| 転校生 S |
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| 作 : Ophanim |
| 第10話 涙のわけ |
んー・・・。 なんだかいい匂いがするなぁ・・・。 花の匂いかな? あ、やっぱり・・・赤い花だ。何て名前なんだろ? アスカの髪にさしたら似合いそうだな・・・。 持って帰れないかな・・・? ん??? 何だ?重いぞ? あ・・・そうか・・・アスカに殴られたんだっけ・・・。 身体が重い・・・。 微かに感覚が戻ってくる。 「・・・だいたい、あんた、なんなのよ!?」 アスカ? 「わ、私は・・・碇君と一緒に・・・練習してるだけで・・・。」 ! 綾波!? どうして、綾波がここに・・・? 僕は慌てて目を開けた。でも、それは気持ちだけで、実際はゆっくりとしか開かない。 もどかしい・・・。 うすぼんやりとした風景が広がっていく。 「それがどうしてシンジと腕組んだりしてんのよっ!?」 「そ、そんなことしてません・・・。」 あれ? あ、そうか・・・綾波じゃないや・・・霧島さんだ。声まで似てるんだなぁ・・・。 「あ!碇君!大丈夫でした?」 霧島さんが僕に気がついて顔に抱きついてきた。避けようとしたけど、動けないからどうしようもない。 「ここは?」 「病院よ。ちょっと打ち所が悪かったみたい・・・。」 霧島さんは目に涙を浮かべながら説明してくれた。 「ちょ、ちょっと、離れなさいよっ!」 アスカは霧島さんの肩に手をかけて強引に引き離そうとした。霧島さんは離れないようにより一層強く僕を抱きしめてきた。 花の香りが強くなる。 僕が花だと思っていたのは霧島さんの香水の香りだった。 「嫌ですぅっ!あなたみたいな乱暴な人、碇君に近寄らないで下さいっ!」 霧島さんは泣きながら僕を自分の胸に抱き寄せた。 柔らかいなぁ・・・。 僕は顔を強張らせて部屋を出て行くアスカを、ただ見送ることしか出来なかった。 なによなによなによっ! あたしは道路に散らばっている小石を意味も無く蹴飛ばしながら歩いた。 シンジの馬ぁ鹿っ! 怒鳴ってやりたい・・・。 最近冷たいと思ってたんだ。 練習にも変に楽しそうに行くしさぁ・・・。 あたしと目を合わせようとしないし・・・。 昨日の・・・き、キスだって・・・途中で止めちゃって・・・それ以上は・・・無かったし・・・。 忙しいなんて言って、あの子に会いたいだけじゃないの? ・・・。 あの子・・・”あの子”に、似てたな・・・。 ・・・。 シンジ・・・あの子のこと、好きだったもんね・・・。 違うのかな? 無理してあたしと一緒に来たのかな・・・。 「はぁ・・・。」 ため息をつきながら、玄関を開ける。 「あら?今日はデートだって言わなかった?」 ママが驚いたような顔であたしを見た。 「別に・・・いいじゃない、どうでも・・・あんな、浮気ものの馬鹿シンジなんて・・・。」 あたしはママを置き去りにして二階に駆け上がろうとしたけど、体が鉛のように重くてのろのろとしか動けなかった。 「あんた、また喧嘩したのね?」 ママはあたしの腕を掴んだ。 「ほっといてよっ!」 「ほっとけないわよっ!」 あたしは力任せにママの腕を振り解いた。 「きゃ・・・アスカっ!」 ママはあたしに振り回されて倒れてしまった。ママは手を押さえている。どっか切ったみたい・・・。さっきの今で、また怪我させてしまった。あたしは少し反省してママを助け起こした。 「さっきね、病院から電話あったのよ?」 ! 「か、関係無いわ・・・。」 「関係無くないわよっ!あんた、シンちゃんに怪我させたんだって?」 ママはぽこっと浮かんできた赤い血を気にもしないであたしに詰問した。 「あ、あいつが悪いのよっ!」 あたしは後ろめたい気持ちを振り払うように大声を出した。 「そうかしら?私にはそうは思えないわよ?」 ママはいつになくシンジをかばった。 普段はあたしを叱ったりしないで、むしろあたしを怒らせないように怒らせないように、とこわごわ扱っている、その同じ人とは思えなかった。 「・・・電話は、女の子からだったわよ?」 ちく・・・。 「そ、そう。仲のいいことで・・・。いいじゃない、マナとデートすりゃ。どうせあたしはお邪魔虫ですぅだっ!」 力無く、ママの右手が振られた。 慣れないので、怖がっているのが良く判った。 それでも、あたしはよけられなかった。 ぱち・・・。 「ご、ごめんなさい・・・。」 謝ったのは、ママの方だった・・・。 「・・・謝るなら・・・叩かないでよ・・・。」 あたしは椅子に座り込んだ。 「・・・その子、”碇君とお付き合いしている方のお宅ですか?”って、かけてきたのよ?判る?」 「・・・。」 「シンちゃん、もうすぐ退院するって。軽い脳震盪で済んだみたいだから。デートの邪魔をしたみたいで、ごめんなさいって謝ってたわよ?誤解させてしまったこと、かなり気にしてらしたわ。どうしてあなた、もう少しシンちゃんを信じられないの?あんたみたいな子に、もうあんないい子、出来ないわよ?もっと大事になさい。」 ・・・馬鹿・・・。 馬鹿シンジ・・・。 嘘・・・。 馬鹿は、あたし・・・。 シンジの話、ちゃんと聞いてあげればよかった。 ってことは、シンジが、ちゃんとあたしをマナに紹介していたことになる。 シンジを信じてなかったのは、あたしの方だ・・・。 りんりんりん・・・。 あたしを責めるように、電話が鳴り出した。 「あ、アスカぁ?ごめん、なんだか、変な具合になっちゃって・・・。今、病院前だから、出てこれないかな?今から、どっか行こうよ。」 ・・・馬鹿・・・馬鹿馬鹿・・・馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! なんでそんなに優しいのよっ! 「か、身体・・・大丈夫なの?」 「んー、ちょっとまだふらふらするけど、もう大丈夫だから。もともと大したこと無かったみたいなんだけど、霧島さんが驚いちゃったみたいで・・・。」 そう・・・。 シンジは覚えてないみたいだけど、あの子、きゃあきゃあ叫んでシンジを抱き起こしたり、救急車を呼ぼうとしたり・・・。あの子の方がよっぽど女の子してたわ・・・。 「今から・・・行くから・・・。」 それだけ言って、あたしは走り出した。 ママが・・・微笑んでいたのが、妙に嬉しかった。 「来た来た。」 僕の目の前に、さっきと同じように駆け足で近寄ってくるアスカがいる。 「今度は・・・叩かれないと思います。」 霧島さんはアスカに遠慮したのか、僕からかなり離れて立っている。 「あのさ・・・アスカ、いつもあんなに乱暴なんじゃなくって・・・その、元気なだけで・・・。それがアスカのいいところでもあるからさ、嫌いにならないでね?」 僕はさっきの霧島さんの言葉を思い出しながら話しかけた。 「え、えぇ・・・頑張ります・・・。」 ふふ・・・。嘘つけない子だなぁ・・・。 びっくりしたんだろうなぁ・・・。 「ごめん、アスカ。」 アスカが息を切らせて僕の前で止まった時、僕は誰よりも先にアスカに謝った。 「え?・・・あの・・・ううん・・・あたしこそ・・・。」 「あの、霧島さん、これ、蒼龍=ラングレー=アスカ。アスカ、でいいよね?アスカ・・・。」 僕が霧島さんにアスカを紹介する間、アスカはずっとはぁはぁ息を切らせていた。相当走ってきたんだろうなぁ・・・。 「で、こっちが、霧島マナさん。バイオリンで合格したんだよ。」 「知ってるわよっ!」 アスカが叫ぶようにして答える。 「あの・・・さっき・・・。」 霧島さんも小さな声で答えた。 二人はじぃーっと・・・に、睨み合ってる・・・。 「お願いだから仲良くしてよぉ・・・。ね、お昼まだだよね?みんなで一緒に食べない?」 ・・・どっちかって言うと、もう晩御飯だけど・・・。 「お夕飯なら、お呼ばれします・・・。」 アスカが僕を殴らないのを見て少し緊張が解けたのか、霧島さんは微かに微笑みながら答えた。 「一緒にぃ?・・・まぁ、いいけど・・・。」 アスカは不満そうにしたけど、それでも小さく頷いた。 「乱暴しないで下さいねぇ・・・。」 「うるさいわねぇ・・・。お嬢ぶらないでよね。」 わぁ・・・仲悪そう・・・。 「とにかく、もう一回碇君を殴ったりしたら、私、もう許しませんから。」 霧島さぁん・・・。 「・・・ごめん・・・。」 ?????? 「あたし、ちょっと焦ってたのよね。・・・ほんと、ごめん・・・。」 アスカ・・・? 「ね、ベルリンでもシュバイネハクセとかやってるお店あるのよ。行かない?」 アスカは急に元気なアスカに戻って僕達を誘った。 「それ、何の料理ですの?」 「豚肉のローストなんだけど、美味しいのよ?」 アスカはまるで自慢でもするように心をこめて説明した。 どうしたんだろう? 最近のアスカ、変だ・・・。 自分でも言ってるみたいに、何か、焦ってる・・・。 「い、いいね、それ。それ食べに行こう。」 僕は二人が仲直りするちょうどいい機会だ、と思ってそう言った。 「だめよ。碇君、まだふらふらしてるんでしょう?お肉料理なんて・・・。」 霧島さんは僕の身体を気にしてくれてるみたいだ。ありがたいけど、今はだめだ。 「いいっていいって。栄養つけないと治るものも治らないよ。行こう、アスカ。」 僕はそう言って二人の背中を押した。 シュバイネハクセは美味しかった。 僕達はまず霧島さんを送り届けてから家に帰ることにした。 「今日は、その・・・ごめんなさい。」 霧島さんはマンションに入る前に、もう一度僕達に謝った。 「いいのよ。あたしも、ちょっと反省してるから・・・。」 アスカは素直に謝ると、霧島さんと軽く握手をした。 「また二人でどっかいこ?」 霧島さんは予想外のアスカの提案にちょっと驚いたように目を見開いた。 「え?・・・え、えぇ・・・。」 良かった。 とりあえず、二人、仲良くなったみたいだ・・・。 僕は霧島さんに軽く手を振って、アスカと一緒に今来た道を戻った。 「ね・・・。」 アスカが僕に話しかける。 「なに?」 僕はアスカの顔を覗き込むようにした。 「う、腕、組もうか?」 アスカは僕の左腕を軽くつついた。 「いいよ?はい。」 僕は脇を空けてアスカの右手が入って来られるようにした。すかさずアスカが腕を絡めてくる。勢い余って肩まで入れられてしまった・・・。 「い、痛いって・・・。」 「ごめん!」 アスカは目を大きく開いて謝った。 いや、そんなに痛くなかったんだけど・・・。 それから僕達はなんとなく黙って歩いた。 夜の町はさっきまでとは大きく雰囲気が違う。それに合わせたわけでは無いだろうけど、アスカの雰囲気も、ぐっと女の子らしく変わっていた。 「さっき、痛かった?」 ようやくアスカが小さな声を出した。 「痛いって言うか・・・いきなり気を失ったからね、今の方が痛いような気がするよ。」 僕は冗談めかしてそう言うと、まだ包帯をしている頭を撫でた。 「ごめんね?」 アスカは泣きそうな声で謝った。少し、震えている。 「どうしたの?何かあった?」 僕はアスカの様子がいつもと違うので心配して聞いてみた。 「あのね・・・ママに、叱られちゃった。もっとシンジを信用しろって・・・。」 アスカはぽつぽつと話しながら、ぎゅうっと僕の腕を抱きしめてきた。不安なんだな、きっと・・・。 「へぇ・・・おばさんが?珍しくない?」 僕は記憶の中のおばさんと最近のおばさんの両方を比べながら、それが滅多に無いことだ、と確認した。 「うん。そうなの。なんだか、親なのに、あたしに遠慮するみたいなところがあって・・・。ちょっと甘く見てたら、急にどかんって感じ・・・。でも、ちょっと、見直したんだけどね・・・。」 アスカはそう言って微笑んだ。 そうだよなぁ・・・おばさん、頼り無い感じだったけど、アスカ、それも不満だったんだな・・・。 「それでね・・・その・・・。ママが言うには、あたしがあんまりこうだと、シンジに愛想尽かされるって・・・。」 アスカは痛いくらいに僕の腕を掴んだ。でも、僕は今度は”痛い”とは言わなかった。今、アスカはその言葉にとても敏感になってるから・・・。 「あはは、おばさんらしいなぁ・・・。アスカを叱るのに僕をだしにするなんて・・・。」 僕は笑いながらそう言ってアスカの気持ちを楽にしようとした。 「ん・・・。でも、最近、シンジ、冷たいし・・・。」 は??? 僕はアスカが突然何を言い出したのか、と思った。 「何言ってんの?アスカ???」 「だぁってさ・・・昨日だってキスの途中で放り出しちゃうしさ。その前だってぇ・・・。」 アスカの説明を聞いているうちに、僕は噴き出してしまった。 「無茶言うなよアスカぁ・・・イタリアにいた時とは違うんだぞ?それに、昨日のは鍵掛けてなかったからだし・・・。」 「それはそうだけどさぁ・・・。」 アスカの声が甘くなってきた。良かった。もう大丈夫だ・・・。 「まぁ、今日は僕も悪かったよ。僕ももうちょっと気をつければ良かった。」 それを聞いたアスカが頬を膨らませて怒ったふりをする。 「なにそれぇ?あたしだったら殴ってくるから油断しなければ良かったっての?ひっどぉい・・・。」 アスカは笑いながら僕を打つ真似をした。 「あはは、いや、そうじゃなくてさ・・・。僕も、アスカと霧島さん、もう少し別の形で紹介すれば良かったって・・・。今日のミーティングの後に思いついたことだから、段取りとか全くいい加減で・・・。アスカに配慮が無かった。ごめん。」 僕はアスカの顔を見ながらしっかりと謝った。僕の、正直な気持ちだ。 アスカは僕の視線をまぶしそうに受け止めると、はにかみながら頷いた。 「いいの。・・・あたし、マナに言われたように、乱暴な女よね・・・。本当に、ごめんね?いきなり殴ったりして・・・。でも、勝手な言い分かもしれないけど、あれもあたしなの。お願いだから、嫌いにならないでね?」 アスカは消えそうな声で僕を見る。 そんなの、当たり前じゃないか・・・。 「ならないよぉ・・・。アスカが元気になって良かったと思ってるんだから・・・。アスカが入院してた時の方が今の百万倍は痛かったよ。だから、もう、入院なんてしないでね?」 アスカは翡翠のような瞳を大きく見開いて、頷いた。 堪え切れない・・・。 僕はアスカの瞳が涙で覆われる前に、アスカをしっかり抱きしめた。 |