| 転校生 SS |
| 作 : Ophanim |
| 転校生R外伝1 変遷 |
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「何て言ったの?」
あちゃあ・・・怒ってるよ、この人・・・。
背中を見せているので表情は見えないが、触れれば切れるほど声が尖っている。
折角の報告もお気に召さなかったらしい。
俺の所為じゃないんだがなぁ・・・。
「ですから、残念ながら失格でした、と・・・。」
「聞こえないわね。」
間髪を入れずに声が返ってくる。
じゃ、聞こえてんじゃねーか、このヤロウ・・・っと言いたいのは山々だが、この人に逆らうとこの世界で生きて行くことが出来なくなる。
俺は舌打ちをしながらもう一度同じことを繰り返した。
お尋ねの女子中学生の件ですが、面接の結果受験資格を失格しました。
これで満足か?
その瞬間、所長はまるで俺の不満を感じ取ったかのように、椅子を勢いよく回転させてこちらに向き直った。
一瞬で背筋が冷たくなった。
全てを射抜くようなその眼光は、無言の時間が長ければ長いほど他を威圧する。
「ちゃんとした公正な会議だったんでしょうね?」
更に悪いことに、今日の所長は問い詰める相手を間違えている。
俺に怒ってもどうしようも無いだろうに・・・。
「ご自分でどうぞご覧下さい。」
俺は今日撮ってきたビデオとテープレコーダー、面接議事録や試験成績などの資料を手渡した。
後はテレビでもプロジェクターでもスクリーンでも良い。
頼むから矛先は俺以外の奴にしてくれ。
「ありがと。料金はキャッシュがいいでしょ?」
へぃへぃ・・・。
素行の悪い学生の調査なら”余録”があるから遊び半分で仕事が出来るってもんだが、今度のヤマは素行の良いお嬢ちゃんじゃねぇか。
確かに髪の色は変わってたけどな・・・。
などと、愚痴を垂れながら金の確認をしている間に、彼女はとりあえず目を通すことの出来る資料を確認したようだ。
「・・・許さないわ・・・。」
物騒な独り言が聞こえてくる。
頼むから面倒は起こさないでくれよ・・・。
俺はもう夜遅い仕事はちょっと・・・。
「・・・・・・うちの娘になんてことすんのよっ!」
へ?
娘??
えーと・・・?
所長に娘さんなんていましたっけ?
と、つっこみを入れかけて、思わずその言葉を飲み込む。
「思い知らせてやるわ・・・。」
彼女の瞳はめらめらと燃え上がる炎のように真っ赤に燃えていた。
俺はと言うと、とっとと背中を向けて帰ればいいものを、蛇に睨まれた蛙のようにその場から身動きがとれないでいた。
だから、当然彼女が思い立ったときに一番手近にいることになる。
「もうひと仕事頼むわよ?」
当然承諾でしょうね。
その目がそう言っている。
断れるわけが無い。
「はぁ・・・。」
俺はねぐらに帰るのが遅くなることを覚悟した。
「で、首尾は?」
ここから見ると、彼女の顔は女神のようだ。
氷の女神、だが・・・。
「上手く行きました。」
仕事は。
まぁ、何というか、確かに、”上手く”行った。
だいたい、相手が完全に無警戒なのだから上手く行かない方がどうかしている。
「街で偶然」風景写真を撮っていたら「たまたま」あそこの校長が写っていて、「たまたま」それが彼にとっては都合の悪い場面が写った写真で、「偶然」それを彼に見られて彼が詰めよって来た時が、「間の悪いことに」俺が教育委員会の重鎮と一緒に食事をとる約束のある時だったので「ひょんなことから」入試の話題になって・・・。
途中から、いや、こっちの世界の者にとっては最初から、荒唐無稽の猿芝居だが、校長は自分の軽率さに震え上がった。
ただ判らないのは、その状況の中で『こちらの要求する生徒を入学させて欲しいんだが』と言えば済むものを、何故『全ての生徒が受験出来るように措置して欲しい』という遠回しの要求をするのかだが・・・。
それを聞いてみると、所長は何とも言えない不思議な笑い方をした。
「判らないの?」
嫌な予感がしたときは、もう手遅れだった。
俺はその日のうちに、”もっと勉強するように”との命令を受けて、イタリアに飛ばされていた。
「あぁ、それで欠員が?」
「そうなの。そう言うわけだから、引継はお願いね。加持君にも関係がある子だし、異論はないわよね?」
そう言うわけで、って言われたところで、納得が行くわけがないが、この人に逆らえないのは前任者同様。
まぁ、直接受け持ったことこそ無いが、曲がりなりにも天文部の顧問でもあるし、何よりミサトの生徒だった生徒だ。
所長の言う通り、全く無関係というわけでもない。
それに、久しぶりに胸がむかむかする。
自分達の厄介になるような奴は、どっちもどっち、というケースが殆どで、多少金を巻き上げても少しも良心が痛まないのが普通だ。
だから割り切って仕事が出来ていた面があるが、今回のケースは一方的すぎる。
成績優秀な人材はどこでも喉から手が出るほど欲しいだろうに・・・。
何より、片方では多額の裏金と引き替えに素行不良の人間でも入学させている一方で、表向きにはいけしゃあしゃあと綺麗事を言っているその態度が気に食わない。
「まともな勝負では負けるから裏から手を回したわけか・・・。やることが汚いな。」
「やることが汚い割には、詰めが甘いわね。」
俺の独り言に所長が上機嫌で同意した。
前任者の失敗の上書きはしなかったようだ。
自分で調べた調査内容ぐらい把握しておけば飛ばされることもなかっただろうに・・・。
しかし、飛ばした先がイタリアとは、所長も随分気にかけている。
「ま、自分達が偉いと思っている連中がなさることなんてこんなもんです。足下を掬われるとは夢にも思っていないでしょう。お仕置きが必要ですな。」
「でしょう?うちの娘をいじめる奴は絶対許さないんだから・・・。」
・・・。
さすがに頭痛がしてきたな・・・。
「だから、所長の娘じゃないでしょう?”綾波レイ”は?」
「あらあら、加持君は知らないの?もうほとんどうちの娘も同然よ?」
所長・・・碇ユイ・・・は、俺に向かって抗議をするように唇を尖らせた。
「そう言う問題じゃなくて・・・。所長の身内だったら誰もこんな仕事引き受けませんよ。」
俺は所長・・・碇ユイ・・・に向かって文句を言った。
身内の問題なら、公私混同も甚だしい。
それで働かされたら、所員が納得しないだろう。
「そうね・・・。加持君の言う通りだわ。イタリアに行った彼には報酬を多めにしてあげないといけないわね。」
「・・・って、身内だって言う方は撤回しないんですか?」
俺は苦笑いしながら、そこまで”自分の娘”と言い切る所長を微笑ましく思った。
この手の仕事にはそれほど手間がかからないだろう、と判断して資料に目を通していると、所長が何かをプリントアウトしているのに気がついた。
「見て加持君。大変よ。」
目の前に虹越学園高等学校の経営状況が突き出された。
綾波レイが一番最初に推薦入試の面接を受けて不合格にされた学校だ。
これが”けち”のつき始めで、その時の面接結果が延々と今まで悪い影響を与え続けている、因縁の学校だ。
「レイちゃんがこの前受けたこの私立の学校。来年は寄付が随分減って大変みたいよ?」
ほぉ・・・。
「それじゃあ、むしろ落ちて良かったんじゃあないですか?」
そう言いながら、首を傾げる。
目の前に出されているのは今年の経営状態であって、来年の話は一言も書いていない。
確かに、予算の1/4から1/3を占めるほどの寄付が減ったら経営は厳しくなるだろうが・・・。
ふと、所長の顔を見て、自分の馬鹿さ加減に呆れてしまった。
「・・・どうも・・・あの子に毒気を抜かれた上に、無垢さに当てられてしまったようですなぁ・・・。」
所長が惚れ込むのも判る気がする。
あの子に接していると、その正直な考え方に馴染みすぎて、人の言葉の裏を取ることが出来なくなる。
なんのことはない、寄付は「これから」減るのだ。
そして、それを減らすのは俺の仕事だ、と所長が行間で示したのだ。
「やりますよ。全く、復帰したばかりの俺に配慮もない、人使いの荒い所長さんだ・・・。」
「あら?私はまだ誰の担当にするか言って無いわよ?」
・・・。
これだよ。
「いーや。言われなくても判ってます。この山は俺がやります。たとえ無報酬でもね。」
旅行中、ミサトの表情に影が差すことがあったが、そんな時、彼女はいつもあの子のことを心配していた。
精神的に平穏な夫婦生活を取り戻すためにも、教師の端くれとしても、この仕事は引き受けなければならない。
「とりあえず、目標を決めましょう。」
厳しい目に戻った所長が冷徹な声を出す。
「ちょっと待って下さい。寄付を出しているところはみんな、それなりに虹越と関連があるところです。全く無関係に金を出すほどの慈善事業好きはそうそういないですよ。」
俺は所長の気持ちを一旦落ち着かせた。
ことを急げば手痛いしっぺ返しを食う。
「そうね。じゃあ、どの辺を狙っていくの?」
「狙いは企業体。それも、出来るだけ大きな所です。」
大きなグループになればなるほど、末端の雇用が担当任せになりがちだ。
そうなればコネが産まれ、正規の手続きを経ない雇用が増えてしまう。
彼らがその恵まれた環境を活かして才能を発揮すればよいが、そうでなかった場合、ゆくゆくは獅子身中の虫に育つ。
しかし、人事担当が固定されていれば、多かれ少なかれ「コネ」というものは発生してしまう。
そんな中で少しでも優秀な社員を取るためには、信用のおける学校から寄付金と引き替えに成績優秀者を優先的に回してもらえる、そういうコネの方が実用的というものだ。
「虹越には・・・大和が結構肩入れしてますね。」
あそこまで大きなグループなら、虹越学園から生徒が入らなくなっても他からいくらでも優秀な人材を手に入れられるだろう。
だが逆に、そこを動かす程に大きな理由が必要になる。
「大和を動かす程の理由・・・出来ますかね?」
「あるわ。」
所長が即答したので、俺は逆に眉を顰めた。
そんな理由があるなら、何もわざわざ俺が動かなくても大和の方から勝手に寄付を断るはずだ。
「・・・伺いましょう。どんな理由でしょうか?」
「レイちゃんの成績は優秀なの。それを落とすわけだから・・・。」
「ストップ。」
やれやれ・・・。
毒されているのは俺だけじゃあない。
何のことはない、所長もあの子に当てられているじゃないか・・・。
「何よぉ?」
「駄目ですよ、それは所長の主観であって客観性がない。大きな理由には・・・。」
「だって、学校の成績も良いし、面接だって・・・。」
「駄目です。」
これは一度しっかり説明しないと納得しないな、と思った俺は、出来るだけゆっくりと説明を開始した。
成績とは、同じ価値基準で判断されなければ意味がない。
野球に例えれば、同じ4割という打率を残していても、5打数2安打と300打数120安打では意味合いが全く違う。
中学の成績というものは、学校ごとに違う試験を行っているものなので、同じ”成績優秀者”でもA校とB校の成績が違う場合、単純に比較は出来ないのだ。
「残念ながら、私が働いている学校、即ち綾波レイの通う学校ですが、全体から見れば平均レベルです。」
「だけど、模擬試験が・・・。」
「それも学校によって扱う業者が違ってますから、統一基準になりません。」
付け加えれば、学年によっても成績にばらつきが出るのだが、この場合は大きな問題ではない。
「じゃあ、どうしようもないの・・・?」
「幸い、前任者の努力によって、チャンスは残りました。公立の入学試験、これは全部の学校が同じ試験問題を同じ時間に解きますから、そこで上位に入れば、”確かにこの生徒は成績優秀者だった”と言えるでしょう。」
「なら、問題ないわ。」
所長は力強く頷いた。
どうも伝わっていないようだな・・・。
「ですから・・・。」
「大丈夫、あの子は、絶対大丈夫。あの子ならきっとやってくれるはずよ。」
「でも、試験を受けないかもしれないんですよ。あの子が留学とか大検の道を選ぶ可能性もあるんですから・・・。」
その瞬間、がしっと肩を掴まれた。
女の細腕とは思えないほど、肉に食い込む。
「そんな逃げを打つ子だと思っていたら、最初から”裏口で取れ”って脅しているわよっ!」
あの子は逃げない。
実力を示せる機会さえ与えれば、必ず自力で道を切り開く。
そう信じてる。
所長はぎらぎらと光る目で俺を睨んだ。
「本人に受ける気が残っていれば良いんですがね・・・。」
どれだけ努力しても、本人にその意思がなければ意味がない。
「大丈夫、絶対、絶対・・・大丈夫・・・。」
そう言う所長の声は、俺の心よりも自分自身の心に響かせているようで、肩に掛かる力に比べて少しも力がなかった。
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