| 転校生 S |
| 作 : Ophanim |
| 第13話 再会 |
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じりじりじりじりじり・・・。
うるっさいなぁ・・・。
がしっ!
あたしはおもむろに手を伸ばして目覚ましを止めた。
すやすや・・・って、寝ちゃだめだっ!
あたしはがばっと布団を飛ばした。
えーと、今?6時??間に合うかな?お弁当・・・。
ベッドを飛び起きて着替えようとしてたあたしは、ふとその単語から昨日の出来事を思い出した。
「・・・別にいいじゃん。・・・マナに作ってもらえるんだし・・・。」
その方が美味しくていいものが食べられるんだろうしさ・・・。
あたしは蹴飛ばしてしまった布団を身体に巻きつけるようにしてベッドに戻った。朝方はまだ少し肌寒い。ぶるっと身震い一つして、無理矢理に目を閉じた。
玄関から出ようとしたときに、ママに見つかった。
「あら?アスカ、どこに行くの?」
あたしは出来るだけ平然とした顔で答える。
「ん?その辺をぶらぶらするだけ。」
ママの顔に失望の色が浮かぶ。
「あんたねぇ・・・。三日坊主っていう言葉は聞いたことあるけど、一日坊主って言葉は知らないわよ。」
ママの口から出る言葉は、その表情から予想されるものと寸分の狂いもない。
「だ、だから、別に弁当作りに飽きたわけじゃないってば。」
そう、飽きた訳じゃあない・・・。
ただ、作りたくないだけ・・・。
「シンジ君、自分でお弁当作って持って行っちゃったわよ?」
ママは呆れたように話した。
(しまった・・・。)
シンジの奴、気にしてたのかも・・・。
あたしが怒ったから?
・・・それ以外に考えられないわよね・・・。
あたしって、本当に馬鹿ね。
シンジが持っていっても、マナが”今日もお弁当作ってきたの”ってきたら、シンジが断れるわけないじゃない。マナだって寂しいだろうしさ・・・。
で、シンジがいつもパンとか食堂のご飯とか食べてるの見たら・・・。
”作ってきてあげようか?”
・・・自然な流れよね・・・。
あたしって馬鹿だなぁ、ほんと・・・。やきもちばっかり・・・。マナにも嫌な思いさせちゃうし・・・なにより、シンジに嫌われそう。お弁当が一個、無駄になるだけじゃない。冷静に考えたら、こんなに簡単なことなのに、どうしてあたしってすぐに怒ってしまうんだろう・・・。
どっちにしても、あたしがちゃんとしたお弁当作れるようになるまでしばらく時間かかるわけだし・・・。それまでマナに作ってもらった方がお互いのためよねぇ・・・。
マナに謝ってこよう。
それに、誰よりも、シンジに・・・。
あたしがそんなことを思って反省しているのを、知ってか知らずか、ママは更に言葉を続けた。
「”いつもやってましたから”って・・・。どういうこと?アスカ、シンジ君と一緒に暮らしている間、一体あなたは彼のために何が出来たの?」
ぎっくぅ・・・。
い、痛いところを・・・。
で、でも、その問題は解決済みよ。
「あ、あたしが出来ることと、シンジが出来ることは違うのよ!だからいいんじゃない・・・。」
あたしは以前にシンジと話し合ったことを言ってみた。
「それは・・・あなたの言葉じゃないわ。」
う・・・ばれてる・・・。
「そ、そうよっ!シンジの受け売りだけど、いいのよ。二人で話し合ってそう決めたんだから・・・。」
あたしがそう言うと、ママはため息をついた。
「シンジ君は優しいわねぇ・・・。でも、私が言っているのはそういう意味じゃないの。」
ママは頭を軽く振りながら説明した。
「勿論、あなた達が考えているようなことも大切よ。素晴らしいことだわ。でも、二人で助け合うっていうことは、本来、一方が”何か出来なくなったときに”その助けが出来るって意味じゃない?」
・・・。
胸の奥がちくちく痛んだ。
判ってる・・・。
判っては、いた・・・。
シンジの優しさに甘えてるだけだって・・・。
あたしが風邪を引いたりすると、シンジはあたしのためにお粥を作ってくれたり、手製の氷嚢を作ってくれたりした。でも、逆にシンジが倒れたときには、あたしは何も出来なかった。薬を買ってきて、この成分の効能がどうたらこうたらと説明しても、シンジの頭痛の種を増やすだけだ。
そんな時、シンジは
「アスカには他のところで助けてもらっているから良いんだよ。」
って慰めてくれた。でも、”他のところ”がどこなのか、あたしには見当もつかない。
「ね?衣食住は生活の基本だから。その基本の基礎だけでも覚えておいて損はないわよ?」
ママはそう言ってあたしを手招きした。
だけど、今は嫌。
「判った。でも、後で。今は出かけたいの。」
あたしはそう言うと、ママの返事も待たずに飛び出した。
えーと・・・。
確かこの辺に・・・あ、あった・・・。
あたしはシンジの練習場に向かっていた。
そっと中の様子を窺う。
あ!いたいたぁ・・・。
マナの奴ぅ・・・ちゃっかりシンジの隣に座って・・・。
あれ?
あ、離れた。
・・・意外とさっぱりしてるのねぇ・・・。
他の人とも話しているし・・・。
「あの・・・。」
「いいから黙ってなさいよ。」
「・・・。」
あ、また来た・・・って通り過ぎただけか・・・。
シンジも別に気にしてないし・・・。集中力あるじゃん?
この分なら大丈夫そうね。
マナって他の人にも人気あるんじゃない。
「ま、まぁ、あたしよりは人気無いだろうけどさぁ・・・。」
「あ、あの・・・。」
あれ?
これって誰かが呼んでるの?
「うるさいわね。何よ?」
あたしが振り向くと、そこにははにかんだような笑顔をした女性が立っていた。
「その・・・違ってたらごめんなさい。でも、アスカ?よね?」
え?
っっと・・・。
そう言われてみると、どこかで見た顔・・・?
「・・・マリー?」
「そう!やっぱり、アスカなのね?久しぶりぃ!元気だった?」
マリーは子供のようにはしゃいだ。
「う、うん。まぁ・・・。マリーは?」
「あたしも元気よ。見たら判るでしょぉ?」
マリーはそう言ってあたしの背中をばしばし叩いた。
「ね、ね。今暇?暇でしょ?暇よね?」
その強引さについついあたしも”う、うん”と答えてしまう。
「良かったぁ。ね、あそこの喫茶店に入らない?ちょうどあたしも暇なんだ。」
半ば押し込まれるようにしてお店に入る。
ちょっとひんやりしてて気持ちいいかも。
「今何してるの?」
「何って・・・ただ、その、見てただけよ?」
あたしはちょっとどきどきした。マリーは一体いつから見ていたんだろう?独り言、聞かれたかしら?
「あははは。そういう意味じゃないわよ。ごめん。あたしが間違ってたわ。そういえば、アスカはまだ14、5だったわよねぇ?」
マリーはそういって楽しそうに笑った。
「マリーは?」
「あたし?あたしはフレッチャーの所にいるわ。覚えてる?光工学のグウィン=フレッチャー教授。」
「あぁ・・・、微かに・・・。何?助手?」
「まっさかぁ。あたしに務まるわけないでしょ?秘書をしているの。」
「あぁ・・・で、その秘書さんがなんでここに?」
「今、夏休みじゃないのぉ・・・って、そうか、アスカはもう学生じゃないのよね。」
マリーは照れたように微笑んだ。
そう、あたしとマリー・・・メアリー=レッドフィッシュは、”大学の”同級生だったの。歳の差は10年近くあるけど、あたしの方がお姉さんみたい。ノートを貸してあげたりレポートを解いてあげたり・・・。
「アスカには本当にお世話になったわよ。今のあたしがあるのもアスカのおかげよね。あ、ここはあたしがおごるから、好きなもの頼んで良いわよ?」
と言いながらメニューをあたしに手渡す・・・途中で、
「っていっても、薄給だから無茶なもの頼んじゃだめぇ。」
って言いながら舌を出す。
こういうところが憎めない。
あたしは少し遠慮しながらも、美味しそうなパスタとケーキのセットを注文した。
「へぇ・・・。じゃ、今完全に宙ぶらりんじゃん?」
あたしはついつい、今の状況をマリーに愚痴っていた。
「そうなのよ・・・。どうしたらいいかしら?」
かちゃかちゃ、と音がする。
ケーキを食べながら話す話題じゃないわよね・・・。
あたしは一旦フォークを置いた。
「うーん・・・。どっちがいいかしら?」
マリーは難しそうな顔をして考えている。
「え?二つもあるの?どんな方法があるの?」
あたしが聞くと、マリーはじっとあたしを見た。
「・・・メロンとイチゴ、どっちを先に食べたらいいかな?」
ずるっ・・・。
マリーが真剣に悩んでいたのは、目の前のケーキのトッピングを、どちらから食べるべきか、だったようね・・・。
はぁ・・・。
「どっちでもいいわよ。」
あたしはぶーっと頬を膨らませながら答えた。
「それじゃあ困るのよ。選んで。メロンか、イチゴ・・・。」
マリーはケーキを見ないであたしを見ている。
「あたしが決めるの?」
「うん。そうよ。」
あたしはじっとケーキを見た。イチゴが半分と、メロンが一切れ。うーん・・・。こりゃあマリーじゃなくても迷っちゃうわねぇ・・・。
「じゃ、メロン。」
あたしがそう言うと、マリーはにこっと笑った。
「ん!じゃ、大学に戻る、ってことで。」
え?
あたしが不思議そうな顔をしていると、マリーは悪戯っ子な性格が丸見えの笑顔で説明した。
「あたしね、質問する前に心の中で決めてたの。アスカがイチゴを選んだら、アスカの就職を探す。メロンだったら大学に行くように考えるって。だから、アスカは大学に戻るの。」
なぁるほど。
「って、駄目よ。お金無いもの・・・。」
大学院に入り直すって簡単に言っても、入学金とか授業料とか、色々かかるもの・・・。
「だって、アスカの成績だったら奨学金はもらえるだろうし、折角家から出た状態になっているならそのまま本格的に出ちゃったら収入無いから授業料免除になるでしょう?入学金くらいはちょっとばかり研究室のお金から借金してもいいからさ。アスカが来るって言えば、そのくらいは面倒見てくれると思うし・・・。」
なるほどねぇ・・・。
さすがにマリーは大学で事務をやっているだけのことはあるわ。色々なことに詳しい。
「そうしたら、料理の問題だってすぐ解決するわ。一人暮らしすれば自然と身につくもの。」
ふんふん。
「あと、問題は下宿先よね・・・。」
「マリーの所に泊めてよ。」
そうすれば気が楽だし・・・。
「だ、だ、だ、だ、駄目駄目駄目駄目っ!彼が来るもの・・・。」
マリーの慌てぶりがあんまり見事だったので、思わず吹き出してしまった。
そうね。
マリーにだって彼氏の一人や二人は出来るわよねぇ・・・。なぁんて言ったら失礼か。
「そ、そうねぇ・・・。あ、今度来る留学生と一緒に住んだら良いんじゃないかな?遅く決まったから家賃の高いところしか空いてなかったのね。で、かなり困ってたんだけど、二人で暮らせばむしろ安いくらいじゃないかしら?部屋数もあるし・・・。」
マリーはどうにかこうにか平静を装いつつ善後策を考えてくれた。
「ありがとう。助かったわ。なんとなく、自分が何をしたらいいのか判ったような気がする・・・。」
今までただもがいていただけだったからね。
これからは、同じもがくでも方向性を持ってもがけるわ。
「ところで、大学って?」
「あたし達の大学。それも、うちの研究室じゃないとすんなり受け入れるのは難しいわよ?」
う〜ん・・・。そっか・・・。ま、いいでしょ・・・。
「どっちにしろ、選択の余地はないもんね。お願いして良いかしら?」
マリーはあたしの言葉を聞くよりもケーキを食べることに夢中のようだった。
(あら?)
マナはふと窓の外に目をやった。
(あれは・・・アスカさん?)
アスカと目があったマナはシンジを呼ぼうと立ち上がった。
(ん?)
アスカが窓の外で大きく×マークを作った。
???
マナは小首を傾げた。
アスカは人差し指を唇の前に立てて”静かに”と合図を送ると、その指を外の方に向けて示した。
マナはそれに従ってそーっと外に出る。
「どうしたんですか?」
マナは不思議そうにアスカを見る。
「いいからちょっとこっち来なさい。」
アスカはマナの手を取ってずんずんと建物の外に出た。きょろきょろ、と辺りを見回して、誰もいないことを確認すると、マナの耳元に顔を近づけた。
「いい?あたし、ちょっと出かけてくるから。その間だけ貸してあげるんだからね?いい?ちゃんと世話するのよ?」
???
マナには何のことなのか皆目見当がつかない
「は、はぁ・・・?」
マナはより一層不思議そうに首を傾げた。
「”はぁ”じゃないでしょ?返事は”はい”。もう一回。お願いしたわよ?」
「は、はい・・・???」
アスカはにっこりと笑った。
「うん。よろしい。それじゃ、ちょっと行って来るから。」
アスカは満足そうに去っていった。
マナは何のことか判らず、ただアスカを見送るだけだった。
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