転校生 Crossing Point −type←戻る
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 Fourth step



 私達が学校に戻ってくると、ちょうどいい具合に夜空が広がってきた。

 「校庭でやろう。広いし・・・。」

 碇君がそう言うと、みんな大賛成。

 「あたし、これね。」

 「あ、蒼龍!ずるいぞ!」

 「うっさいわねぇ・・・。」

 「あ、あのさ、鈴原、何がいいの?」

 「わい?うーん。ほなら、これか?」

 あっという間に花火が無くなって行く。

 でも、線香花火、残ってる。

 人気無いのかな?

 私はその方がいいけど・・・。

 あれ?碇君は?

 碇君は一人で下駄箱の方に向かっていた。

 あ、お水を用意するんだ。

 「碇君、手伝うわ。」

 私は碇君の後を追いかけた。

 「じゃあ、そっちのゴミ入れ持ってきてもらえる?花火の燃えさし集めるから。」

 碇君はもう下駄箱掃除用のバケツに水を入れていた。

 へぇ・・・。

 碇君って、ちゃんと躾がされてるのね。碇君のお母様って、きっとしっかりした人なんだわ。優しそうなイメージだけど・・・。案外厳しかったりして。

 ぴゅっ!!

 ひゃあ・・・。

 私達が玄関を出ると、私の横を何かがものすごい勢いで飛んでいった。

 碇君、ぶつかったかも?

 大丈夫かしら?

 「あーっ!!よけるな!!馬鹿シンジっ!!!!

 アスカさんの声が聞こえる。

 話している言葉とは裏腹の、楽しそうな声・・・。

 でもね、人に向けてロケット花火投げたらだめよ?

 危ないんだから・・・。

 「アスカぁ・・・。まだ始めちゃだめだってば。」

 ???

 碇君???

 そういう問題なの?

 碇君、ねぇ、それでいいの?

 目とか当たったら、本当に危ないのよ?

 アスカさんだから、なの?

 ねぇ・・・。

 碇君はそのまま何ごとも無かったかのように校庭に出ようとした。

 「こらっ!!!

 碇君を呼び止めようとした私は、背後から大声を出されて驚いて立ちすくんだ。

 「誰?花火なんかしてるの?」

 赤城先生・・・。

 振り返ると奥の方からぞろぞろと先生方が出ていらっしゃった。

 そういえばさっき伊吹先生が今日は先生方も残って何かするからって言ってらした。

 それでお手伝いしていただいたんだから・・・って?

 な、何この匂い?

 お、お酒臭いよぉ・・・。

「学校で花火をするなんてけしからんな。」

 日向先生がロケット花火の芯をぴらぴらさせながら文句を言ってるぅ。

 でも、顔、真っ赤・・・。

 「そうよぉー?碇くーん。マヤも混ぜて欲しいなぁ・・・。」

 い、伊吹先生っ!!

 碇君にくっつかないでっ!!

 「あたし抜きでお祭始めるんじゃなーいっ!!!

 葛城先生まで・・・。

 い、碇君は私のですっ・・・って言えたらなぁ・・・。

 「そうそう。祭はみんなで楽しく、な。」

 ぽんっと、肩に手を置かれて見上げると、加持先生がにこやかに微笑んでいた。

 加持先生もお酒臭いけど、酔ってらっしゃるようには見えない。

 お酒、強そう・・・。

 「で、でも、青葉先生や日向先生は反対してるし・・・。」

 え?

 碇君、二人とも行っちゃったよ?

 ほら。

 「いやあ、伊吹先生、花火が似合うなあ・・・。」

「綺麗だよ、マヤ・・・。」

 「あら?嫌だ!青葉先生、そんなのいつものことよぉ!」

 「と、いうわけでぇ!シンちゃーん。花火とビールの追加、お願いねぇー。」

 葛城先生・・・。

 碇君、お酒売ってもらえるはず、無いでしょう?

 ・・・あ、でも・・・。

 碇君なら、大丈夫。

 きっと、大丈夫。

 私とは違うから・・・。

 信用が、違うから・・・。

 碇君は自然な足取りでお店に向かっていく。

 私はそっとその場を離れてアスカさん達の方に向かった。

 蝋燭に火を点す。

 「あ、蝋燭あったの?」

 洞木さんが私の隣に寄ってくる。

 「あ、あのさ・・・今度、また時間あったら、放課後、つきあってね?」

 小声で囁くと、また足早に離れて行く。

 ・・・そう・・・よね・・・。

 今の私には、たくさんお友達がいるんだもの。

 気にすること、無いわ・・・。

 私は線香花火の束から一本花火を引きぬいてそっと火を点けた。

 小さな火の玉がちりちりと音を立てながら大きくなっていく。

 私に、私のイメージに、似合う?

 さっきの碇君の言葉を思い出して、幸せな気持ちになる。

 私の気持ちに合わせるように、花火はますます元気に火花を散らしている。

 ひとしきり火花を散らし終わると、あとは小さくなっていくだけ。

 さっきまで元気だったのをすっかり忘れたかのように・・・。

 ・・・?

 忘れる・・・?

 ・・・あ!

 お母さんに電話しないと・・・。

 私は大急ぎで学校の公衆電話まで走った。

 「もしもし、綾波ですが・・・。」

 「え!あ。そ、その・・・わ、私も・・・綾波・・・。」

 なんだか、照れちゃう・・・。

 自分で自分の名前言うなんて・・・。

 「・・・どちらの綾波さん?」

 い、意地悪なんだから・・・。

 「そ、そのぉ・・・娘のぉ・・・。」

 「はぁ?うちには連絡も無く門限破っちゃう娘はいませんがぁ?」

 あ、怒ってるのかなぁ・・・。

 「ご、ごめんなさい・・・。その、今、学校で・・・。」

 「え?学校?まだやってるの?今日は調理部だけだって言ったじゃない?もうご飯作っちゃったわよ?すぐに帰って来る?後で温める?」

 やっぱりちょっと怒ってるかも・・・。

 すぐに、帰ります・・・。

 今までだったらすんなり出てきた言葉が、どうしても出て来ない。

 せめて、碇君が帰ってくるまで・・・。

 「あ、あの・・・後で・・・。」

 「へぇ?珍しいわね?よっぽど楽しいのかしら?」

 お母さんは不思議そうな声を出した。

 「そ、それが、その・・・急に花火することになってしまって・・・。先生方も混じってて・・・。」

 急に決まったことでも、もとはと言えば私が提案したことだから・・・やっぱり、私のせい・・・。私は事情を詳しく説明した。

 お母さんから返事は帰って来ない。

 しばらく沈黙の時が流れた。

 や、やっぱり、帰ろうかしら?後で怒られるかもしれないし・・・。お父さんも心配するだろうし・・・。

 「あ、あ、で、でも、もう、いいの・・・もう、帰るから・・・。」

 結局私は自分の心に嘘をついた。

 私が我慢すれば、いいことだから・・・。

 「なぁに言ってるのよ、たまにはいいじゃないの。お父さんには私から言っておくから楽しんで来なさい。あんまり遅くなったら迎えに行くから電話しなさいよ。」

 お母さんの返事に私は驚いた。

 「え?いいの?」

 「いいからいいから。火傷だけ注意しなさいよ。」

 「そ、それはするけど・・・。本当にいいの?」

 まだ信じられない・・・。

 「いいって言ってるでしょ?それとも、もう帰りたいの?」

 ま、まさか!

 「そ、そんなことないけど・・・。でも、もし私が嘘ついていたりしたら・・・。」

 「なぁに?あんた、嘘ついてんの?」

 「ち、違うけど・・・。」

 電話の向こうからため息が流れてきた。

 「じゃ、いいじゃないの。信用してますよ。自分の娘ですもの・・・。」

 お母さんの言葉はとても暖かかった。

 「・・・ありがと・・・。」

 それ以上は胸が詰まって続かなかった。



 碇君が戻ってきた。

 「綾波、また線香花火、買って来たよ。」

 え?

 「あ、ありがとう・・・。」

 私がお礼を言うと碇君は私のすぐ隣に座った。

 あ・・・肩が触れてる・・・。

 頬が熱くなって来たのが判った。

 碇君・・・どうして私のところに・・・。

 ・・・って思ってたら、また立ちあがって行ってしまった。

 なぁんだ・・・。

 蝋燭の火がお目当てだったのね・・・。

 ちょっとがっかり・・・。

 私はまた線香花火を取り出した。

 あ・・・蝋燭、消えてる・・・。

 「はい、綾波。マッチあるから・・・。」

 碇君・・・。

 そっか、蝋燭が無くなりそうだったから・・・。

 「あ、ごめんなさい・・・。」

 私が碇君の方に手を伸ばしたら、碇君はひょいっとマッチを自分の背中に隠してしまった。

 「・・・綾波ぃ・・・。」

 ?

 碇君、どうして怒ってるの?

 「・・・あ、ごめんなさい・・・その、ありがとう・・・。」

 「はい、それでいいよ。じゃ、ご褒美に僕が火点けてあげる。」

 え?

 いいのに・・・。

 あ・・・。

 碇君の手が私の指に触れた。

 だけなのに・・・。

 私の頬はそれだけで、火を点けられそうなほど熱くなった。

 ぽんっぽんっ!ぽんっぽんっ!!

 私の今の心臓の音を表すように、景気の良い音が鳴り響いた。

 「やっぱ、花火はこれよこれ!

 アスカさんは打ち上げ花火をぽんぽんあげて大喜びしている。

 さっきまで追試を受けて沈んでいた同じ女の子とは思えないくらい元気一杯。

 「そうよね。ね、鈴原、火つけてくれない?」

 洞木さんはそう言って手持ち花火を持って鈴原君の所に行った。

 「そんなん、いいんちょ、ロウソクでつけりゃええやん。」

 鈴原君は面倒臭そうにマッチを擦った。洞木さんの持った手持ち花火が光の華を咲かせている。

 洞木さんは嬉しそうにしている。

 ???

 もしかして、洞木さん、鈴原君、好きなのかな?

 私は碇君に火を点けてもらった線香花火を見つめた。

 「私はこっちの方が好き。」

 碇君に、似合うって言ってもらえたし・・・。



<続き>


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