転校生 Special Edition←戻る
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 Ninth step




 「もういいってば!金魚すくいでもするわよ。帰りの時間は決まっているんだし、大丈夫だって。」

 あたしはさりげなく二人の肩を捕まえた。

 「そ、そうそう。い、碇君、私、金魚もほ、欲しいな・・・。あは。」

 ・・・レイ、その棒読み、逆効果なんだけど・・・?

 シンジが疑ってる。

 目つきで判るわよ。

 「そういうことなら、いいか。ケンスケ。さっきみたいな技見せてよ。」

 さすがにばれたわね・・・。

 開き直ったような態度でシンジがあたし達の前に立って金魚掬いの所に行く。

 「よおし、まずはね、カップをこんな風に持って・・・。」

 相田がカップを手に持って金魚掬いのコツを説明しようとした時・・・。

 「ああっ!おしぃーい!!」

 ヒカリの無警戒な声が響いた。

 「待てや、今ちゃんとすくっとったでぇ、わい。納得いかへんわ。」

 当然何も警戒してない鈴原もいた・・・。

 あたし、かえって二人の近くに連れてきてしまったみたいね・・・。

 でも、もうシンジにはばれたと思うし、潮時だわ・・・。

 かしゃっ!

 あぁ・・・そういえば、相田にばれたのはまずかったかもね・・・。

 「なんだよ、トウジ、どこにいたんだよ。」

 シンジが話しかけた時には相田はフラッシュ撮影まで始めていた。

 「スクープだぞ!これは・・・。」

 「な、なにすんのや!ケンスケ!

 まぁ、当然の反応よね?

 前言撤回。

 やっぱり相田は一度懲らしめないと・・・。

 あたしは無言で相田の背後に近づくと、ぐいっと両手で首を締め上げた。

 その間にレイがカメラを奪い取る。レイは取ったカメラをくるくると裏から表から見ていた。

 フィルムを出したいみたいね。

 「裏の方よ。横にフィルムのマークがあるでしょ?」

 気が逸れたせいか、相田があたしの手から逃げ出した。

 でも、もう遅いわよ。

 レイが問題のフィルムを取りだして浴衣の中にしまった後だもの。

 ・・・あれ?

 あの子、「上」着けてなかったんじゃなかったっけ?

 そっちって、シンジいなかった?

 ・・・ま、まぁ、いいわ。

 ・・・むぅ・・・。

 負けてられないわね。

 ・・・ま、負けてないわよねぇ?



 帰り道。

 「どうして今日はお祭が多いんだろう・・・。」

 シンジがそんなことを言ってる。

 「あんたばかぁ!?そんなの、わっかるわけないじゃん!!」

 あたしは右手で相田を引きずりながらそう答えた。

 どうでもいいのよ、今日あった色々なことが、楽しかった。

 それで充分よ。

 「今日は七夕のお祭・・・。牽牛と織り姫の会える、一年に一度の、大切な日・・・。かささぎのかける橋を渡って、一年分の思いをかなえるの・・・。」

 レイがシンジの疑問に丁寧に答える。

 性格ねぇ・・・。

 「てっつがくぅ!

 あたしは茶化すようにそう言った。

 「そ、その、鈴原。い、今まで通りで、いいから。と、友達・・・。」

 その明るい雰囲気に紛れて、ヒカリの小声が聞こえた。

 ヒカリの思惑とは逆に、あたし達の会話が寸断され、沈黙が流れる。

 「んなこというたら、怒るで!!

 ・・・だろうね。

 あたしでも怒るわ。

 「わいといいんちょが友達やって、・・・当たり前のこといわんといてや!」

 「・・・あ、ありがとう・・・。」

 ヒカリは指先で鈴原の浴衣の袖を摘んでいる。

 危なっかしいくらい、小さく握っているけど、鈴原はそれが外れないように気を遣いながら歩いている。

 まぁ、鈴原にしては、いい感じじゃない?

 「ふむふむ、トウジ、らぶらぶ、と・・・。」

 いつの間にか復活した相田が手帳に何かメモを書・・・きこむふりをしている。

 ふ〜ん・・・。

 こういうのも、仲がいいっていう証拠なんだろうねぇ・・・。

 「・・・あーいーだぁーっっ!!!!!

 あたしはかなり手加減して相田を叩いた。

 「けんすけぇー・・・・。」

 シンジもあたしと一緒にぽこぽこ叩いている。

 でも、本気で叩いているわけじゃない。

 もしかしたら、これまであたしが目くじら立てていたことも、この子達にとってはただのじゃれ合いだったのかも知れない。

 なんだか・・・馬鹿みたい・・・。

 あたしはぐいっと相田を引っ張った。

 「それじゃ、あたし達、こっちだから。」

 「え?」

 鈍感な馬鹿シンジが何か言いそうになったけど、相田がそれを止める。

 やっぱり、仲のいい友人同士って羨ましいわ・・・。

 「あの、鈴原君、ヒカリさんをお願いね。」

 レイが二人に手を振っている。

 鈴原にとってはヒカリの家に寄るのは遠回りだけど、まぁ、その方がいいでしょ?

 ヒカリは何度も何度もあたし達に頭を下げながら帰って行った。

 「じゃ、僕はここでね。」

 相田もそれを見届けて帰って行く。

 案外こいつが一番まともなのかもね・・・。

 そう思うと、自分が一人で肩に力を入れていたのが一層馬鹿らしく思える。

 「あ、あたしもここでいいわ。」

 あたしはそう言ってくるりと踵を返した。

 「だ、だめぇ。」

 レイがあたしに追いすがる。

 「どうして?」

 あたしはまとわりつかれるのが嫌でその手を振り解いた。

 「だ、だって、アスカさんのお洋服、私の家にあるもの・・・。」

 あ・・・。

 忘れてた・・・。

 「じゃ、綾波の家まで送ったら、あとはどうしよう?」

 シンジは疲れたような声を出した。

 「碇君、アスカさんをまた送ってよ。」

 「うー・・・じゃ、僕も一旦家に戻っていいかな?」

 レイの提案にもシンジはすっきり”うん”と言ってくれない。一旦家に戻れば、おばさまが車で送ってくれる、とかそんなことを計算してるに違いないわ。

 ほんと、ムードの欠片もない・・・。

 「別に一人で帰れるわよ。」

 あたしは俯いたままぼそっと答えた。

 「そういうわけにはいかないよぉ・・・。」

 無理をして笑うシンジの言葉はかえってあたしの気持ちを逆撫でした。

 「だって、あたしは大丈夫なんでしょ?」

 ”大丈夫!アスカがいる!!”なんでしょ?

 「なんのこと?」

 シンジはぼけぼけっとした顔で聞き返してくる。

 「いいわよっ!別に無理して送ってもらわなくても・・・。」

 自分でも、もう意地になっているのが判る。だけど、今更・・・。

 「んー・・・アスカがいいって言うならいいけど・・・。」

 むかっ!

 「ね、ね、碇君、アスカさんは女の子なんだから・・・。」

 レイの言葉にシンジが返した言葉・・・。

 「そうだね、アスカも女の子だからね・・・。」

 あたしはもう止まれなかった。

 「アスカ”も”って何よ!?」

 「だって、アスカ、強いじゃないか。そこらの男の子よりも・・・。」

 判ったわよっ!あんたなんかの顔見に来るんじゃなかったわっ!どうせあたしは来週にはドイツに帰りますよ〜だっ!あとはレイと二人で仲良くやってちょうだいっ!!

 その言葉が口から出たら、おしまいだった。

 「あ、あ、アスカさん?良かったら、今日、私の家に泊まらない?」

 気がつくと、レイがあたしの言葉の前に立ちふさがっていた。

 何を言い出すのよ?

 あたしが我に返ったときにはレイはもう玄関の前で話していた。

 「あのね、今、一緒にアスカさんもいるんだけど、今日、アスカさん泊まってもらってもいいかしら?」

 呆けたようにその様子を見ていたあたしは、突然自分の名前を呼ばれて初めて、それが自分の関係していることだったことを思い出した。

 「そうねぇ・・・ちょっと、あがってもらっていいかしら?」

 「ちょ、ちょっと、レイ、勝手に決めないでよね?」

 あたしは玄関へ向かって駆け上がった。

 と、思ったら、ちょうど目の前にチトセさんが出てきた。

 「あら、お祭り、楽しかった?」

 チトセさんはレイじゃなくてあたしに直接話しかけてきた。

 「あ、は、はい。勿論。」

 慌てて頭を下げる。

 「えぇと・・・あなたは?」

 ・・・。

 「あ、僕綾波さんのクラスメートの碇シンジっていいます。今日は遅くなったので綾波さんを送ってきました。」

 レイ・・・シンジのこと・・・チトセさんにも教えてないの?

 「あらまぁ、それはどうも、うちの子がご迷惑をおかけしました。」

 「いえ、別に・・・。それじゃ、アスカ、綾波、僕はこの辺で帰るよ。」

 シンジがあたし達に手を振っていくのを、あたしは呆然と見送っていた。

 「さて、アスカさん。あなたさえ良ければ私達は大歓迎なんだけど・・・。」

 チトセさんはそんなことを言っている。

 そんなことを言っている・・・。

 そんな・・・ことを・・・。

 「えーと・・・。あ、あたしは、構わないけど・・・。でも、ご迷惑なんじゃ?」

 あたしは辛うじて残っていた自制心でそう答えた。

 「だから、大・歓・迎なの。泊まるかどうかは親御さんとも相談しないといけないからすぐに決めなくても良いわ。とりあえずあがるだけあがっていって。」

 チトセさんはあたしの答えを待たずに、あたしの手を引っ張って中に入った。

 「ちょっとゆっくりしててね。今からじゃろくなもの作れないけど、冷たいものくらいなら出せるから・・・。」

 チトセさんが立ち上がったとき、あたしは不意に思い至った。

 ”電話番号を聞かれたらおしまい”だ。

 「あぁ、べ、別にお構いなく・・・。そ、それより、あ、あたし、家に電話・・・。」

 あたしは慌てて立ちあがった。

 「あ、いいわよ。私からお断り入れておきますから・・・。ゆっくり座っていて。」

 チトセさんの親切はこの場合最悪の申し出。

 「困るのっ!!

 つい大声を出してしまった。

 レイもチトセさんも驚いている。

 「・・・そ、その・・・。う、うちは、厳しいから、連絡も自分で入れないと、後であたしが怒られますから・・・。」

 苦しい言い訳だ。

 「あ、あら、そうでした?ごめんなさいね。そ、それじゃあ、電話、こっちに切り替えますからね・・・。」

 ・・・き、切り替えも・・・ありがた迷惑・・・。

 「あ、あの、アスカさん・・・。」

 「電話するから、ちょっと向こう見てて・・・。」

 あたしはレイを睨み付けてから、電話を見つめた。

 81−3*−@☆&−@☆$#・・・

 「あ、お母さん、今日、友達の家に泊まるから。それじゃ。」

 ・・・ちん

 しまった・・・。

 焦ってて、”ママ”じゃなくて”お母さん”って言ってしまった・・・。

 気付かれたかしら・・・?

 レイは疑わしそうにあたしを見ていた。

 「あ、あの、アスカさんの家って、厳しいんじゃ無かったんですか?」

 な、なぁんだ。

 良かった。そんなことか・・・。

 「厳しいわよ?だから電話したじゃん。」

 あたしはぐっと足を組み直して答えた。

 「き、厳しい割には、あっさり外泊させてくれるんですね・・・。」

 ぶっ・・・。

 そ、そう言われてみれば・・・、ちょっと淡泊すぎたかしら・・・?

 「ま、まぁね。信用されてるからね。」

 あたしはぐいっと胸を張った。

 レイはなんだか知らないけどそれで納得したみたい。

 ヒカリから”信用保証”の話を聞いていて良かったわ。

 からんからん、と音がして、チトセさんが冷たい飲みものと一緒に部屋に戻って来た。

 「お待たせぇ。アスカさん、お母様、何て仰って?」

 「あ、いいそうです。」

 あたしはとびっきりの笑顔でチトセさんに返事をした。

 「あら、良かったわね。厳しいって言われたから、てっきり無理かと思いましたわ。」

 ・・・え、えぅ〜・・・。

 「信用されてるんだって。」

 レイの言葉で沈黙が途切れた。

 「あらぁ。そうでしょうねぇ・・・。うちの子だったら絶対外泊なんかさせませんから。」

 「それって、もしかして、私は信用無いってこと?」

 「無いわよぉ?」

 母娘二人がじゃれあっているのを、あたしは針のむしろに座っているような気分で見守っていた。



<続き>


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