転校生 Crossing Point −type
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 First step



 ざわざわという人のざわめき。

 メモを取る鉛筆の音。

 時々聞こえる、押し殺したような笑い声・・・。

 まるで舞台か何かを見ているような雰囲気・・・。

 でも、今、授業中なの。

 今日の最後の授業は社会。それも、歴史の方。

 葛城先生の社会の授業はとても騒がしくなる。

 先生、全然注意とかしないから・・・。

 でもね、葛城先生、冗談を混ぜたり教科書に載っていない話とかしてくれるから、全然退屈じゃない。

 本当のこと言うとね。試験勉強だけなら、一人でやっていた方がずーーーっと効率的に進むの。

 でも、こうして、みんなと同じ空間にいて、同じ授業を聞いて、同じ時間を過ごすのが、とても楽しいの・・・。

 結局誰からも話しかけてもらえなくても、休み時間を一人で過ごしても、お昼を一人で食べることになっても、今の方が、良い・・・。

 みんながいるから・・・。




転校生
Special Edition
Crossing Point
−type
presented by Ophanim





 私はなんともなしに教室を見まわした。

 ?

 誰かが葛城先生の目を盗んで隣の人に何か紙を渡していた。

 

 私は思わず息を呑んだ。

 これって、もしかして・・・カンニング???

 ・・・なわけ、ないか・・・。

 今、試験じゃないし・・・。

 葛城先生が何か質問してたわけでもないし・・・。

 少し冷静になって、もう一度周りをよーく見る。

 あ、なーんだ。

 これって、会話?

 授業中におしゃべりしたら、怒られるもんね。なるほどぉ。

 みんな考えるんだなぁ・・・。

 あ、あんなに遠くの席まで届いてる・・・。

 ふぅん・・・。

 そう判ったら、なんだか少し寂しくなった。

 私はそういうのをしたことが無い。

 お手紙をやり取りする相手がいないから・・・。

 それが遠くの席まで届くってことは、それだけお友達が多くいるってことだと思うし・・・。

 私のお友達って言ったら・・・。

 ちらっとアスカさんを見る。

 あ、ちょうどアスカさんもお手紙、見てる・・・。

 あれって、どこから来たんだろう?

 私が見ていると、アスカさんはくるっと向こうを向いた。遠くから見ても判るように、大きく頷く。

 その視線の先で洞木さんが両手を合わせていた。

 いいなぁ・・・。

 アスカさん、私より後から来たのに、もうたくさんお友達がいるのね。

 あんなに遠くから、お手紙が届くなんて・・・。

 アスカさん、綺麗だもんね。頭も良いし、性格もとっても明るいし・・・。

 しかたないわよね?

 考えてもしようの無いことだから・・・。

 ぽすっ!

 俯いた私の目の前に白い手が伸びてきた。

 ほえ?

 アスカさんだった。

 さっきまで読んでいたお手紙を私に回してきたの。

 え、えーっと・・・これって・・・どうすればいいの?

 と、とりあえず、お手紙は畳んで・・・。

 他人のお手紙、読むなんて、そんなこと・・・。

 あ、そうか、洞木さんに返せば良いのかな?

 で、でも、私の席の隣でアスカさん以外のお友達って・・・い、碇君しかいないよ???

 私は思わず生唾を飲み込んだ。

 心臓が凄い勢いで鳴ってる・・・。

 も、もし、碇君が手紙を回してくれなかったら、わ、私がどう思ってても、碇君は私をお友達だと思ってないって、ことよね???

 ね、ね、碇君。私達、お友達だよね???????

 「あ、あの、碇君・・・これ・・・。」

 私は葛城先生に見つからないように、丁寧に折り畳んだお手紙を碇君に渡した。

 「ん?」

 碇君はノートを取っていた手を休めて、お手紙を手に取った。

 お願い、届けて・・・。

 碇君は機械的に隣の人に渡そうとして・・・困ったような顔をすると、私に返してきた。

 あぁ・・・。

 やっぱり、私達、お友達じゃないの?私は、お友達だと思っていたのに・・・あ、も、勿論、それ以上でも、良いけど・・・。

 「あのさ、これ、綾波宛だから、綾波が読んだら良いんだよ?」

 え?

 そ、そうなの?

 碇君は私の方に身体を寄せてきた。

 「ここに宛先が書いてあるでしょ?で、アスカがもう読んだんだね?線で消してあるよね?だから、次は綾波。綾波が出す時は、この辺に宛先を書いて回すの。判った?」

 「とーってもよーく判ったわ。」

 え?

 私達の間にぬっと手が伸びてきた。

 「なーにやってんのかしらぁ?」

 か、葛城先生・・・。

 「仲いいわね、二人とも?こーんなに顔寄せ合っちゃって、”愛”でも語り合ってた?」

 そ、そんな・・・そ、そうだと、いいけど・・・。

 私が俯いて固まっていたら、碇君が

 「ち、違いますよ!

って、答えてくれた。

 「そ、その・・・綾波が、判らないことあったから、教えてただけです・・・。」

 ・・・うーん・・・。

 嘘じゃない、わよね?

 「あ、でも、私が悪いです。すみません・・・。」

 私は正直に謝った。

 「ふぅん、そうなの?ま、どっちにしろ、これは没収ね。じゃ、レイちゃんは後で社会科準備室まで資料運ぶの手伝ってねぇ。」

 ふえ・・・。

 「は、はい・・・。」

 私は葛城先生が持ってきた大量の資料集の山を眺めてちょっと目眩を感じた。



 きーん、こーん・・・。

 「じゃ、レイちゃん、これ持って来てねぇ・・・。」

 「はい。」

 葛城先生の資料は本当に山みたい・・・。

 うんしょ・・・。

 よろよろぉ。

 ふら・・・。


 む、無理かも・・・。

 私の額にうっすらと汗が浮かび出す。

 葛城先生、力あるのね・・・。

 こんな重いもの持って授業に来るなんて。

 「台車、あるわよ?」

 あら・・・。

 葛城先生はあっさりと種明かしをした。

 は、恥ずかしい・・・。

 私はいそいそと本を台車に移した。

 ころころころ・・・。

 「じゃ、これ、返すわ。」

 廊下に出るとすぐに、葛城先生は私に洞木さんのお手紙を返してくれた。

 「え?いいんですか?」

 「手紙、何て書いてあったの?」

 私の質問には答えず、葛城先生は優しい声で私に聞いた。

 「は、はい・・・。”放課後、一緒に喫茶店に来て欲しい”と書いてあります。」

 私は少し緊張しながら答えた。

 「そう、良かったわね。友達、できたみたいで・・・。ありがとう、ここでいいわ。」

 社会科資料室に入ると、葛城先生は私の頭を撫でてくれた。

 「・・・お友達?で、いいんでしょうか?」

 自信が無いの。

 「立派な友達よ?折角誘ってくれてるんだから、行ってらっしゃい。」

 葛城先生は台車からたくさんの資料を書棚に戻している。

 私は思わず手伝っていた。

 「早く行きなさい?あ、それとも、待っててくれたら友達、置いて行かれたら友達じゃない、とか考えてる?」

 葛城先生はちょっと意外な質問をしてきた。

 「そ、そんな・・・私、できません。お友達を試すようなこと・・・。」

 私は強く首を横に振った。

 「でしょうね。でもさぁ、一つだけ聞いていい?どうしてあんなことしたの?いくらシンジ君と仲が良くたって、自分に回ってきた手紙を他人に見せたりしたら、それこそ友達無くすわよ?」

 ?

 どういうこと???

 「あのぉ・・・どういうことでしょうか?」

 「だ・か・らぁ!レイちゃん、あなたさっき、碇君に手紙見せようとしたでしょ?だから慌てて取り上げたんだけど、だめよ?あぁいうのは他の人に見られないように折ってあるんだから・・・。」

 ???

 どうも話がよく噛み合って無いみたい・・・。

 「だから、私は本当にどうしたらいいのか判らなくて・・・。私、今まで、ああいうの、もらったこと無かったんです。」

 私がそう言うと葛城先生は目を丸くした。

 「うっそぉ!?なんで?一回も?」

 「えぇ・・・。だから、お作法とか判らなくて・・・。」

 私がそう言うと葛城先生は”くっくっくっ”と笑った。

 私、何か変なこと言った?

 

 あれ?

 それじゃ、葛城先生・・・。

 「あの、それじゃ、先生は私を心配して?」

 私から手紙を取り上げたんじゃなくて、私が碇君に見せてるんじゃないってみんなに言おうとしたのかしら?

 「ま、そうね。ああいうのは自分一人で見るものだから・・・。」

 葛城先生は表情を隠すようにまた台車から本を書棚に移す作業に戻った。

 「あ、その・・・す、すみません。後で洞木さんとアスカさんにも謝っておきます・・・。」

 「うーん。謝るなら、今の事情を説明して、二人に手紙の内容があなたとシンジ君の二人で解決するものだったことにしてもらいなさい。」

 ?

 どうして?

 「・・・判らない?あの二人はまぁ、ハプニングくらいなつもりでいるかもしれないけど、クラスは彼女達だけじゃないからね。あなたの様子を見てて、”レイちゃんはなんでもかんでもシンジ君に相談する人だから、手紙を回すのを頼まないように”とか思われたら嫌でしょ?」

 あ、そうか・・・。

 あれ?

 「で、でも、どうして先生はあの手紙が碇君と関係無いって判ったんですか?」

 確か先生は中身を見て無いのに・・・。

 「あれ、ヒカリちゃんからアスカちゃんに行った奴でしょ?その後でアスカちゃんがヒカリちゃんに合図して、それからレイちゃん。そうよね?そしたら、十中八九、男関係の恋愛相談だもの、シンジ君に見せて良いわけないじゃないの。」

 ええっ!?

 そ、そんなことまで判っちゃうんですか???

 「ほら、だから早く行きなさい。ここはもういいから・・・。」

 葛城先生は笑顔でひらひらと手を振った。

 「あの、その、葛城先生、色々とすみませんでした。」

 私が頭を下げてそう言ったら、葛城先生はぐっと私の腕を捕まえた。

 「ミサト、でいいのよぉ?」

 顔がひくひくしてる・・・。

 ちょ、ちょっと恐い・・・。

 「あ、え、そ、そうですか?じゃ、そ、その・・・ミサト先生、ご面倒かけました・・・。」

 私はそう言って社会科準備室を出た。

 急がないと・・・。

 私は廊下を駆け出した。

 二人が教室で待っててくれますように・・・。



<続き>


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