転校生 Special Edition←戻る
 by Ophanim進む→
 Fourth step




 「線香花火って、人生みたいねって言ってたら、落としてしまって・・・。」

 レイが静かに説明する。

 見れば、地面にはまだ大きな線香花火のコアが煙っていた。時折ちりちり、と舌を出す様子は断末魔のそれに見えなくもない。

 これは確かに辛いかもねぇ・・・。

 「そうね。そういうこともあるわね・・・。」

 下手に否定するよりも、一緒に考えた方が良さそうだわ。

 あたしは一旦目線を二人と一緒にした。

 ここから見える情報を集める。

 鈴原は煙玉を使ってニンジャの真似をしている・・・。

 これを使ってみるかしら。

 「でも、危険の無い、華の無い人生なんてつまんないわ。ほら、あそこでトウジが煙り玉やってるでしょ。あれでも充分花火の役目は果たしているけど、見てて面白いものではないわよね?ただ当たり障り無く、平平凡凡と生きていくのも人生、志半ばで消えていくのも人生、華を咲かせて散っていくのも人生よ。」

 勿論、華を咲かせて、それを続けて、実を成して・・・。

 そうできたらどれだけ良いか。

 でも、それが全て出来る人なんて、数えるほどしかいないと思うわ。

 「全く危険の無い人生、として、何もしない、っていうのもあるけど、ここで火をつけないでおいても、花火はいづれしけてしまうわ。ただ他より長くもっただけで、何もしなかった花火は誰からも祝福も賞賛もされずに消えてしまうの。でも、火がつけば、華の無い煙り玉だって、トウジみたいに大喜びで使いたがる人が必ずいるわ。結果を恐れていてはダメよ。」

 そうであって欲しいわ。

 あたしは自分の希望も込めてそう言った。

 自分は今、充分な危険を冒してここにいる。

 これが全く意味のないことだったなら、なんて無駄な時間を過ごしているのだろう?

 ううん。

 シンジが、レイとつきあっているなら、あたしがここに来たことはもう既に無駄なのかも知れない。

 でも、もし、あたしがここに来てシンジが・・・二人が幸せになる道を示すことが出来たなら、それだけでも充分来た意味がある。

 どうか、うまくいって欲しい・・・。

 あたしは勢い良く立ち上がった。

 「同じ人生なら、輝いてみない?」

 あたしは右手でレイの左手、左手でシンジの右手を取って強引に立ち上がらせた。

 「そうだね。アスカの言うとおりだ・・・。」

 そ、そう言ってもらえると、嬉しいわ。

 あたしは照れ隠しに空を見上げた。

 都会では珍しい綺麗な星空が見えた。

 「私も、頑張ってみようかな・・・。」

 レイの口からその言葉・・・あたしが聞きたかったその言葉が出た。

 あたしは二人を両腕で抱え込んだ。

 「そうそうっ!!!その調子よっ!!

 カシャッ!ピカッ!!

 ・・・。

 ぶ、無粋な・・・。

 誰よ、折角のクライマックスを台無しにしてくれたの?

 「いい絵が撮れたよ、もう一枚、どお?」

 ・・・。

 相田・・・。

 折角良い雰囲気だったのにぃ!!

 なんてことすんのよぉっ!!!

 あたしはずんずん、と相田に近寄っていった。

 相田の向こうから来た鈴原と目で打ち合わせする。

 「相田君、私、眼鏡持っててあげるわ。」

 珍しくレイがちょっと怒った口調で相田から眼鏡を取り上げた。

 「ケンスケ、カメラは大事だよね、カ・メ・ラ。」

 シンジもカメラを取り上げる。

 「何のこと?」

 一人だけ事情の判ってない相田に、無言で蹴りを入れる。

 お仕置きタイムが終わる頃、レイやヒカリのおかげですっかり後かたづけが済んでいた。

 ほんと、いい子・・・。

 あたしも安心だわ。

 安心して、帰れるわ・・・。

 そう思ったら、何故か涙が出そうになったので、あたしはまた空を見上げた。

 星は変わらずあたしの頭上に輝いていた。



 「アスカ、今日も付き合ってくれない?」

 ヒカリが昼休みにあたしに話しかけてきた。

 「ん〜?この前みたいな話だったらお断りよ?」

 とりあえず釘をさしてみる。

 「あはは・・・。ま、まぁ、似たようなものなんだけどねぇ・・・。」

 「じゃ、却下。」

 馬鹿じゃないの?

 な〜んであたしが鈴原と仲良く机並べてお勉強しないといけないのよ?

 それであたしと鈴原が噂になってしまったら困るのヒカリの方じゃない。

 だいたいね、あたしは忙しいの。

 小学校からこっちの全教科の教科書読んでるんだから・・・。

 昨日は”注文の多い料理店”のどこが面白いのか判らなくて何回も読み直しちゃったわ。あと、”第”と”弟”のどこが違うのか必死で探してた〜。全く、こんな些細な違いよく見つけるわねぇ?

 「待ってよ〜。ね、ね、あの、だから、あたしと鈴原がもっと仲良くなるように協力して、っていう話なんだけど・・・。」

 え?

 そ、そうなの?

 「それを早く言いなさいよっ。な〜んだ。そういうことなら喜んで相談に乗るわよ?」

 忙しいんじゃなかったかって?

 別に良いのよ。

 新しく覚えるっていうより、「覚え直す」「確認する」「思い出す」の割合が高いんだから・・・。

 「それじゃあ、この前と同じ喫茶店で良いかしら?」

 「構わないわよ。あ、それと、レイもね。」

 あの二人ものんびりしているみたいだから、この際一気に進展させちゃえば一石二鳥だわ。あ、ほら、あたしだってあれが「四字熟語」だって判ってたら・・・。だって、言葉は知ってるんだから・・・って、もうやめやめっ!過ぎたことを振り返っても仕方ないわ。過去の失敗は全て未来の成功のためにあるべきよ。

 「勿論。・・・アスカ、綾波さんにお願いするときも、一緒に言ってくれる?」

 ・・・せ、世話が焼けるわ・・・。



 「作戦は簡単よ。シンジに鈴原と相田を誘ってもらって、後はあたし達がさりげなくヒカリと鈴原を二人きりにするから。後はヒカリが巧くやってよ?」

 あたしの話をレイは目を丸くして聞いている。

 うーん・・・。

 レイを巻き込んだのは失敗だったかも。

 棒読みとかされたらたまんないわ。

 今日お祭りに誘う話まで煮詰める予定だったけど、ちょっと無理ね。

 「レイ。そう言うわけだから、あたし、何かの機会・・・近いうちに何か見つけて、うまくシンジを誘うから、その時には協力してよ?」

 「あ、は、はい。」

 レイにはとりあえず、鈴原を誘うって言うところだけ承知しておいてもらって、前振り無しで行った方がいいわ。変に緊張されたら困るし・・・。

 「あの・・・ごめんなさい、私、門限で・・・。」

 「あ、そうね。じゃ、また明日。」

 ここから先の話はレイがいない方がいいわ。

 あたしはレイに軽く手を振ってヒカリの方に向き直った。

 「・・・はい・・・。」

 ?

 振り向くと、俯き加減の寂しそうな背中が出ていくところだった。

 「どうしたの?」

 「えーと、多分、アスカがちょっと素っ気なかったからじゃないかな、って・・・。」

 はぁぁぁ・・・。

 「あのねぇ、レイには門限があるかも知れないけどあたしだってそんなに暇でもないのよ?」

 「わ、判ってるわよ・・・。」

 ヒカリも困ったように俯いてしまった。

 ・・・あたしの言い方ってそんなにきついかしら?

 「そ、それにさぁ?門限ってったって、この前は一緒に夜中まで花火してたじゃないの?」

 とりあえず話題を変えてみる。

 「あの時は途中でちゃんと電話入れたみたいだったわよ?」

 ヒカリはなんだか気のない風に返事をする。

 あ、これが素っ気ないってことかしら?

 確かにちょっと気になるかも・・・。

 「だったら、今日だって電話すればいいじゃないの?」

 「そんなに毎日毎日門限破ってたらもっと厳しくなっちゃうわよっ。」

 ヒカリが珍しく大きめの声を出した。

 自分でびっくりしているみたい・・・。

 「ごめん・・・。あたしも・・・門限決められてて、ちょっと、綾波さんの気持ち判るから・・・。」

 ヒカリがぽつぽつと説明したことを掻い摘んで話すと、要するにヒカリにとっての門限とは”信用・保証”の意味を持っているようだった。つまり、この間のような、いざ、という時に”門限破り”をしても、それがやむを得ないものだった、と判断してもらえるためには日頃地道に門限を守っていなければならない、ということらしい。

 「でもさぁ?それだけ大事にされてるってことでしょう?」

 子供の安全を願うのは親の自然な行動じゃないかしら?

 「綾波さんの家はどうだか知らないけど、うちはなんとなく両親の体面のためっていう感じがして嫌だわよ。」

 それっきりヒカリは黙ってしまった。

 時間が経つほどに段々気まずくなるけど、このままじゃあ帰りづらい・・・。

 「ねぇ、一つだけ聞かせて?」

 あたしは押し黙ったままのヒカリに声をかけた。

 「何?」

 相変わらず元気のないヒカリが呟く。

 「どこがいいの?鈴原の?」

 ヒカリは聞いたこっちが驚くほど真っ赤になった。

 「・・・優しい、ところ・・・。」

 ・・・そ、そうですか〜・・・。



 次の日、あたしはシンジとレイと一緒に帰った。

 ヒカリには”今日の帰りにモーション起こしてみる”って説明してある。

 あたしは右隣のシンジを見る振りをしてその向こうに視線を送った。

 ピンと張った背筋、真っ直ぐ前を見つめるスタイル、優雅な身のこなし。

 まるでモデルのようなその物腰は、別にシンジの隣で緊張している、ってことでもないみたい。

 普段の生活が滲み出ているのね・・・。

 あたしはふぅっっと一つため息をついて、話を切りだした。

 「お祭には何着て行こうかな?」

 えっという表情を作るシンジ。

 だめよ、あたしが忘れるわけないじゃない。

 ・・・ま、小学校で習った漢字とか、そう言うのは確かにちょっとだけ忘れてたんだけど〜。

 それよりも気になるのは、”私は関係ありません”って感じで歩いているレイの方だわよ。

 ちょっと、忘れてるんじゃないでしょうねぇ?

 「あんたは?何着て行くの?」

 あたしは我慢できなくなってレイに声をかけた。

 案の定、きょとんとした顔でこっちを見返している。

 「え?・・・私も行っていいの?」

 はぁ?

 ば、ばっかじゃないのぉ?

 「行ってもいいって・・・あんたばかあ?お祭はみんなで行くから楽しいんじゃない!ねえ、シンジ?」

 あたしはシンジに矛先を向けた。

 この際シンジにレイを誘ってもらって、あたしがヒカリを誘うことにしよう。

 ・・・あれ?

 「そ、そうだね。トウジとかケンスケも誘って・・・。」

 妙に人懐っこい笑顔・・・。

 この顔は要注意だわ。

 急に思い出したけど、シンジってそういえば、人が集まる所ってあんまり好きじゃなかったわねぇ。

 ってことは、人の名前出しておいて、自分だけは後で都合が悪くなった、とか言い出す・・・ああっ、もうっ・・・それってシンジの常套手段だったじゃん。

 「そんなこと言ってあんた、お・ま・つ・り、来ないつもりじゃないでしょうねぇ?え?碇シンジくぅーん?

 あんたのやり口はばれてんのよっ。あたしの目をごまかせるとでも思ったの?



<続き>


Mail or Back to Index