと、レイの体温があたしの身体に流れ込んできた。
葛藤に疲れた心を癒すように・・・。
「今日は、とても楽しかったです。」
静かな声が、背中を通して聞こえてくる。
救いの声のように感じた。
「私、この後何があってもアスカさんといい友達でいたいです。」
息が止まった。
この子は本物の天使なのかも知れない、と本能が告げている。
「だから、また遊びに来て下さい。大歓迎です。」
心が軽くなって、やっと息が出来た。
「あんた・・・。」
また苦しくなる。
でも、それは幸せが胸を満たしているからだ。
「はい?」
何気ない返事までが快い。
「あんた、馬鹿。」
絶対そうだわ。
あたしは断言した。
「そうかもしれません。」
レイの言葉が聞こえたとき、涙が目の前をかすめていった。
あたしの瞳に残った最後の曇まで洗い流すように・・・。
次の朝。
あたしはいつの間にか布団で寝ていた。
寝ている間に落ちたみたい。
「おはようございます。」
薄目を開けていたあたしにレイが挨拶をしてきた。
「おやすみなさい。」
起きるのも面倒なので寝返りを打つ。
「起きましょうよぉ・・・。」
かしゃーっとカーテンを開ける音がして、一瞬光が瞼の上をよぎり、また去っていった。
「ア、アスカさん!寝相悪いぃ・・・。」
「んー?」
あ?
そっか〜。
なんか寒いと思ったら、あたしパジャマ半分脱いでたのね。
レイのパジャマきついから寝苦しかったんだわ、きっと・・・。
「起きましょう、アスカさん。お腹空いたんじゃないです?」
「んー・・・。」
レイはあたしに服を着せてくれたりする。
・・・らくちんだわ。
このまま寝たふりしてレイに運んでもらおうっと。
あたしはレイに押されながら洗面所に向かった。
あ!
チトセさんだっ!
「おはようございます。」
あたしは元気にご挨拶をした。
「あら、おはよう。」
チトセさんは笑顔で挨拶してくれた。
「アスカさん、起きてたの?」
「あちゃ。ばれたか・・・。」
気付かない方がおかしいのよ〜だ。
「じゃ、ぱぱっと顔でも洗ってきますかね?」
あたしは頬を膨らませているレイを後目に洗面所に向かった。
朝御飯をいただいて家に帰る。
(あ〜あ。このままドイツに帰るなんて、勿体ないわよ。)
決めたっ!
まだもう少しいようっと。
あたしは晴れやかな気持ちでスキップしながら帰った。
それはそれはとても楽しい、夏の朝だった。
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