転校生 R
作 : Ophanim
第24話 新年のお参り


 

 「レイ、ちょっと卵見ていてくれない?」

 「はぁい。」

 私はテレビはそのままにして台所に行った。卵をかき混ぜて卵焼きの素を作らないといけないの。

 「あなた、練り終わった?」

 お母さんはお父さんのところに行ってお蕎麦の出来具合を見に行った。

 「後は切るだけだ。今年は誰が切るんだ?」

 お父さんは汗を拭きながら部屋を出て来た。

 私は卵をかき混ぜながら、

 「今年は私が切りたい!

と立候補した。

 「レイかぁ?前はえらく細かったり太かったりしたからなぁ。」

 お父さんはにやにやしてるぅ・・・。

 「そ、それは私が小さい頃の話でしょ!

 私が反論すると、

 「あれぇ?あれは小学校5,6年の頃だから、まだほんの3,4年前よ?」

と、後ろからお母さんもお父さんの味方をする。

 「そうか、あれはもう小学校の頃になるのか?」

 「そうですよ。ほら、家庭科で初めて一人で一から料理を作らせてもらえたから嬉しくて・・・。」

 「あぁそうか。しかし、あれはひどかった・・・。」

 二人は私の失敗談で盛り上がってる。

 ひどいなぁ・・・。

 「でも、今年はもう大丈夫なの!

 あれからちゃんとお料理の練習してるんだから・・・。

 「じゃ、お願いしようかしら?」

 お母さんが私の手から卵ボールを受け取りながらそう言って小さくウィンクした。

 「わぁい!

 今年はどうしても私が切りたかったんだぁ・・・。

 どうしてかって?

 「あら、もうこんな時間よ?レイ、早いとこ切ってしまって。」

 「は、はぁい・・・。」

 お母さんに急かされるようにして私はとんとん、と包丁を使った。

 「今年は5人の年越しかぁ。賑やかでいいな。」

 お父さん!

 「煙草吸いながら来ないでよっ!

 もう!

 私はお父さんを追いたると、気を取り直してお蕎麦を切った。

 そうなの。

 今年はお義母様達と一緒にお歳取りするの。

 「早く切ってよ。ユイ達来る前にあんたの着付けも済ませないといけないんだから・・・。」

 お母さんはそう言い残すと、自分の着付けのために部屋を出て行った。

 さ、急いで切ってしまおう。

 私はまたリズミカルに包丁を使った。



 ぴんぽぉん。

 「お邪魔します。」

 あ、来たみたい。

 「こんばんわぁ。」

 とてとてとて・・・。

 「あら、レイちゃん、着付けしてもらったの?」

 お義母様は私の着物姿を見て驚いたような声を出した。

 「あ、えーと・・・自己流で・・・。」

 「ふぅん、さすがチトセの子。なんでも自己流ね。」

 お義母様は笑いながら勝手に結論を引き出した。

 「こら、それどういう意味よ!?」

 お母さん達が和気藹々としてる間に、お父さん達も立ち話が弾んでいた。

 「やぁ、酒まで持って来てくれたんですか?」

 「田舎の地酒です。」

 お父さん同士は早速宴会かしら?

 「もういかないと除夜の鐘よ?」

 お母さんは時計を見ながらお父さんを促す。

 「年越し蕎麦は?」

 「帰って来てから食べましょうよ。」

 そんなやり取りをしている間に近くのお寺で除夜の鐘が鳴り出した。

 「ほら、行きますよ。」

 お母さんに促されて、ようやくみんな立ちあがった。

 「話の続きは車の中でしましょうか?」

 「いいですな。」

 お父さん達は缶ビールやおつまみを車の中に持ちこんだ。

 あ!

 「お父さん!それ、だめ!

 私は目敏く煙草を見つけて”没収”した。

 「く、車の中じゃ吸わないぞ。」

 「どうだか?」

 私はテーブルの上に煙草を戻して、お父さんが部屋を出るまで見張っていた。

 「仕方ないなぁ。」

 「お正月ぐらいは我慢しなさい。」

 お母さんも私の味方。

 戸締りをして、おでかけ。こんな遅い時間に外に出るのって、久しぶり・・・。一年ぶりくらいじゃないかしら?

 「レイ、こっちいらっしゃい。」

 お母さんが手招きをしてる。うーん。お母さんの隣かぁ・・・。なんだか、おもちゃにされそう・・・。

 「やめとく。お義母様、隣に行きますね。」  

 私はワゴン車の助手席に乗りこんだ。お義母様は一瞬だけ”あら?”って顔をしたけど、でもすぐに嬉しそうに微笑んだ。

 結局、助手席に私、私の後ろにお母さん、お父さん達はその後ろ・・・。

 「しかし・・・。」

 お義父様が私の着物姿を見ながら口を開いた。

 「娘がいるというのはいいもんですな。」

 な、な、なにを・・・。

 「こういう時だけですよ、あとはもう金がかかるばかりで・・・。」

 お父さんが返事をする。

 「男の子はその分手がかかりますから・・・。」

 え?

 碇君が??

 私はお義母様の言葉が信じられなかった。

 「そういうもんですか?」

 「えぇ、そんなもんですよ。うまくしたもので・・・。」

 お父さん達は判ったのか判らないのか、納得したような顔をしている。

 「あの・・・お義母様?碇君、手がかかったんですか?」

 運転の邪魔にならないように、信号待ちの間に聞いてみる。

 「そう見えない?まあ、今はかからないかもね。でも、昔は変に正義感ぶったところがあってね。怒り出すと手がつけられなくて・・・。」

 「そうそう。些細なことでも、そうだな、例えば、給食の列に横入りしたとかしないとかで大喧嘩してきたこともあったよな?」

 後ろからお義父様も話に参加する。

 「あの時は相手の家に謝りに行くのが恥ずかしかったですね。」

 い、意外な・・・。

 「それは大変でしたねぇ・・。」

 「意外な面があるんですねぇ。」

 お父さんもお母さんも驚いている。

 だって、あの碇君だよ?

 あ・・・。

 そういえば、ヒカリちゃん、碇君に怒られて恐かったとか言ってたような気もする・・・。

 怒られないようにしないと・・・。

 「最近はすっかり落ち着いたようだがな。」

 それを聞いたお義母様は私をちらっと見てなんとも言えない笑顔を見せた。

 「それでしたらお礼言わないと。それこそレイちゃんのおかげよ?」

 え?

 「そ、そんなこと無いです・・・。」

 私は慌てて否定したけど、お義母様達の会話には混ぜてもらえなかった。

 「おお、そうだそうだ。全く、なんとお礼を言っていいのやら・・・。」

 お義父様は嬉しそうにお父さんに頭を下げた。

 「それ言ったら、私達だってお礼を言わないと。以前はこうして人と話すなんて考えられなかったからね。」

 う・・・お母さん、何を言い出すんだろう・・・。ちょっと不安・・・。

 「すぐ泣いたしな。」

 お、お父さんの馬鹿ぁ!

 「そうそう。家に閉じこもってばかりいるからせめて習い事でもさせようか、って思ったら・・・。」

 「結局いつも最後は先生に家に来てもらう羽目になってしまったからな。”お宅のお嬢さんがいると他の生徒さんが来なくなる”とか言われてな。」

 お父さんは私が思い出したくも無かった昔のことを話し出した。

 「お、おかげで色々上手になったでしょう?そんな昔の話、しないでよ・・・。」

 私は一生懸命お父さんを黙らせようとしたけど、シートベルトをしたまま後ろの席を振り返るのはちょっと大変。

 「髪飾りが取れちゃうわ。大人しくしなさい。」

 うう・・・だって、お父さんが・・・。

 「それにしても、お互いに良かったですな。」

 「そうですな。」

 私の心配をよそに、お父さん達はさっさと話をまとめてしまった。

 どうしたのかな?って思ったら・・・。

 「着いたわよ。」

 お義母様の言葉とともに車が止まった。

 「やぁ、話ながらだと早いもんだ。」

 「それも楽しい話でしたからな。」

 お父さん達はさっさと車を降りてしまった。し、しかも、私をおいてくっ!

 「ま、待ってよぉ・・・。」

 シートベルトを外して、ドアを開ける。

 で・・・出られない・・・。

 だってね、着物の裾が開いてしまうんだもの・・・。

 「裾でしょ?」

 お義母様がにこにこしながら手を貸してくれた。

 「女の子が着物着たら普通の車はちょっとだめよねぇ・・・。」

 私はほとんどお義母様に”抱っこ”されるようにして車を降りた。

 「だから助手席はやめて中に乗れば良かったのに・・・。」

 お母さんは苦笑いしてる。知っているんだったら教えてくれても良かったのに・・・。

 「どうせあんまり人がいないんだから少しくらいいいのにね。」

 お義母様に言われて周りを見渡すと、ほんと、人がいない。

 「去年はいっぱいいたよ?」

 私は言い訳するようにお義母様に甘えた。

 「去年とは来るところが違うからね。」

 ?

 「ここは学問の神様を奉っているのよ。でも、眺めが悪いから人が来ないの。」

 な、なるほど・・・。

 それにしても人がいない・・・。

 いても、なんかぶつぶつ言ってる人とか俯いている人とか足早に去って行く人とか・・・。

 ちょっと、雰囲気悪いかも・・・。

 そぉっと他の人が書いた絵馬を覗き見る。

 『今年こそ大学合格』『第一志望は下げないぞ』『今年は合格できますように』

 ・・・?

 ”こそ”???

 それって・・・。

 「そうよ。ここは通称”浪人神社”。あんまり目立たないから浪人生がこっそり願掛けするには最適なの。」

 「夜中まで勉強してちょっと息抜きに来て、お正月は予備校で過ごすのよ。」

 うーん・・・???

 「どうして私をここに?」

 だいたい・・・想像はつくけど・・・。

 「だって、もう落ちたじゃない。ここ、雰囲気は悪いけど結構ご利益あるみたいだから・・・。」

 やっぱり?

 「・・・だめ・・・かなぁ?」

 年末の忙しさに紛れていた不安がまた頭をもたげる。

 ううん、わざと忙しくして隠していたの。

 やっぱり、不安だったんだと、思う・・・。

 「だめ、にならないように、今来たのよ、レイちゃん?」

 お義母様が優しい声をかけてくれた。

 「・・・どういう、ことですか?」

 お義母様の優しさは感じられたけど、どうしてここに、今、連れて来られたのか、判らない・・・。

 「本来なら、全部だめになった、って判るのは3月でしょ?だから、ここに来る人はもう落ちてしまってから来るのよ。ここの神様がそれからどんなに頑張っても、落ちてしまった結果は変えられないもの。縁起が悪い、とか思って最初の年にここに来ないから落ちてるのかもしれないわよね?本当は凄くご利益があるのかもしれないのに・・・。」

 あ、なるほど・・・。

 「それって、レイちゃんが今置かれている状況に似ているわよね?高校に入ってしまえば問題が無いって判るのに、今は受けることも出来ない・・・。だから、今、ここに来たのよ。」

 お義母様はそう言うと私が見た絵馬とは別の方を指差した。

 『合格しました』『祝!合格!!』『感謝』・・・。

 「この春にはああいうの、書こうね。」

 私はお義母様の言葉に大きく頷いた。

 お賽銭を入れて鈴を鳴らす。

 (高校に合格・・・じゃなくて、高校を受験できますように・・・。)

 変かな?

 だって、受験してみて、やっぱり落ちるんだったら、諦められるし・・・。

 ただ・・・受けさせて欲しいんです。

 お願いします・・・。

 私は真剣に何度もお祈りした。

 「もういいかしら?」

 私があんまり真剣な表情だったからか、お義母様が心配そうな声を出した。

 「あ、え、えっと、はい。もう、いいです・・・。」

 

 「あ、ご、ごめんなさい、もう一回・・・。」

 ちゃりちゃりん・・・からんころん・・・。

 (碇君が病気とかしませんように・・・。)

 「・・・あ!

 (あ、あと、そのぉ、碇君にまた試験とかあったら合格しますように・・・。)

 「うーんと・・・。」

 (あと、また、碇君に会える・・・かな?会えますように・・・。あ、あれ?自分で会いに行けばいいのかな?)

 「あんた、随分お願いするのね?欲張ると一つも叶わないわよ?」

 よ、欲張り???

 そう・・・かなぁ・・・。

 じゃ、碇君が病気しないで、いつも元気でいられますように・・・。

 「レイちゃん、随分念入りにお祈りしてるわよね?」

 「顔真っ赤にしてね。」

 ほえ!?

 「あ、え、べ、別に何も変なことは・・・。」

 ど、ど、どうしよぉ・・・。

 「おおい、レイ、お守り買って来たぞ。」

 あ、お父さん!グッドタイミング!!

 「ありがと!!

 私はお母さん達の視線から逃げるように背を向けてお父さんからお守りを受け取った。

 「・・・って、どうして”家内安全”なのよっ!?

 お父さんから受け取ったお守りは受験とは関係無さそうな・・・。

 「だって、お前が受験ノイローゼとかになったら必要になるだろ?」

 う・・・そ、そう?

 「じゃ、私からは交通安全。受験勉強で注意力が落ちると事故に遭うかもしれないからね。」

 お義父様???

 「は、はぁ・・・ありがとうございます・・・??」

 なんか・・・騙されているような・・・???

 「私からは破魔矢。悪いことが逃げて行くようにね・・・。」

 「わぁ、お義母様、ありがとう・・・。」

 でも、何か・・・変?

 「はい、レイ。私からね。」

 「あ・・・あ、ありがと・・・?」

 ・・・・・・。

 「ば、馬鹿ぁっ!!

 お母さんが私にくれたのは”安産のお守り”

 結局だぁれも学業成就とか合格祈願のお守りくれなかった・・・。

 いいもん、自分で買うから・・・。

 「待ちなさい、レイ。」

 お母さんがにこにこしながらこっちに来る・・・。

 「ほら、これ。」

 なぁに???

 どこかで見たような・・・コイン???

 「”合格祈願”したって言ってたわ。」

 誰が?

 「鈍いわねぇ、この子も・・・。」

 お母さんがそう言うとみんなが一斉に笑った。

 え?

 それじゃ、これ・・・。

 「あんたと一緒に行ったんでしょ?あの泉。シンジ君、あんたのためにまた行ってくれたんだって。大切にしなさいよ。」

 「で、でも、投げちゃうんだよ?」

 確か、コインを背中越しに投げて、それで・・・またローマに来られるって、言うんじゃなかった???

 合格祈願とも違うみたいな・・・。

 「レイちゃんが合格したら、また会いに行けるでしょ?合格祈願みたいなものよ?」

 そっか!

 「大切にします!

 今年も・・・良い年になりますように・・・。


Mail or Back to Index