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 Third step



 今日の夜に天文部の集まりがあるから、お料理中。

 あの・・・その・・・アスカさんの・・・残念会も、兼ねて・・・。

 「綾波、そこのみりん取って。」

 碇君がフライパンを使ってる。

 ん。

 あ、あった。

 でも、碇君、どれに容れるつもりなんだろ?

 空いてる容器、無いじゃない?

 あ、そうか。碇君、いつも計量カップで量ってるんだった。えーと、計量カップは・・・。

 「はい、碇君。みりんと計量カップ。」

 「あ、ありがとう。綾波。綾波って気が利くね。」

 碇君の微笑みが私に向けられてる・・・。

 「そんな・・・。」

 わ、私はただ・・・あ、で、でも、私、誉められたのかな?

 「あ、あの、ありがと・・・。」

 ちょ、ちょっと、遅れちゃったけど・・・。

 碇君は驚いたように目を丸くした。

 ?

 どうしたのかな?

 「綾波がありがとうっていうの聞いたの初めてだよ。その方がいいよ。」

 「あれ?そう?今まで、私、なんて言ってたかしら?」

 言って無かった?

 そうだっけ?

 「今まではさ、なんか、”ごめんなさい”とか、なんかそんなこと言ってたんだよ、綾波は・・・。でも、やっぱり、”ありがとう”の方が、うーん、言われる側から言わせてもらうと、嬉しいかなって思うよ。」

 ・・・そう、そうよね・・・。

 私だって、”ありがとう”って言われた方が嬉しいもの・・・。

 あ!

 もしかして、私、碇君に助けてもらった時も”ありがとう”言って無いのかな?

 ごめんね、碇君。

 今度から、ちゃんと”ありがとう”言うね。

 「判ったわ。碇君、ごめんね。」

 碇君の目が厳しくなる。

 どうして?

 あ・・・。

 わ、私、また・・・。

 「・・・あ、ありがとう、碇君。」

 あ、改まって使うと、け、結構照れるのね。

 「あのおー?済みましたあ?あたしもみりん使いたいんですけどお?」

 洞木さんがわざとらしく大声を出して私と碇君の間に入ってきた。

 「今度、またね。」

 離れ際に私の耳元で洞木さんが囁いた。

 「え?あ、う、うん。」

 でも何を?

 そう聞こうとした時、

 「うふふ、仲いいわね。まるで新婚さんみたい。」

っていう伊吹先生の声。

 そ、そ、そんな・・・う、嬉しい、けど・・・でも、碇君には、アスカさんが・・・。

 「でも、先生、嬉しいわ。碇君、家庭科トップだったでしょう?」

 「これも伊吹先生のおかげですね。」

「肝心の数学はダメみたいだけどねえ?」

 ちらっと見上げると、碇君はもう伊吹先生と別に話に入っていた。洞木さんもそっちの話題の方が気になるのね。

 そっか・・・。碇君はあんまり嬉しくないんだ。

 そうだよね、私と噂になっても、困るものね・・・。

 「でも、綾波さん、すごいわね。これで二回続けて一番ね。」

 伊吹先生・・・。

 そっちより、さっきの言葉の方が嬉しかったです・・・。

 「・・あの。・・ありがとうございます。」

 それでも、私は無理に笑顔を作る。

 試験が良くても、何も良いこと、無いもの・・・。

 「綾波、今度勉強教えてよ。僕たち、試験前になると勉強会開いているんだけど綾波に教えてもらえば、もうちょっと成績良くなるかもしれないし・・・。」

 ?

 碇君???

 ・・・えへ・・・。

 良いこと、あるかも・・・。

 私は小さく、頷いた。

 「そうやって試験前に一夜漬けしようとするから3馬鹿なのよっ!!

 洞木さんが大声をあげた。

 い、いいじゃない。私はそれだけ良いことあるんだし・・・。

 で、でも、なんだか凄く怒ってる・・・。

 「3馬鹿ね・・・。あと二人は今日は追試?」

 伊吹先生は口に手を当てて、笑い声をこらえながらそう言った。

 「ケンスケは3科目、トウジは6科目追試です。」

 碇君が小さい声でそう言った。洞木さんがますます機嫌が悪くなる。

 「本当に馬鹿なんだから。あたしが恥ずかしくなっちゃうわよっ!!

 ・・・どうして?

 洞木さんはホイップクリームに八つ当たりして力任せに混ぜ繰り返した。

 「6科目も追試なんて全校で最悪じゃ無いの?全く・・・。」

 ぶつぶつ文句をいいながらケーキの生地を泡立てる。

 それって・・・鈴原君のこと?

 「いや、その、なんて言うか・・・最高9科目追試の人もいるから・・。」

 あ!碇君、ひどい!

 アスカさんに口止めされてるのに・・・。

 「嘘!?誰、それ。あたしの知ってる人?」

 洞木さんは興味を引かれたのか手が止まった。

 「いや、その・・・アスカ、だよ・・・。」



 「全く何なのよっ!!あの問題、さっぱり判んないじゃ無いのっ!!!

 アスカさんは試験から帰ってくると早速私達の作った食べ物を口にした。鈴原君と相田君も。

 よかった。

 美味しそうに食べてる・・・。

 「だってさぁ?”これはペンですか?””いいえ、机です”・・・って、そんなこと聞くなって言うのよ?見れば判るでしょ?一体どこのどいつがペンと机を間違うのよ??頭おかしいんじゃないの?」

 それで”見れば判る”って答えたの?

 うーん・・・。

 それは・・・まぁ・・・間違いないけど・・・。

 でも、私も今まで機械的に答えていたけど、良く考えるとおかしな問題っていっぱいあるのかもね。

 試験だけできても、しかたないかもしれないわ・・・。

 3人は少しやけ気味に食べている。

 でも、私達、たくさん作ってあったから、大丈夫。

 碇君と洞木さんと私は3人とは別に取り皿を作っておいて一緒に食べた。

 「大学出の蒼龍でも解けん問題、わしらに解けっちゅうのが間違うとる!!」

 鈴原君が安心したように相田君に話す。

 勿論、冗談だと思うけど。

 「馬鹿トウジっ!あんたらと一緒にしないでよ!!あたしは問題になんて書いてあるか読めなかっただけよっ!!」

 ・・・アスカさんってちょっとした冗談でも負けるの嫌いなのね・・・。

 「ああっ腹立つっ!!もうっ!馬鹿シンジっ!!こんな暑苦しいとこにいないでどっか連れてきなさいよっ!!!

 アスカさんは怒ってるみたい。

 でも、見かたを変えれば、そうやって碇君に甘えているってことなのよね。

 だって、同じように”馬鹿”って言っても、さっき鈴原君に言っていたのとは随分響きが違うもの。

 碇君も指で頬を掻いているくらいで全然迷惑そうにしていない。

 「お祭は今日じゃないしなぁ・・・。」

 「お祭?お祭いつやるの?」

 アスカさんは目をきらきらさせて碇君を見ている。

 「来週の末だよ・・・。」

 「あたしは”今日”やりたいの!何とかしなさいよ、このぶぁかしんじっ!。」

 蹴りっ!

 うーん。

 本当に、二人とも仲がいい。

 私が碇君とアスカさんを羨ましそうに見ていると、碇君の困ったような目と視線が合ってしまった。

 なんとかして?って感じで・・・。

 どうしよう・・・あ、そうだ!

 「・・・花火なら、ここで出来るわ・・・。」

 それを聞いた碇君は急に嬉しそうな顔になる。

 「そうだよ、そうしよう!ね、アスカ?花火しよう・・・。」

 ・・・アスカさん・・・なのね・・・やっぱり・・・碇君の、大事な人・・・。

 碇君は自分から先に立ってアスカさんを花火の買い出しに連れて行く。

 私達もその後から着いて行く。

 「やっぱり花火は打ち上げに限るわよ・・・。」

 「あ、アスカ・・・。予算オーバーしちゃうからそんなに買っちゃだめだよ。」

 アスカさんが棚からどっさり花火を買い物籠に入れる。買い物籠を持っているのは碇君。碇君はアスカさんが入れた花火を丁寧にもとの位置に戻して行く。

 きゃいきゃい言いながら買い物をする姿は、ちょうど新婚の夫婦の買い出し風景に似ている。

 「仲いいわよねぇ?」

 そういう洞木さんの何気ない声が妙に痛い。

 「幼馴染やのうて許嫁ちゃうん?」

 「あるある。」

 鈴原君と相田君の囁きが耳に響く。

 「聞こえてるわよっ!

 げしっという音を残して、鈴原君が脛を押さえてうずくまった。

 「あんたらねぇ!」

 「ちょ、ちょっとアスカ・・・。」

 アスカさんが鈴原君の向う脛を蹴って怒れば、洞木さんと相田君が二人の間に割って入る。

 「ね、綾波は何かやりたい花火ある?」

 碇君はアスカさんのこういう騒動には慣れているみたいで、この隙に余分な花火を棚に戻している。

 「え・・・?私?・・・線香花火、あったら、嬉しい・・・。」

 音がするのは、恐くて・・・。

 あ、でも、花火セットにちゃんと入ってる。よかった。

 「線香花火ね。判った。追加しておくから。」

 え?

 碇君は籠の中に線香花火だけの花火セットを足してくれた。

 「で、でも、予算とか・・・?」

 「いいのいいの。アスカの頼んだのに比べれば・・・。それに、線香花火って、綾波のイメージに良く合ってるよ。」

 そ、そう?

 嬉しい・・・。

 お店の中にアスカさん達の大声が響く中、私は一人、どうしても顔に浮かんでくる微笑を隠そうと必死だった。



<続き>


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