転校生 R
作 : Ophanim
第21話 宴へのお誘い




 「寒くなったわねぇ・・・。」

 ヒカリちゃんはぶるっと一つ身震いをしてからそんなことを言った。

 そうか、寒くなったんだ・・・。

 お義母様にいただいたコートは寒さを忘れさせてくれる・・・。

 「もうすぐクリスマスねぇ・・・。」

 私は”寒くない”と言うのも気が引けたので、話を逸らした。

 向こうから白いコートが元気に走ってくる。

 「おはよう!赤いコートなんて、誰かと思っちゃったよ。暖かそうなコートね。買ったの?レイちゃん??」

 直美ちゃんが矢継ぎ早に言葉をかけてくる。

 「え、えーと、待ってね・・・うーんと、何から答えればいいの???」

 私の答えに直美ちゃんは笑い出して、”そのコート、買ったの?”ともう一度質問を繰り返した。

 「ううん、違うの。いただいたの。お義母様に・・・。」

 私は自分で選んだわけではないことを説明した。

 「でも、似合ってるわ。」

 ヒカリちゃんが誉めてくれた。直美ちゃんも、”いい趣味してる”って言ってくれたし・・・。

 なんだか、心まで暖かくなって来たような気がして、とても嬉しかった。



 帰り道。

 「それにしても、いい感じ。いいなぁ。お姑さんと仲が良くて・・・。」

 直美ちゃんは今日一日で何回言ったか判らない”趣味がいい”の後に今日初めての言葉を繋いだ。

 お、お姑・・・。

 「そ、そういう言い方、しないでよ・・・。」

 私はお父さんとのやりとりを思い出しながら、呟くように言った。

 「だって、そうなんでしょ?相手の人のお母さんだもの・・・?」

 ヒカリちゃんも直美ちゃんに調子をあわせている。

 「そ、それは・・・そうなんだけど・・・。」

 なんか、違うんだけど・・・。

 「碇君にも見せたの?」

 直美ちゃんにも追及されて私の足取りはだんだん遅くなる。

 「う、うん。可愛いって・・・。もっと他のも試してみようって・・・。そしたら、お義母様のいろんな衣装着せ替えさせられちゃって・・・。」

 それを聞いた直美ちゃんとヒカリちゃんは二人で顔を見合わせた。

 「えええええ!も、もうそんな深いところまで・・・。」

 「衣装って、どんなの・・・まさか、あんなのとかこんなのとか・・・。」

 ふ、二人とも!

 「ふ、普通の服!ワンピースとかジーパンとか、デニムのスカートとかぁ・・・。」

 だ、だいたいお義母様が変な服持ってるわけないじゃない・・・。

 私がむきになって否定していると、二人とも大笑いを始めた。

 「そんなの、判ってるわよぉ・・・。」

 「ほんっと、レイちゃんをからかってると飽きないわぁ・・・。」

 むぅ・・・。

 「でも、家族ぐるみで遊ばれてるわねぇ。」

 ヒカリちゃんが笑いながらそう言った。

 そ、そうかなぁ??

 「ほんとよね。これじゃ、レイちゃんの家はやめておいた方がいいわねぇ。」

 直美ちゃんは少し考えながらそう言った。

 「?何の話?」

 私は直美ちゃんに聞いてみた。

 「卒業記念にね、クリスマスパーティーをね、考えていたんだけど・・・。」

 私の質問にはヒカリちゃんの方から答えが出た。中学最後だしねぇ、と直美ちゃんが続ける。

 「あはは。どうせだめでしょ?ヒカリちゃんは鈴原君の所に行くんだもんね。」

 私はお返しのつもりでヒカリちゃんをからかった。

 「あ!そっかぁ!

 「ちょっと、勝手に決めないでよっ!

 ヒカリちゃんは真っ赤になって否定した。

 でも・・・。

 「おぉい!ヒカリぃ!ちょっとええかぁ?

 遠くから鈴原君の声が聞こえてきた途端、ヒカリちゃんは両方の頬をぱっと桃色に染めた。

 「はぁい!

 私達と話す時よりも数段高い声で答えたヒカリちゃんはそわそわしながら、私達を罰が悪そうに見つめた。

 「早く行った方が良いかもよ?」

 私が全部言う前に、ヒカリちゃんは一言”ちょっとごめんね!”と言い残して鈴原君の所に飛んで行った。

 おおげさな身振りで頷いたり首を振ったり・・・ちょっと俯いてこっちを窺ったり・・・。

 聞こえなくてもどんな話をしているか判っちゃう・・・。

 「こりゃあ、ひぃちゃんは来ないわね。」

 直美ちゃんは苦笑いしながら私にそう言った。直美ちゃんはヒカリちゃんをひぃちゃんと呼ぶことがある。自分のことも時々”なお”って言ったりする。こんな時、省略しようの無い自分の名前が寂しくなったりする。

 「仕方ないわ。」

 私は遠くで私達に両手を合わせているヒカリちゃんに小さく手を振って、”いってらっしゃい”を言った。

 「はぁ!所詮女の友情なんて恋愛感情の前には脆いものねぇ・・・。」

 直美ちゃんは大きなため息をついた。

 「そんなことばっかり言ってぇ・・・合同祭の時は直美ちゃんが私達を放り出したくせにぃ・・・。」

 私は慌ててヒカリちゃんを庇う。

 「そーんな昔のことは忘れたわよ。レイちゃんだって夏休みは・・・。」

 「わ、私は別に責めてないもん・・・。」

 そんな話をしながら下校していると、不意に背中から声をかけられた。

 「綾波さん。」

 あ・・・大和さん・・・。

 「あ、え、えーと・・・その、こんにちわ・・・。」

 さっきの今だから気まずいなぁ・・・。

 「あのさ、今度の24日、暇かな?」

 「う、うーん・・・。い、今ちょうどその話で・・・。」

 私はさっきヒカリちゃんがしていたのとほとんど同じ仕草で直美ちゃんの様子をちらちらと窺いながら、さっきまでの話をかいつまんで説明した。

 「じゃ、まだ決まってなかったんだ。良かった。うちでクリスマスパーティーやるからさ、おいでよ。」

 大和さんはにこにこしながら話している。

 「え・・・と・・・どうしよう・・・。中学最後だから、みんなでいたかったんだけど・・・。」

 私がそう言うと、その言葉を遮るように直美ちゃんが苦笑いしながら割り込んできた。

 「いいじゃん。レイちゃん、行ってきなよ。あたしのことはいいから。」

 「で、でも、さっき・・・。」

 直美ちゃんは心の底から大笑いをした。

 「あんなの、冗談に決まってるじゃん?」

 「でもぉ・・・。」

 私達のやり取りを見ていた大和さんは不思議そうな顔をした。

 「?みんなで来たらいいよ?人数多い方が楽しいし・・・。歓迎するよ?」

 わ!

 やっぱり、私達とは感覚が違ぁーう・・・。

 「いいんですかぁ?」

 なぁんて甘い声出してぇ!!

 「そんなこと言って、直美ちゃん、行く気満々でしょ?」

 「あ?ばれたぁ?」

 目、きらきらしてるよ?

 「何かプレゼントになりそうなもの、持って来てくれる?プレゼント交換をするんだ。」

 うーん・・・なにかあるかしら・・・?

 「現役女子中学生の制服、夏服なんてどう?」

 「な、直美ちゃん!

 し、しれっとした顔でなんてことを・・・。

 「さ、さぁ?価値あるのかな?ま、女の人も来るから性別を選ばないものにしてくれると良いなぁ。」

 ほらぁ!

 大和さん、困ってるじゃない・・・。

 真っ赤になってる私を尻目に、二人はさっさと段取りを決めていた。

 24日の前に私達に招待状が届く。

 それを持って大和さんのおうちに6時頃。学校終わってすぐくらいね。

 そうすると、門の所で執事のお爺さんが待っているから、受付して中に・・・。

 「はぁい。じゃ、24日ね。」

 直美ちゃんは嬉しそうに手を振っていた。



 24日は夜から雪になる、と予報があった。帰り、寒そう・・・。

 ホワイトクリスマスは嬉しいけど、寒いのは嫌。マフラーもあるけど、もう一枚、何か無いかしら・・・。

 そうだ、これにしよう!

 私は自分で編んだ毛糸の膝掛けを臨時の肩掛けに使うことにした。

 冬の寒い時にこれをかけてお勉強するととても暖かいの。

 行く時はプレゼント交換の景品にするマフラーと同じ袋に入れていけばかさばらないし・・・。

 私が”行ってきます”を言うと、お母さんお決まりの”早く帰って来なさい”が見送る。

 でも、今日はもう暗くなってから出かけるんだから、”暗くなる前に帰るのよ”は無かった。

 その代わり、”帰りは電話しなさい。迎えに行くから。”という優しい声が聞こえてきた。

 「はぁい。」

 玄関に向かって返事をして、直美ちゃんとの待ち合わせ場所に急ぐ。

 直美ちゃんは私がついてから少しして、はぁはぁ言いながら駆けてきた。

 「はぁ・・・ごめん。待った?」

 直美ちゃんも私と同じようにプレゼントを入れた包みをもうひと回り大きな袋に入れてきた。

 「ううん。私も少し遅れたから・・・。」

 私達は連れ立って大和さんの家に向かった。バスに少し揺られて、ここからは歩き。

 「レイちゃんは何を持ってきたの?」

 「秘密ぅ。」

 なんか、恥ずかしい・・・。

 「いいじゃないのぉ!

 直美ちゃんは私からプレゼントの入った袋を取り上げる仕草をした。

 私は胸の前にしっかり抱いてしゃがみこんだ。

 「じゃ、直美ちゃんはぁ?」

 そのままの格好で直美ちゃんを上目遣いに見上げる。

 直美ちゃんは一旦口を開きかけて、頬を赤らめた。

 「・・・秘密・・・。」

 「ほらぁ!

 そんな取り止めの無い話は、いつの間にか二人に共通の話に収束していった。

 「碇君にはもう送った?」

 クリスマスプレゼント・・・。

 「うん。時計。」

 「時計?」

 直美ちゃんはちょっと意外そうに眉をひそめた。

 「うん。こっちの時間も判るやつ。最近さっぱり電話してくれないんだもん・・・。催促のメッセージ付きよ。」

 私はぷくーっと頬を膨らませながら解説した。

 「直美ちゃんは?」

 「うん、あたしは細々したものを幾つか・・・。喉飴とか帽子とか・・・。」

 直美ちゃんは指折り数えながら答えてくれた。

 あ、そうかぁ・・・。

 碇君も、日本食、恋しがっているかもしれないから、何か送っておけば良かった・・・。

 私って、本当に気が利かないわ・・・。

 「ね、今度から、こういう時、一緒に送らない?送料が半分ちょっとで済みそうだし・・・。」

 直美ちゃんがまたとても良い提案をしてくれる。

 「そうね。送り先は一緒だものね。大きな箱の中に、2箱入れれば済むことだし・・・。」

 本当に直美ちゃんは良く気がつく良い子・・・。

 私ってまだまだだわ・・・。

 「あ、ここじゃない?」

 私は戴いた招待状の地図と見比べた。

 「わぁ!大きい!!さすが大和!!

 直美ちゃんは少しも迷わずにそこが大和さんの家だと断定してしまった。

 大きな高い塀に囲まれた敷地を壁沿いに歩くと、大和さんの説明通り、大きな門が見えてきた。

 壁をぽかんと見上げながら歩く私達を嘲笑うように、私達のすぐ傍を黒塗りの高級車が追い越していった。

 「危ない!

 「きゃっ!

 直美ちゃんが私の手を引いてくれなかったら、本当に私の手を撥ねていったかもしれないくらい近くを通りすぎて行った、・・・と見る間に、その車は門の前で急停止した。

 中から高校生くらいの女の人が出てきた。

 その人は車から飛び出してくると、運転してくれた人をねぎらうこともなく、もとより、私達に謝ることもなく、あっという間に大和さんの家の中に飛びこんでいった。

 「あんなのも客?」

 直美ちゃんはあからさまに嫌そうな顔をしている。

 「な、直美ちゃん・・・私、大丈夫だったから、ね、ね・・・。」

 私は直美ちゃんを宥めながら門に向かった。

 さっきの車はとうにいなくなっている。

 それでも、私達が門にたどり着くまでにあと2,3台の車に追い越された。

 「車で来るのが普通なのかなぁ?」

 私はここまでのちょっとぬかるんだ道を歩いてきた自分達の泥だらけの靴を見て少し悲しくなった。

 「いいわよ、別に気にしなくても・・・。」

 直美ちゃんはむっとしたように言うと、私の手を引くようにして門のところに行った。

 門のところでは少し白髪の入った、それでも上品な”紳士”が私達を出迎えてくれた。

 「いらっしゃいませ。お嬢様。」

 少しバリトンの効いた落ち着いた声がかえって私を慌てさせた。

 「あの、今日、その、マサハルさんにお呼ばれして・・・。」

 私があたふたしていると、後ろから直美ちゃんが

 「招待状、あります。入れて下さる?」

と、二人分の招待状をぴらぴら、と見せた。

 「はい。承っております。どうぞ、こちらへ・・・。」

 紳士は私達の先に立って歩き出した。

 「あ、あのぉ・・・門番はもういいんですか?」

 私は誰もいなくなった門を気にして聞いてみた。

 「はっはっは。門番、でございますか?いえ、私は坊ちゃまからあなた方お二人をご案内するように仰せつかっただけでございます。後は他のものがやるでしょう。」

 その言葉に私が振り返ってみると、確かに、もっと若い、大きな人がもう入り口に立っていた。

 「お連れ致しました。」

 「やぁ、ようこそ!ありがとう、山城。」

 大和さんがお礼を言ったのはこのお爺さん。山城さんと言うみたい。

 「ありがとうございます、山城さん。それじゃ、お邪魔します。」

 私は山城さんにお辞儀をして、それから大和さんにご挨拶をした。

 「ちょうど始まるところだよ。こちらへどうぞ。」

 大和さんが軽く手招きをする。

 「はぁい!

 直美ちゃんはすっかり機嫌を直して飛び込んだ。

 楽しいパーティはまだ始まったばかり。

 私は暖かい光がこぼれる部屋の中にゆっくりと入って行った。


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