| 転校生 R |
| 作 : Ophanim |
| 第23話 小夜曲 |
-
「綾波さん、これ回してくれるかな?」
大和さんは何も知らない・・・。
無邪気にさえ見える笑顔で私に何か差し出した。
「これは?」
大和さんの説明によると、電動式ビンゴ、・・・のようなもの。
ランダム並べられた順番に番号がでるから、それで景品交換にするみたい。
私は早く終わらせようと、ぴぴっと簡単に操作した。
「7番。」
私が引くと大和さんは直美ちゃんにも”ビンゴ”を勧め、そのまま人ごみの中に消えて行った。
おそるおそる振り向いてみる。
あの女の人はいなくなってる。
ふぅ。
良かった・・・。
「綾波さん、これ。」
大和さんが私に何か持って来てくれた。7って大きく書いてあるから、プレゼント交換の景品だと思う・・・。
「なぁ!」
ちょろっと小さい男の子が飛び出してきた。
私はぶつかってしまって少しよろめいた。
よろよろする私を支えてくれたのは・・・大和さんだった。
「あ、綾波さん、大丈夫?こら、マサヨシ!危ないだろ!?」
大和さんは口調とは裏腹の優しい顔で”マサヨシ”君の頭を押さえつけた。
「え?あ、お、弟さんですか???」
大和さんの弟、大和マサヨシ君は私と同じ中学の一年生らしい。
へぇ、知らなかった。
マサヨシ君は私の足元でぴょんぴょん跳ねている。
私はこの会場で初めて自分より小さい人を見つけたのでちょっと嬉しくなった。
そんな私の気持ちを読み取ったのか、マサヨシ君は不機嫌そうに私を見上げると、ぷいっと向こうを見てしまった。
ふふ、可愛い・・・。
「見せろよぉ!」
「だめだっての!」
大和さんが自分の袋を高く持ち上げた。
マサヨシ君は一生懸命飛び上がったけど、大和さんには届かない。
「父さんの挨拶が終わるまで待てよ。」
「俺、自分のはもう知ってるもんね。」
「なんだ、開けたのか?せっかちなんだから・・・。」
大和さんに怒られたマサヨシ君はぶつぶつと文句を言ってる。
「・・・では、プレゼントをお開け下さい。」
がさがさ・・・。
白?
ふわふわ・・・。
「レイちゃん、なんだった?」
「ニット帽みたい。直美ちゃんは?」
私は袋から出したニット帽を早速かぶってみた。
「あたしTシャツなんだけど・・・。サイズが大きいのよねぇ・・・。」
「いいじゃない。直美ちゃん、そういうの上手に着るもの・・・。」
わぁ!という声が上がった。
「いいなぁ、兄さん・・・。」
マサヨシ君は大和さんを羨ましそうに見ている。大和さんがもらったプレゼントは時計だった。
「お前のはなんだよ?」
「女物のマフラー・・・。」
え?
あ!!
「いい柄じゃないか。手編みかな・・・?」
大和さんが弟さんから受け取ったのは、私が編んだマフラー・・・。
「そう・・・です・・・。」
ちょっと火照ってきちゃった・・・。
「微かにいい匂いもするし・・・って、ええ?これ、綾波さんが編んだの?」
大和さんに驚かれちゃった。
「おい、マサヨシ。交換しような。」
「やだ。」
ほえ?
さっきまで羨ましそうに見ていたのはお兄さんの大和さんだったけど、今は逆になってる。
「あ、あの、大丈夫です。大和さん。大和さんにも、別にちゃんと・・・。」
プレゼント交換、ってことは、誰に行くか判らない、ってことだから、ちゃんと別に持ってきたのよ。
私はマフラーを取りに、大和さんと一緒に部屋を出た。
この部屋に入る前に、持ってきた荷物は預けてあるの。
んーと、く、くろーく?とか、言うみたいだけど・・・。
「えぇと・・・これです・・・。」
持ってきた袋の中からM.D.とイニシャルの入ったマフラーを出す。
「わ、これを?僕に?ありがとう、綾波さん!」
そ、そんなに喜んでくれると嬉しいなぁ・・・。
「兄さん、交換しようよ。」
今度はマサヨシ君がまた羨ましがってる。
「だめだって。これは僕が綾波さんに・・・。」
「だって、さっきは欲しがってたじゃないか!あ、それに、どうせイニシャル同じだし・・・。」
あははは。
「仲いいですねぇ・・・。いいなぁ、兄弟がいて・・・。私、一人っ子だから・・・。」
私がそう言うと、マサヨシ君は照れたように
「仲良くないよっ!」
と言い残して走り去ってしまった。
「他にもあと一人、妹がいるんですけど、今日は小学校のクリスマス会があったみたいで・・・疲れてもう寝てます。」
大和さんは弟さんのあとを追いかける様子も無く、自分の家族構成を説明し始めた。
「へぇ・・・大和さんの妹さんじゃ、可愛いでしょう?」
「綾波さんには負けるでしょ。」
大和さんは珍しく軽口を言った。
パーティの雰囲気に乗せられたのかもしれない。
「そ、そんなこと、無いです・・・。」
私は・・・可愛いなんて、あんまり言われたことないから・・・。
会場に戻るまで、私は口を開かなかった。
大和さんは私が照れていると思ったのか、そっとしておいてくれた。
会場に戻ると、向こうの方で手を挙げて大和さんを呼んでいる人がいる。
確か・・・大和さんのお父さん?
「じゃ、綾波さん、また後で・・・。」
大和さんが行ってしまうと、私は一人取り残された。
「痛いっ!」
不意に足を踏まれた。
「あら?ごめんなさい。」
あ!
私は本能的に身を固くした。
あの女の人だ・・・。
「あぁら、もう帰るの?そうよね、もらうものもらったら用無いものね?」
え、え??
「山城!」
厳しい声でその人は山城さんを呼びつけた。
「この子、帰るって。玄関まで送ってあげて頂戴。」
「あ、あの。吉野様?」
山城さんは困って私と吉野さんを見比べるようにしている・・・。
「か・え・る・の!判った?」
吉野さんは一言一言区切るようにして言い切った。
山城さんはますます困ってる・・・。
「あ、あの・・・わ、私、帰ります。」
これ以上、山城さんを困らせたくない・・・。
「し、しかし、綾波様?」
「ううん、いいの。ちょうど疲れてたし・・・。行きましょう?」
私は山城さんを促すように笑い顔を作って、先に会場を出た。
クロークに寄って自分の荷物を受け取る。
その間ずっと、山城さんは渋い顔をして私を見ていた。
「よろしいのですか?綾波様?」
「あ、そうね・・・。直美ちゃんには、”気持ち悪くなったから、帰った”って、伝えておいて下さい。連れて帰るのも、なんか悪いし・・・。」
私は吾妻さんと一緒にいた直美ちゃんを思い出してそう言った。
吾妻さんも楽しそうだったし・・・。
「ここでいいです。ありがとうございました。」
玄関先で、私は山城さんに頭を下げた。
「お帰りは・・・歩いてお帰りですか?」
山城さんは心配そうに聞いてくる。
「ええ。バス停まで。そこから、バスで・・・。」
「しかし、外は雪です。」
え?
山城さんが指差す方を見ると、窓の外に雪が降っているのが見えた。風も強そう・・・。
「大丈夫です。ほら!これ見て下さい。私が作った膝掛けなんですけど、これ、コートの中で肩に巻いて行けば、暖かいと思うし・・・。」
私はそう説明しながら膝掛けをショールのように羽織った。
その上にコートを着て山城さんに微笑む。
「ですが・・・。」
「あの、大和さんにも、今日は楽しかったって、伝えて下さいね。」
これ以上時間をかけたら山城さんも風邪を引いてしまいそうだった。
最後にもう一度だけお礼を言って外に出る。
びゅっと音がして凄い勢いで風が吹いて来た。
思わずよろけてしまった。
「あ、痛・・・。」
踏まれた足が痛い・・・。
寒くなって痛みが増したみたい・・・。
そういえば、あの人、ハイヒール履いていたものね・・・。
私は自分の履いてきた、中学校指定のローファーを見つめた。
ちょっと、凹んでしまった。
大事に履いてたのに・・・。
あ、でも、そんなこと考えてる場合じゃなかった。
雪が積もる前に帰らないと、大変なことになりそう・・・。
表玄関を抜けて、ようやく門の前までついた。
招待券の半券を渡して出してもらう。
急がないと・・・。
大き目の一歩を踏み出しかけた時、ずるっと滑ってしまった。
危なぁい・・・。
ローファーじゃ滑って当たり前かぁ・・・。
ゆっくり歩かないと・・・。
あ、それに、帰りは電話しろって言われてたんだっけ。
んー・・・でも、ま、こんな早い時間に帰るんだから、大丈夫ね・・・。
そう・・・。
大丈夫・・・。
こつこつ、と自分の足音が響く。
容赦無く降り続く雪が、あっという間に赤いコートを白く染めていく。
街頭の灯りは、さっきまでいた部屋の暖かさから程遠い冷たさを放っている・・・。
じわ・・・。
ど、どうして?
別に、なんでもないのに・・・。
どうして、涙が出るんだろう・・・。
ぶぅーんと言っていた車の通り過ぎる音は、いつの間にかしゃーっという雪を掻き分ける音に変わっていた。
大和さんの家を外界から隔てている壁に沿って歩く。
その角。
私の歩いて行く先に黒塗りの車が止まっていた。
車の隣には雪まみれの誰かが立っていた。
なんだろう?
何かあったのかな?
あ、そういえば、さっきここを通った時は、吉野さんが乗っていた車にぶつかられそうになったんだっけ・・・。
ここ、狭いから、それと関係あるのかな?
そんなことを思いながらそこまで行くと、車の扉がさっと開いた。
「綾波様。」
え?
「お待ちしておりました。どうぞ、お車の中へ。」
や、山城さん???
雪の中で微笑む山城さんは、少しダイエットしたサンタクロースのように見えた。
今日は楽しかったですか?
ご不満な点はありませんでしたか?
山城さんは私の隣で色々と話しかけてくれる。
私はただただ恐縮するだけ・・・。
「わ、私はもう圧倒されてしまって・・・。凄く、場違いでした・・・。」
みっともない・・・。
今振り返れば、確かにそうかもしれない。
靴一つ取っても、私は余りにも無頓着過ぎた。
そのようなことはありませんでしたよ、という山城さんの言葉はひどく空虚に聞こえる。
「あ、あの、も、もし、また呼んでいただけるなら、私、もうちょっと、いい格好で来ますから・・・。で、でも・・・あんまり大きな会には、呼ばないで下さい・・・。」
山城さんの優しそうな笑顔を見るのが辛くなってきた。
「私、雪、好きなんです。山城さんは?」
話題を変えて、ついでに泣き顔を見られないようにするために、私は顔を車の外に向けた。
「この年になると寒いのはどうも・・・。」
山城さんは苦笑いを混ぜた声で答えた。
え?
じゃ、この寒い雪の中、寒がりの山城さん、私を待っててくれたの?
「ご、ごめんなさい。私のために・・・。」
慌てた私は車の中で立ち上がろうとして天井に頭をぶつけてしまった。
「いたたた・・・。」
「大丈夫ですか?」
運転手さんも心配そうに私を振り向く。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい・・・。」
必死で謝る私を山城さんも運転手さんも笑って許してくれた。
車は私の家の前ですーっと音も無く止まった。
「あ、あの。山城さん、寒い中・・・その、すみません・・・。」
何か・・・あ、そうだ!膝掛け!
「あの、よろしかったら、これ使ってください・・・。あ、わ、私、勉強する時とか、使うんですけど、暖かいんです。自作で、編目とか汚いかもしれないですけど・・・。」
私は背伸びして山城さんの肩に膝掛けをかけた。
「私に、で、ございますか?」
山城さんは怪訝そうに私を見る。
「お外で待っているのは寒いでしょう?あ、でも、い、いらなかったら、捨てて下さい。」
「め、滅相も無い!いや、これはどうもありがとうございます。」
山城さんは本当に嬉しそう。
良かった。
「そ、それじゃ・・・今日は、どうもありがとうございました。凄く楽しかったって、大和さんにも伝えて下さい。」
私はお辞儀をして家の中に戻った。
私が外にいる間は山城さんが車に戻らなそうだったから・・・。
「ただいまぁ。」
「レイ、何か届いているわよ。イタリアから。」
あぁ・・・。
ありがとう、碇君・・・。
メリー、クリスマス・・・・・・。
「何泣いてんの。この子は?楽しくなかったの?」
お母さんの不思議そうな声を背に、私は自分の部屋に戻った。
Mail or Back to Index