転校生 Special Edition←戻る
 by Ophanim進む→
 Fifth step




 あたしはシンジの肩により掛かるようにして引っ張った。

 でもって、空いた手でレイに”あんたもやってよ”ってサインを送る。

 「い、いやその、その日は、父さんも母さんも居ないし・・・。留守番しないと・・・。はは・・・。」

 ほら、これだ・・・。

 だいたい、あたし達がお祭りに出かける予定を出したのは今日が最初でしょ?それなのに、どうしてあんたがおじさまとおばさまの予定まで知ってるのよ?

 あたしが責めるような視線を送っているのを知ってか知らずか、シンジはあたしの視線を避けるようにレイを見た。

 「・・・来ないの?碇君・・・?」

 レイは寂しそうな声と顔でシンジを見つめた。

 ちょ、ちょっとあたしもぐらっと来たわよ、今・・・。

 なかなかやるわねぇ。役者ね、レイ!

 「わ、判ったよぉ・・・。行っていいかどうか聞いてくるよ。ダメなら、諦めてよ、ね?」

 ふ〜ん。

 ・・・逃げようとしてるわね・・・。

 シンジ、この場を誤魔化して”やっぱりだめだったよ”とか言うつもりね・・・。

 「いいわよ。」

 あたしはそう言いながら、手を伸ばしてレイの手を引っ張った。二人でシンジの背中越しに手を繋いでしっかりと両側を押さえる。

 ちょうど犯人を連行する捜査官みたいよね。

 「じゃあ、今日碇君のおうちに行くわね。」

 レイが先に口を開いた。

 やったぁ、何か息あってるじゃない?

 「え?どうしてそうなるのさ?」

 シンジがレイから体を離そうとするのが判ったので、あたしは逆に押し込んだ。

 「おじさまおばさまに直接聞かないと、ねえ?それとも、何?聞かれちゃ困るの?ん?しーんちゃーん?」

 あたしはわざとシンジの顔を覗き込んだ。

 「わ、判ったよぉ・・・。」

 レイが左手を伸ばしてくる。

 あたしはその手をしっかりととった。

 ”うまくいったわね。”

 手にメッセージを込めて握りこむ。

 ”えぇ、良かったですね。”

 強く握り返されたレイの左手がそう答えていた。



 「ただいまぁ。」

 シンジが玄関を開けた。

 先に家の中に入らないと・・・。

 「おっ邪魔しまあっす!!

 あたしはシンジを追い越すようにして身体を中に入れた。そうしないとシンジが玄関先で「え?駄目?残念だなぁ・・・。」とか自作自演するもの。

 これでシンジと一緒におばさまの話を聞けるわ。

 「・・・お邪魔します。」

 レイは少し遅れてあたしとシンジの間からそっと顔を出した。

 「あら、今日はたくさんね。」

 おばさまが顔を出した。

 相変わらず綺麗ね・・・。

 上品って言うか、余裕って言うか、なんだかこっちまでゆったりしてしまうわ。

 「いらっしゃい、アスカちゃん、本当に大きくなったわねぇ?」

 この前来たんだからあれからすぐに大きくなるはずがない。

 これって多分日本の決まり文句なんだろうけど、やっぱりそう言われるとなんだか嬉しい。

 これもやっぱり文化の違いなんだろうなぁ・・・。

 ・・・と、同時にすっかり忘れていたことを思い出した。

 「キョウコは元気?」

 なぁんて聞かれたら、あたし何て答えれば良いんだろう?

 ・・・う、ううん。

 悩むことじゃないわよ。

 そうなったら「元気です。」って答えればいいだけ・・・。

 あたしが悩んでいると、おばさまはあたしの想像しないことを聞いてきた。

 「それと、この前の・・・。えーと・・・。」

 ・・・?

 おばさまの顔をじっと観察する。

 まさか・・・覚えてないの?

 レイのことを?

 「あぁ、クラスメートの綾波さん。」

 あ、綾波さんって・・・。

 あたしはシンジとレイの顔をかわるがわる見比べた。

 ・・・。

 あたしは、早とちりをしていたのかも知れない。

 シンジとレイはまだ”お付き合い”という段階にすら達していないのかも・・・。

 いいえ。

 いいのよ。

 ど、どうせあたしはすぐにドイツに帰るんだから・・・。

 気持ちの切り替えをするのが一瞬遅れた。

 それが致命的だったかも知れない。

 あるいは、運命的・・・。

 「あらま。それじゃ今日はお嫁さん候補を連れてきたの?」

 おばさまのその言葉が、レイにだけではなく、あたしにも言われているものだ、と感じられてしまった。

 久しぶりにどきどきしてる。

 ちらっと盗み見ると、レイも真っ赤になっているのが判った。

 それだけじゃない。

 自分も、シンジを好きだ、と言うことが、判ってしまった。

 このまま、帰りたくない。

 帰れない・・・。

 「あ・の・さ!

 シンジが頭を押さえながら沈黙を破った。

 「あのさ、母さん、今週の土曜のお祭、行ってもいいかな?」

 「あら・・・。その日は・・・。うーん・・・。」

 おばさまは困った顔で考え込んだ。

 あたしはもうお祭りどころではなくなっていた。

 おばさまに、「キョウコと連絡を取りたいわ。」とか「プリンツさん、お時間あるかしら?」なんて聞かれたらそれでもうレッドカードだ。

 「その日は私達もお祭に行くのよ。二人で!

 おばさまはとっても嬉しそうな表情をした。

 「じゃあ、ばかしん・・・っっととと、シンジも一緒に行っていいの?」

 あたしはうっかり”いつもの”呼び名を出しそうになるほど勢い込んで聞いた。

 「そうねぇ・・・。私と”ダーリン”の邪魔しなければ、いいわよっ!きゃっ!

 よしっ!

 あたしは即座に行動を起こした。

 「それじゃ、そういうことで!当日迎えに来ますからぁ!」

 こんな所に長居は無用だわ。

 おばさま、こう見えて結構鋭いんだから・・・。

 「ほら!レイ!行くわよ!!」

 「い、行くってどこに?」

 おばさまに見とれているレイの手を引っ張って走り出す。

 「あ、あら?ちょっと、二人とも!上がっていきなさいよ?」

 冗談言わないでよっ!

 「ユイ叔母様、あたし達、ちょっと行くところがあるんです!」

 上がっていきたそうにしているレイを引きずるようにしてその場を離れる。

 「じゃ、今度またね!」

 ユイおばさまは手を振ってあたし達を見送ると、家の中に戻って行った。

 でも、油断は出来ない。

 シンジに聞いている可能性もある。

 それでも、あの近くにずっといるよりはましだ。

 「ど、どこに連れてくんですかぁ?」

 「ヒカリのところに決まってるでしょ!!」

 あたしは口から出任せを言った。

 ヒカリの家なんてあたしも知らないわよ・・・。

 あっ!

 視界の中に公衆電話ボックスを発見っ!

 あたしは走ったままスピードを落とさずに公衆電話ボックスに駆け込んだ。

 後ろの方でレイが扉に挟まっているけど、気にしてられない。

 「もしもしヒカリ?あたし!ね、うまく行ったわ!今から出て来て!!

 ちーん!

 ・・・ふぅ・・・。

 「あ、あの、アスカさん?」

 レイが挟まれた腕をさすりながら聞いてくる。

 「なによ?」

 「ヒカリさん、どこで待ってるの?」

 ・・・?

 あ・・・。

 ・・・ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!

 ぺこぴこぽこぺこ・・・。

 「あ、もしもし、ヒカリ?いつもの喫茶店よ?判ってるわよね?・・・んもぉおおお!どうして判って無いのよ!

 だって、あたしはヒカリの家も知らないし、放課後一旦帰ってきてからまた学校で待ち合わせる人もいないでしょう?そのくらい判りなさいよ・・・。

 「あ、来た来た。すいませーん。」

 ヒカリは先に喫茶店に着いて待っていた。あたし達を見かけると、メニューを手にとってウェイトレスさんを呼んだ。

 「レイちゃんは?何にする?」

 あれ?

 ヒカリが”レイちゃん”だって・・・。

 ふぅん・・・。

 良かったわね。

 あたしが日本に来た意味があった、ってことね。

 「アスカ、何?」

 うーん。

 「かぷちーの。んと、それにレアチーズケーキね。」

 ケーキセットっていうのが目に入ったからねぇ。

 これはもう、女の子としては頼まないわけにいかないでしょう?

 「ね、レイちゃんは?」

 「あ、あの・・・それじゃ悪いわ・・・。」

 あぁ・・・言うとは思ったけど、やっぱりねぇ・・・。

 「いいの!あたし、今、とっても幸せな気分なんだから・・・。レイちゃんたちのおかげよ?」

 ヒカリはメニューを胸にして、うっとりとした表情を作っている。

 ”虎の狸の母さん用”だっけ?

 でも、これまで門限とかで縛られていたらしいヒカリにしてみれば、それだけでも充分幸せを感じられるのかもね。

 ある意味幸せよ、それ。

 「もらっときなさいよ、レイ。」

 「じゃ、じゃあ・・・苺のムース・・・。」

 ヒカリはブルーベリーのケーキを頼んでメニューを店員に渡した。店員が下がって行く。

 「で、でも、もし鈴原君、来なかったら・・・。」

 「来るわよ。先にシンジが誘えばね。そしてシンジには人ごみに一人で来るほど度胸は無いわ。」

 あたしはぐいっと水を飲み干した。

 そう、つまり、シンジが先に誘い、かつ、鈴原がそれ以外の行動を出来ないようにしてしまえばいい。

 「ありがとう、アスカ・・・。」

 「まだよ。この天才アスカ様に任せておきなさいって。」

 あたしはヒカリの耳に口を近づけた。

 「あのね、あんた、何とかして鈴原達と一緒にシンジの家に来るようにしてね。」

 「・・・どういうこと?」

 ヒカリは不思議そうにあたしの顔を見た。

 「シンジはね、人混みが嫌いなの。もしかしたら、折角集まっても”ゲームセンターに行こう”とか言い出すかもしれないでしょう?」

 「あぁ・・・あぁ・・・。」

 ヒカリは今気がついた、と言う感じで首を縦に振った。

 「全く、日本人ってみ〜んなこんな感じ?なんでみんなこんな簡単なことが判らないの?」

 あたしはちょっと冗談っぽく言ってみた。

 「・・・鈴原のこと、なら、判ったかも・・・。」

 好きな人のことなら・・・。

 その言葉はあたしの胸の奥に響いた。

 つまり、あたしがシンジのことをよく判っているのは・・・。



<続き>


Mail or Back to Index