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| Sixth step | |
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「ただいまぁ。」
碇君が玄関を開けた。
「おっ邪魔しまあっす!!」
アスカさんは碇君を追い越すようにして身体を中に入れた。
「・・・お邪魔します。」
私は二人の間からそっと顔を出した。
綺麗な玄関・・・って、あれ?
うちと似てる・・・?
初めて見た時もちょっと思ったけど、私の家の玄関と造り・・・ううん、雰囲気が凄く良く似ている。
「あら、今日はたくさんね。」
碇君のお母さんが顔を出した。
思わず”お母さん?”って言いたくなるほど似て・・・ないかな?・・・でも、やっぱり、雰囲気がそっくり。
「いらっしゃい、アスカちゃん、大きくなったわねぇ?」
あ・・・。
そう・・・だった。
碇君とアスカさんは幼馴染なのね・・・。
当然、碇君のお母さんとも顔馴染・・・。
「それと、この前の・・・。えーと・・・。」
「あぁ、クラスメートの綾波さん。」
あ、綾波さんだって・・・。
久しぶりに碇君にそう呼ばれてどきどきしてる。
それ以上に、私の髪のことを全然気にしていないことに驚きと喜びが隠せなかった。
「あらま。それじゃ今日はお嫁さん候補を連れてきたの?」
・・・あ、あの、・・・え、えと・・・。
ちらっと盗み見ると、アスカさんも真っ赤になっているのが判った。
「あ・の・さ!」
碇君が頭を押さえながら沈黙を破った。
「あのさ、母さん、今週の土曜のお祭、行ってもいいかな?」
「あら・・・。その日は・・・。うーん・・・。」
碇君のお母さんは困った顔で考え込んだ。
うーん・・・。
無理?かしら?
私はアスカさんと二人で成り行きを見守った。
「その日は私達もお祭に行くのよ。二人で!」
碇君のお母さんはとっても嬉しそうな表情をした。
仲が良くていいご両親ね、碇君?
「じゃあ、ばかしん・・・っっととと、シンジも一緒に行っていいの?」
アスカさんはうっかり”いつもの”呼び名を出しそうになるほど勢い込んで聞いた。
私はしっかり手を組んで、碇君のお母さんの目を見つめた。
「そうねぇ・・・。私と”ダーリン”の邪魔しなければ、いいわよっ!きゃっ!」
・・・碇君のお母さんって・・・若いわねぇ・・・。
「それじゃ、そういうことで!当日迎えに来ますからぁ!」
私が見とれていると、アスカさんはいきなりそう言ってその場を離れた。
「ほら!レイ!行くわよ!!」
「い、行くってどこに?」
私はぐいぐい手を引っ張られながら答えた。
「あ、あら?ちょっと、二人とも!上がっていきなさいよ?」
碇君のお母さんが慌てて私達を引きとめた。
「ユイ叔母様、あたし達、ちょっと行くところがあるんです!」
あ、アスカさぁん・・・。
私、上がって行きたいですぅ・・・。
「じゃ、今度またね!」
”ユイおばさん”は手を振って私達を見送ると、家の中に戻って行ってしまった。
「ど、どこに連れてくんですかぁ?」
「ヒカリのところに決まってるでしょ!!」
あ、そうかぁ・・・。
でも、別に今じゃなくてもぉ・・・。
アスカさんは走ったままスピードを落とさずに公衆電話ボックスに駆け込んだ。
引っ張られていた私は扉に挟まれてとても痛い・・・。
「もしもしヒカリ?あたし!ね、うまく行ったわ!今から出て来て!!」
ちーん!
・・・どこに?
「あ、あの、アスカさん?」
「なによ?」
アスカさんはとても急いでいるみたい。もう気持ちは走り出してる。
「ヒカリさん、どこで待ってるの?」
ぺこぴこぽこぺこ・・・。
「あ、もしもし、ヒカリ?いつもの喫茶店よ?判ってるわよね?・・・んもぉおおお!どうして判って無いのよ!」
結局待ち合わせはあの時私が行きそびれた喫茶店らしい。
ヒカリさんは私達よりも先に喫茶店に着いて私達を待っていた。
「あ、来た来た。すいませーん。」
ヒカリさんは私達を見かけると、メニューを手にとってウェイトレスさんを呼んだ。
「レイちゃんは?何にする?」
「あの、ココアがいいです・・・。」
・・・?
「あのね、レイちゃん、夏は無いんだって。」
えーー・・・。
「じゃ、じゃあ、ミルクティを・・・。」
「ケーキもつけて良いよ。」
?
「どうして?」
「お礼に今日はあたしがご馳走してあげる。」
え???
「アスカ、何?」
「かぷちーの。」
う・・・お、大人っぽい・・・。
「んと、それにレアチーズケーキね。」
あ、ほ、本当に???
「ね、レイちゃんは?」
ヒカリさんは笑顔で注文を聞いてくる。
「あ、あの・・・それじゃ悪いわ・・・。」
「いいの!あたし、今、とっても幸せな気分なんだから・・・。レイちゃんたちのおかげよ?」
ヒカリさん、心の底から笑ってる・・・。
いいなぁ・・・輝くような笑顔・・・。
「もらっときなさいよ、レイ。」
「じゃ、じゃあ・・・苺のムース・・・。」
子供っぽい?
「あたしにはブルーベリーのケーキね。」
ウェイトレスさんが下がって行く。
「で、でも、もし鈴原君、来なかったら・・・。」
「来るわよ。先にシンジが誘えばね。」
そしてシンジは人ごみに一人で来るほど度胸は無い。
アスカさんは、水を飲み干しながら、碇君の性格まで把握しきって断言した。
「ありがとう、アスカ・・・。」
「まだよ。この天才アスカ様に任せておきなさいって。」
二人はごにょごにょと作戦を練り始めた。
私は一足早目に届いたミルクティをカップに注いでいた。
「あんたには何か希望無いの?」
突然アスカさんが私に聞いてきた。
「え?あ、そ、そう・・・言われれば・・・。久しぶりに浴衣、着てみたいかも・・・。」
私がそう言うと、アスカさんがはっとした表情を作った。
「あ、そうだった!あたしの浴衣、小さい頃のだから少し小さいのよ。作り直してくれる店探さないと・・・。」
え?
「え?そういうのって、自分でやるんじゃないんですか?」
あ、そういえば、お母さんから”仮縫いと本縫い、そろそろ覚えなさい”って言われていたのを思い出した・・・。あぁん・・・また”自分でやりなさい”って怒られちゃう・・・。
「出来るわけ無いじゃん?」
「出来るの?レイちゃん?」
あぅ・・・。
「わ、私のお母さんなら、出来ると思います・・・。」
う、嘘じゃないもん・・・。私はまだできないけど・・・。
「じゃ、今から行っていい?」
「い、今から・・・ですか?」
ちょ、ちょっと、無理・・・。
「そ、そうね・・・。ちょっと、急かもね。じゃ、今日、都合聞いて来て。んで、ヒカリ、あんたは今日の夜に鈴原を誘いな。あ、それから、浴衣で来るようにって。」
アスカさんは私の表情から読み取ってくれたみたい。
早速家に帰って聞いてみないと・・・。
でも、きっと”あんたがやりなさいよ”って言われるんだろうなぁ・・・。
うぅ・・・。
こんなことなら、もっと早く練習するんだったわぁ・・・。
「で、ちょっと、着てみてもらえる?」
「はい。これでいいですか?」
「えぇ・・・もう少し長目にした方がいいわね。この布地でいいかしら?」
「えぇ、もうお任せで・・・。」
い、意外だぁ・・・。
こんなことなら、初めから”お友達の浴衣直して”って頼めば良かった・・・。
私は目の前で展開される光景を、この目で見てもなお信じられない思いで眺めていた。
まだ外は明るいのにぴったりとカーテンが締めてある。
そのままだと(とってもとっても)暑いからクーラーがかかっている。
いつも”電気の無駄だから無駄につけたら駄目”って言ってるお母さんが、そうした。
自分で。
昼の日中から部屋の中に電灯がついていて、その中でお母さんはせっせと作業・・・。
そして、その隣に寄添うように下着姿のアスカさん・・・。
最初から説明すると、”お母さん、私の浴衣、どこにしまったの?”って聞いたのがきっかけ。
「あぁ、あれなら、こっちよ。虫がつかないように・・・って、何に使うの?」
「き、着るの!」
私は自分でも何故か急に恥ずかしくなってそう誤魔化した。
「どこに行くのよ?」
お母さんはじーっと私を見ている。このままだと出してもらえそうに無い・・・。私は仕方なく正直に答えた。
「・・・お祭り・・・。」
お母さんの目は取れて来そうなくらい大きくなった。
「あんたが????」
こくん、と頷く。
「一人で?????」
ふるふる、と首を振る。
「ま、まさか・・・?お友達と???????」
こくこく、と頷く。
「わ、わ、わ!ど、どうしましょ・・・。ちょ、ちょっと待ちなさい、えぇと、その、ちょ、ちょっと、こっち来なさい。」
お母さんは私の手を引いて奥の部屋に連れて行った。手が抜けそう・・・。
「ちょっと、待ってて。」
ごそごそ・・・。
「あ、あった・・・。これ、持って。」
ぽふ・・・。
くんくん・・・。
ちょ、ちょっと、臭い・・・。
何て言うのかな?
防虫剤の臭いが・・・うーん・・・。
「ほらほら、そっち行って。」
どすどすどす・・・。
「ほらほら、服脱いで・・・。」
脱ぎ脱ぎ・・・って!嫌!!
「何してんの?早く!」
「カーテン開いてるでしょっ!絶対嫌っっ!!」
お母さんはそうとう動転していたのか、がちゃがちゃ、とカーテンを閉めた。・・・電気点ける前に・・・。
「く、暗い・・・。」
どたーん。
「いたたた・・・。」
大丈夫?
そんなこんなしながら、私は自分の浴衣の遊びを直してもらって、今の身体にぴったりにしてもらった。らっきぃ。
「で、でも、本当にお願いしたかったのは、私のお友達の浴衣だったんだけど・・・。」
怒られるぅ・・・って思ったら・・・。
「何人?一人?二人???」
それとも、十人?
お母さんは私が答えるまでの間ずっと人数を増やし続けた。
「ひ、一人だと、思うんだけど・・・。」
さっさとお電話しなさい!
って言われて確認取ったら、ヒカリさんは直さなくても入った、っていう返事。
アスカさんは”明日学校終わったらすぐにも来る”って・・・。
そして、今日・・・。
アスカさんが持って来た浴衣は赤を基調にしたオレンジの花柄。帯は黄色で、とても綺麗。
でも・・・。
「なんだか、全然身体に合って無いみたいなんだけど・・・。」
お母さんが首を傾げた。
「えぇ、まぁ・・・。あたしのじゃないですから・・・。」
アスカさんは異様に中途半端な長さの浴衣を着て微笑んでいる。
「これ、ママ・・・って、そ、その、母のなんです。私が大きくなったら着るようにってくれて・・・。」
アスカさんのお母様は日本人に違いないわ。
私はそう思った。
きっと標準的な日本人なんだろう。
浴衣からアスカさんの足と手が”はみだしました”って言う感じで出て来ている。
勿論、浴衣には大きくなっても着られるように”遊び”がしっかり取ってあるんだけど、アスカさんのスタイルはモデルさん並みだから、手足が予想以上にはみ出してしまったのね。
これじゃ、ちょっときつい・・・。
そこで、お母さんは思いきっておかしな部分を切ってしまい、足りない部分を臙脂の布で継ぎ合わせる、という荒療治をすることにしたの。
今日はアスカさんの身体から型を取っておしまい。
「もしかして、大事な思い出の品なんじゃないんですか?」
お母さんは最後にもう一度念を押す。
「思い出・・・。そう・・・ですね・・・。えぇ・・・。」
アスカさんはちらっと私を見た。
何か考えているみたいに見えた。
「でも、いいんです。着られるように、して下さい。」
アスカさんは、笑顔でそう言った。
玄関の扉が締められた後、私は思わずアスカさんの後を追いかけた。
「何か用?」
アスカさんは驚いたように振り向いた。
「あの・・・本当に、いいんですか?切っても・・・。」
おそるおそる聞いてみる。
「どうして?あのままじゃ着られないんだもの、着られるようになった方がいいじゃないの。」
アスカさんの声からも、表情からも普段とは違った感じが見られない。
私は仕方なく帰って行くアスカさんを見送った。
でも・・・。
私はもう一度アスカさんの背中に視線を送った。
心を見透かすことができないか、と真剣に願いながら、目を凝らした。
だってね、感じたの、さっき・・・。
声は、何かを振りきるように、聞こえた。
そして、笑顔は・・・。
笑顔は・・・。
・・・寂しそうな笑顔に、見えた。
<続き>
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