転校生 Crossing Point −type←戻る
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 Fifth step



 ちりちり、と音を立てながらオレンジ色の光の華が咲く。

 あ・・・碇君がまた隣に座ってくれた・・・。

 でも、また離れて行くのよね・・・。

 アスカさんのところに・・・戻るの・・・。

 私の視線の先で、オレンジ色の光は時折激しく華を咲かせ、じじじじ、と震えながら消えていった。

 私の気持ちみたい・・・。

 産まれて・・・だんだん大きくなって・・・そして、小さくなって・・・。

 「花火って人生みたいね・・・。」

 私はちょっとしみじみしてそう呟いた。

 でも碇君は私の言葉が聞こえたのかどうか、すぐにまた次の線香花火を持ってマッチを擦った。

 「でも、綺麗に華を咲かせているよ。みんな、輝いているよ・・・。」

 あ。

 やっぱり、聞いてたのね・・・。

 火のついた線香花火は碇君の手の中で、静かに震えている。それはまるで、新しい、命・・・。

 碇君が産んだ、新しい、命・・・。

 「はい、綾波。」

 え?

 ど、どうして???

 私はためらうように碇君から火の点いた線香花火を受け取った。

 「あ・・・!」

 私が受け取ったとき、弾みで線香花火の芯が落ちてしまった。

 それは何か良くない知らせ・・・。

 私と碇君は、結ばれない運命?

 それとも・・・まさか・・・赤ちゃんを・・・。

 ・・・考えたく、無い!

 私も碇君も一言も言えずにただ黙りこくっていた。

 「なに辛気くさい顔してんのよっ!!」

 私達の様子を見つけたアスカさんがそう言いながら私達の間に強引に座り込んだ。

 ごめんなさい、アスカさん・・・。

 私はすぐに身体を引いた。

 碇君の隣は、アスカさんの場所だから・・・。

 「線香花火って、人生みたいねって言ってたら、落としてしまって・・・。」

 私は静かに説明した。

 「そうね。そういうこともあるわね・・・。」

 アスカさんも声のトーンを少し落として私達の雰囲気の中に入ってきた。

 悪いことをしたわ・・・。

 アスカさんを、こんな辛気臭い話題に巻きこんでしまって・・・。

 私は心から反省した。

 「でも、危険の無い、華の無い人生なんてつまんないわ。」

 え?

 ぎくっとした。

 それって・・・私のことかしら?

 「ほら、あそこでトウジが煙り玉やってるでしょ。あれでも充分花火の役目は果たしているけど、見てて面白いものではないわよね?ただ当たり障り無く、平平凡凡と生きていくのも人生、志半ばで消えていくのも人生、華を咲かせて散っていくのも人生よ。」

 ・・・そ、それは、そうです・・・。でも・・・。

 「全く危険の無い人生、として、何もしない、っていうのもあるけど、ここで火をつけないでおいても、花火はいづれしけてしまうわ。ただ他より長くもっただけで、何もしなかった花火は誰からも祝福も賞賛もされずに消えてしまうの。」

 あう・・・。

 何も、言い返せない・・・。

 「でも、火がつけば、華の無い煙り玉だって、トウジみたいに大喜びで使いたがる人が必ずいるわ。結果を恐れていてはダメよ。」

 ・・・判った・・・わ・・・。

 火を点けてみて、だめだったら、華が無かったら、それはそれで仕方が無いのね?

 でも、それすら恐れていたら、火を点けてもみなかったら、誰も私を必要としてくれないのね?

 とにかく、なんでも、やってみれば、華が無かったとしても、喜んで暮れる人が、きっといる・・・。

 アスカさんは勢い良く立ち上がった。

 「同じ人生なら、輝いてみない?」

 アスカさんは右手で私の左手、左手で碇君の右手を取って強引に立ち上がらせた。

 「そうだね。アスカの言うとおりだ・・・。」

 碇君も感心しているみたい・・・。

 でも、なんだか判る。

 碇君がアスカさんを尊敬するの、判った気がする。

 私もこういう風になりたい。

 ”目の色が、髪の色が違ったからって何よ?”って言える人になりたい・・・。

 「私も、頑張ってみようかな・・・。」

 アスカさんは私達を両腕で抱え込んだ。

 「そうそうっ!!!その調子よっ!!

 カシャッ!ピカッ!!

 くるくる・・・。

 眩しい・・・。

 フラッシュ?

 どうして・・・?

 「いい絵が撮れたよ、もう一枚、どお?」

 ・・・。

 相田君・・・。

 折角良い雰囲気だったのにぃ!!

 ぷんすか・・・。

 相田君が近づいてくると、その後ろから鈴原君が寄って行った。アスカさんは前から・・・。

 うーん・・・止めようかなぁ・・・。

 でも、私もちょっと怒ってるし・・・。

 アスカさんの味方しよっと・・・。

 「相田君、私、眼鏡持っててあげるわ。」

 私は相田君から眼鏡を取り上げた。

 「ケンスケ、カメラは大事だよね、カ・メ・ラ。」

 碇君も同じ気持ちみたい。

 なんだか、嬉しい・・・。

 「何のこと?」

 蹴り蹴り蹴りっ!

 私達が離れるとすぐに、アスカさんと鈴原君が相田君におしおきを始めた。

 いつの間にか葛城先生が近くにいた。

 「仲がいいわねぇ、あなた達6人。」

 え?

 そ、そうかしら??

 それって・・・私と、碇君も入ってますよね??

 「”今”という時間は二度と来ないわ。大切に生きなさい。」

 ・・・はい・・・。

 なんだか今日はとてもためになる一日だったような気がする・・・。

 家に帰るのは遅くなってしまったけど、その分、学校の授業だけでは得られない貴重な経験をしたような気がするの。

 勉強だけが大事ってことも無いわ。

 「さて、火の始末をして帰りますか。」

 加持先生・・・。

 しっかりした足取りで後片付けをする姿はとても頼もしい。授業や普段の生活で見せるだらしなさとは打って変わった、とても頼り甲斐のある、大きな背中・・・。

 「さて、じゃ、誰が生徒を家まで送りますか?」

 加持先生がぐるり、と見まわした時、アスカさんが飛び上がった。

 「だ、だ、大丈夫ですっ!まだそんなに遅くないし!!

 「いや、そんなこと言っても・・・。」

 「だ、だから、大丈夫!5人で帰るから・・・。この中で家が離れているの、ヒカリだけだし。ヒカリはほら、パパもママもここにいるでしょ?」

 アスカさんは必死で加持先生を説得している。

 どうしたんだろう?

 「だ、だが・・・。何かあったら・・・。」

 「鈴原がいるわよ!ここにいる酔っ払いどもより頼りになるわ。」

 ・・・た、確かにそうかもしれないわね・・・。

 日向先生も青葉先生も伊吹先生を囲んで歌なんか歌っているし・・・。

 「判った・・・。だが、気をつけて帰るんだぞ?」

 加持先生も同僚の姿に少し呆れたみたい・・・。

 ・・・あれ?

 でも、それって、私、碇君と一緒に帰れるんだ・・・。

 ちょっと・・・ううん、すごく嬉しいかも・・・。

 私はうきうきした気分になって、大急ぎでお片づけを手伝った。



 今日も昨日と同じく3人の帰り道。

 私とアスカさんと、それに、碇君。

 昨日は碇君じゃなくて、洞木さんだったんだけどね。

 前に行けなかった喫茶店で、洞木さんに頼まれたの。

 ”鈴原君ときっかけを作って欲しい”・・・って。

 やっぱり、洞木さんって鈴原君のこと、好きだったのね。

 それでこの間の花火の時、洞木さんは鈴原君と一緒だったのね・・・。

 でも、きっかけを作るって言っても・・・。

 自分のことさえ出来ない私が、どうやって?

 私はちらっと左隣の碇君に眼をやった。

 碇君はその向こうにいるアスカさんと楽しそうに話をしている。

 「お祭には何着て行こうかな?」

 アスカさん、目を輝かせて・・・。

 幼馴染って、いいわね。

 私はその日、何をしていようかな?

 あ、そこで洞木さんと鈴原君を誘って・・・っておかしいかしら?

 「あんたは?何着て行くの?」

 え?

 私?

 「え?・・・私も行っていいの?」

 邪魔じゃないの?

 私は驚いて目を見開いた。

 「行ってもいいって・・・あんたばかあ?お祭はみんなで行くから楽しいんじゃない!ねえ、シンジ?」

 あ!

 ピンと来た。

 アスカさん、このお祭りに洞木さんとか鈴原君も誘うつもりだ。

 っていうか、碇君に誘わせるつもりだ!

 「そ、そうだね。トウジとかケンスケも誘って・・・。」

 碇君、単純・・・。

 「そんなこと言ってあんた、お・ま・つ・り、来ないつもりじゃないでしょうねぇ?え?碇シンジくぅーん?」

 アスカさんは碇君の肩に寄りかかるようにして引っ張った。

 そうしておいて、碇君から見えない背中越しに私にもやれやれ、と合図を送ってくる。

 「い、いやその、その日は、父さんも母さんも居ないし・・・。留守番しないと・・・。はは・・・。」

 ちょうど良い具合に碇君が私の方を見た。

 えーと・・・。

 「・・・来ないの?碇君・・・?」

 私は目一杯悲しそうな声で碇君の目をしっかり見つめた。

 「わ、判ったよぉ・・・。行っていいかどうか聞いてくるよ。ダメなら、諦めてよ、ね?」

 ・・・逃げようとしてる・・・。

 碇君、この場を誤魔化して”やっぱりだめだったよ”とか言うつもりだぁ・・・。

 「いいわよ。」

 アスカさんは口でそう言いながら、私の手を引っ張って合図を送って来た。

 判ってます。

 私は碇君の右腕をぐいって抱きこんだ。

 「じゃあ、今日碇君のおうちに行くわね。」

 「え?どうしてそうなるのさ?」

 碇君が離れようとすると、アスカさんが反対側から押し返してくる。

 「おじさまおばさまに直接聞かないと、ねえ?それとも、何?聞かれちゃ困るの?ん?しーんちゃーん?」

 「わ、判ったよぉ・・・。」

 私はそっと左手を伸ばした。

 アスカさんの右手とがっちり握手。

 ”うまくいったわね。”

 アスカさんの手がそう言ってる。

 ”えぇ、良かったですね。”

 私は左手を強く握り返して答えた。



<続き>


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