転校生 Special Edition←戻る
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 Eighth step




 ぱしゅ!

 あたしの頭の上を何かが通り過ぎていった。

 驚いて的を見るとあのペンギンが落ちている。

 「やれやれ、この位のハンデでもまだまだ君らには負けんね・・・。」

 相田があたし達の遙かに後ろに立ってそんなことを言っていた。

 へぇっ!

 やるじゃない。

 ううん。

 当てたこと、じゃなくて、よ。

 自分が得意な分野だったら、あたし達と同じ線からじゃなくて、自主的に自分に厳しい条件を課して挑戦するっていう姿勢がいいわ。

 ちょっと見直したわよ。

 相田は景品のペンギンを惜しげもなくあたしにプレゼントしてくれた。

 この辺もあたしの感覚とぴったりよ。

 ものじゃなくて自分を磨くため、っていう辺りがねっ!

 「ありがと!”おたく”の面目躍如ね!たまには役に立つじゃなーいっ!!

 あたしはペンギンを抱いて大はしゃぎしてしまった。

 でも、他人の良いところを見つけた時って妙に嬉しくなるわよね?しかも、それが自分の主義や感覚と一緒だったりしたら尚更よ。

 「他には?」

 相田が眼鏡を煌めかせる。

 「え?いいの?」

 「僕は当てることが楽しみだからね。お望みのものを。なんなりと。」

 なんだか頼もしいわねぇ。

 じゃあねぇ・・・。

 「座った状態でさっきのに当てられる?」

 「勿論。」

 ぱしゅ!

 相田の撃った弾は屋台のおじさんが新しく置いた標的のど真ん中に命中した。

 「凄いわねぇ。じゃ、じゃ、前の段の的の上の方に当ててね、それを利用して後ろの段の的に当てるっていうのは?」

 「あ〜・・・跳弾の飛び方は判らないからなぁ・・・。それと、屋台の銃は威力がないから当てるだけになるよ?3発もらえて、的もこっちで選んで良いならやれるかも。」

 前半の台詞からは相田が”やれる”って言うとは想像しなかったから、あたしはなんだか余計に嬉しくなった。

 「いいわよっ。やってやってっ!

 相田は屋台のおじさんと交渉に入った。”景品はいらないから弾をくれ”という相田の申し出におじさんは一も二もなく合意した。なにしろ、「パーフェクト賞、金一封プレゼント」なんてのがある。相田の戦績から、この調子では赤字確実だったと思うわ。”景品を持って帰ったふりをして裏で返す”という条件でバイト代までくれるんだって。

 「よし、じゃあ、弾も揃ったことだし。いっちょやってみますか。」

 相田が狙いをつけている。

 一度の呼吸の後、一瞬の沈黙。

 ぱしゅっ!

 狙いは違わず、まず前列の的に・・・。

 でも、弾み方が悪くて後ろの列には届かなかった。

 「行けるかも。」

 ぱしゅっ!

 ころん・・・ぱちっ!

 見事、狙い通りに二つの的に当てた。しかも、一つは取れている。

 「凄いっ!

 「いやぁ・・・まだまだ・・・。」

 相田は眼鏡を拭きながら謙遜した。

 こいつがなんでシンジ達と仲間なのか判った気がする。シンジも鈴原もちょっと抜けてるところがあって頼りない。でも、言い方は悪いけど、こういう抜け目のないのが一人いるだけでバランスが取れると思う。逆に、相田一人では強すぎる個性を、シンジとか鈴原のぼんやりした雰囲気が緩和してくれる。

 仲間の中で、いらない人なんていないんだな、って思える。

 なんだか、羨ましいわ。

 あたしも、ヒカリやレイとそういう関係を作れているだろうか?

 ・・・。

 ううん。

 これから、作るの!

 それでいいじゃない?

 あたしはパズルゲームの所を探し出して景品をごっそり取ってきた。

 「馬鹿シンジっ!

 レイと一緒にいるシンジを呼びつける。

 「ほらっ!さっきのおかえし!この天才アスカ様にかかれば景品の一つや二つ取ってくるのは簡単だってこと、思い知って?」

 あたしはシンジにバイオリンを弾く水兵さんのぬいぐるみをプレゼントした。

 シンジの隣で幸せいっぱい、って顔をしていたレイの表情がちょっと硬くなる。

 「ね、碇君、今度は私が何か取りたい。」

 あはは。

 いいわねぇ。

 「え?綾波でも出来るゲーム?」

 「で、でもってなによぉ?ひどくないぃ?」

 レイは不満そうに頬を膨らませた。

 「あははは、レイには無理よ。」

 「出来るもん!」

 他愛もない会話。

 でも、楽しい会話・・・。

 これが仲間だ、って思える、いい友達・・・。

 一生このままでいたい。

 それは無理な話なのかしら?

 あたしは初めて、何故人がどこか空々しいほどに明るいお祭りの空気を求めるのか、その理由を知ったような気がした。



 調子に乗って色々食べてたら本当におトイレに行きたくなったわ・・・。

 「レイ、ちょっと。」

 「はい?」

 あたしはレイの手を引っ張った。

 「あたし、トイレに行って来るから。」

 「あ、はい。どうぞ。行ってらっしゃい。」

 ・・・またこの子は・・・。

 あたしはレイがきょろきょろと綿飴の店を覗き込んでいるのを見て不安になった。

 「どうぞ、じゃないわよ。いいこと??あたしがトイレに行っている間、シンジと相田がヒカリと鈴原のこと思い出さないように、常に違う話題を出すのよ?」

 ・・・。

 聞いてない。

 「こらっ!

 「え。あ。はい。とうもろこしは今食べたくないです。」

 ・・・不安だわ・・・。

 「あのねぇ・・・もし、あたしが帰ってきたとき、シンジがヒカリを探し始めてたら、さっきよりもっと強くつねっちゃうわよ?」

 更に何度か脅かした後、トイレに出かける。

 レイのときはまだ始まったばっかりだったから空いていたけど、今は結構並んでる。

 不安だわ・・・。

 レイ、悩み出すと他のこと見えなくなるタイプだから・・・。

 あたしは自分の番が来てから大急ぎで用を足すと、走ってレイの所に戻った。

 「あぁ、すっきり!」

 あたしが今帰った、ってことで別の話題を出せるわ。

 はい、レイ、こっち見て・・・。

 「あーん、アスカさん、ごめんなさい・・・。」

 え?

 「・・・ん?どうかした?」

 ちょっと嫌な予感はするけど・・・。

 シンジがあたしの方を見る。

 「綾波のせいじゃないよ。ちょっと洞木さんとトウジ、はぐれたみたいなんだ。」

 ・・・。

 ぽこっ!

 あたしはシンジに見えないようにレイのお尻をひっぱたいた。

 ”あんたねぇ!うまく話逸らせって言ってあったでしょ!?”

 ”だ、だから、ごめんなさいぃ・・・。”

 「とにかく、僕らは二人を探しに行って来るから、二人ともここで待ってて。」

 「じゃ、シンジ、僕はこっち!」

 シンジと相田が今にも駆け出しそうにしている。

 あ〜やっぱりレイには荷が重かったか・・・。

 「あの、碇君!

 レイがシンジを呼びとめた。

 もう遅いわよ。

 こうなったらシンジは止まらないわ。

 「何?」

 「あの・・・私達も、一応、女の子なんだけど・・・な・・・。」

 レイはどうにかシンジを引き留めようとしているみたい。

 無駄だと思うけど・・・。

 「大丈夫!アスカがいる!!

 ・・・は、はぁっ!?

 「しっつれいしちゃうわねぇ・・・。」

 あたしはレイの手をぎゅうっと握りしめた。

 なんだか、悔しかったから・・・。

 「ね、あたしだって女の子なんだからさぁ?・・・ってレイ?あんた、一瞬”そうか”って納得したでしょ?」

 「し、してない・・・。」

 ふぅぅ・・・。

 あぁもうなんだか冷たいものが食べたくなったわ。

 頭冷やさないと・・・。

 「二人が戻ってきたら、何とか理由つけて引き止めなさい。」

 あたしはレイに耳打ちした。

 「アスカさんは?」

 「アイス買ってくる。」

 目に見えてがくっと力が抜けてる。

 この子って、役にはまってしまうタイプ?

 ”女の子だから一人にしないで”って自分で言った台詞にどっぷり浸かってるんじゃないでしょうね?

 「何か文句ある?」

 「・・・わ、私の分も・・・。」

 「あ、そ・・・。」

 レイが巾着の財布を探っている。

 そっちの方が危ないわよ。

 「後でいいわ。」

 あたしは大急ぎでアイスを二つ買って舞い戻る。

 戻ってくるとレイの隣にシンジがいた。

 「あ、アスカ、どこ行ってたんだよっ!」

 「買い物。」

 あたしの顔と両手のアイスを順番に見つめる。

 あげないわよ?

 「心配じゃないの?二人とも?」

 何が?

 「もういいよっ!探しに行くからっ!」

 シンジ、案外責任感強いっていうか・・・抜けてるっていうか・・・。

 ヒカリと鈴原がいない、ってことは、二人が一緒にいるかもっていう発想がどうして出来ないのかしら?

 「き、嫌われちゃうぅ・・・。」

 レイが泣き声を上げている。

 「明日になれば忘れてるわ。馬鹿だから。」

 あたしは馬鹿のところを強調してから、レイにアイスを渡した。

 「あ、これ、お金・・・。」

 律儀にあたしにお金を渡す。

 レイはちょっと俯いて辛そうにしている。

 慣れない嘘までついて、それでシンジに薄情な子って思われたら・・・。

 ちょっと、無茶を言いすぎたかしら。

 「悪かったわ・・・。」

 小首を傾げてレイがこっちを見る。

 「どうしても・・・。」

 あれからあたし達はお互い黙ってアイスを舐めた。

 舐め終わったのでアイスの棒を地面に投げる。

 それを見て、レイが何も言わずに拾ってゴミ箱に入れた。

 あ・・・。

 ついドイツにいた頃の癖が・・・。

 「とにかく、次に二人が戻ってきたら、意地でも捕まえるのよ?」

 生じた罪悪感を覆い隠すようにそんなことを言う。

 「は、はい・・・。」

 あたしとレイはお互いに違う方向を探した。

 と、レイがあたしの浴衣の袖を引っ張った。

 「どこ?」

 「あそこです!」

 ・・・。

 レイが見つけたのはやっぱりシンジの方だった。

 走って戻ってくる。

 その反対側から相田。

 「シンジ、いたか?」

 「いない。どこに行ったんだろう?」

 二人とも肩で息をしている。

 ・・・あのさぁ?

 そんなに危ないお祭りなわけ?ここって?

 それなら誘わないでよね?



<続き>


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