転校生 R
作 : Ophanim
第17話 三者面談




 「れーい、ご飯よぉ。

 「はぁい・・・。」

 あ、あれ、聞かないと・・・。

 「お父さんかお母さん、来週いつか時間取れる?」

 夕食の時に私は今日先生から言われたことを連絡した。

 「ん?どうした?急に?」

 お父さん・・・口にものを入れたまま話さないで・・・。

 「三者面談なの。無理なら良いわ。」

 私は魚をお箸でつつきながら答えた。

 「いや、それは大事だろう?仕事休めたかな?」

 お父さんは口をもぐもぐしながら手帳を探しに席を立った。もう、無理ならいいって言うのに・・・。

 「お父さんはいいですよ。レイ、私でもいいんでしょう?」

 「勿論よ。」

 是非そうしてって感じかも・・・。

 私はお父さんのだらしない格好を出来るだけ見ないようにしながらそう思った。

 「それなら、私が行きますよ。」

 「ありがとう。」

 ついつい頬が緩んでしまう。

 「私が無理ならユイに行ってもらうから・・・。」

 お母さんはさらりと言葉を続けた。

 「ありが・・・っち、違うでしょう?」

 顔の体温だけがさぁっと上がって行くのが判る。

 「似たようなものじゃないの。」

 「あっはっは。

 お父さんはお母さんの言葉で大笑いをした。

 もう!

 「笑ってないで、ちょっとは真面目に考えてよ!

 私の声でお父さんは少し困ったような顔になった。

 あ・・・。

 ごめん・・・なさい・・・。

 どうしてだろう?

 最近、お父さんのやることが、凄く嫌な気持ちになることがある・・・。

 前はこんなこと、無かったのに・・・。

 「そうだな・・・レイ、一応聞いておくが・・・。」

 お父さんは神妙な声つきで私に話しかけた。

 「何よ・・・?」

 出来るだけ大人しく答えようとしても、こんな言葉しか出て来ない・・・。本当に、どうしちゃったんだろう・・・?

 「・・・結婚式は神式がいいか?それとも、教会でやるか?」

 !!

 ・・・ぽっ

 「・・・もうっ!!知らないっ!!

 私はお父さんの笑い声から逃げるように、自分の部屋に飛び込んだ。



 「初めまして、私、担任の代理をしております、生駒と申します。」

 ぺこ、と先生がお母さんに頭を下げた。

 「こら!あんたも挨拶なさいっ!」

 先生が頭を下げるのを見るのは珍しいので、ついみとれていたらお母さんに怒られちゃった・・・。

 ご、ごめぇん・・・。

 3人で向かい合って椅子に座る時、お母さんがそっと耳打ちをしてきた。

 「(ちょっと、代理ってどういうこと?)」

 「(あ、葛城・・・じゃないや、加持先生、新婚旅行に行って、その後、産休とって・・・。)」

 「(何やってるんだか・・・。)」

 「(でも、いい先生なんだよ・・・。)」

 私の弁護が届いたかどうかはちょっと判らなかった。生駒先生が資料を広げて面談を始めたから・・・。

 「さて、綾波さんについては何の問題も無いですね。この成績でしたら・・・そうですねぇ・・・私立ですけど、虹越高校でも大丈夫でしょう。推薦で通るでしょうから。成績の方も安定して高い水準ですから、問題無いですね。最近は運動の方でも活躍しているみたいですし・・・。」

 え?私は恐る恐るお母さんの顔を見た。

 「はぁ。」

 お母さんはまんざらでもなさそう・・・。

 「そ、そうなんですか?」

 私は運動なんてした覚えが無いから焦って聞き返しちゃった・・・。

 「あんたが聞いてどうすんのよ?」

 お母さんは呆れて私を見つめた。

 「だ、だって・・・。」

 本当に知らないのよ・・・。

 「ほら、合同祭の・・・。」

 見かねた生駒先生が私に助け舟を出した。

 「あぁ・・・でも、あれは、周りの人が上手だっただけで・・・。」

 そこまで言ったところで生駒先生は私の口を人差し指で閉じた。

 「・・・いい?面接ではちゃんと自分で主張するのよ?」

 あ、なるほど・・・。

 「そ、その・・・すみません・・・。」

 面接の練習も兼ねてたのね。

 「まぁ、その謙虚さが珠に瑕ですけどね、他には特に注意するところも無いですね。成績優秀、容姿端麗、品行方正、言うこと無しですよ。ご両親も将来が楽しみでしょう?」

 生駒先生、誉め過ぎですぅ・・・。

 「ありがとうございます。でも、一体どうなることやら・・・。」

 お母さんも少し照れているみたい・・・。

 「希望は通訳でした?」

 あ、私?

 「は、はい。ですから、文科系の大学に進むつもりです。」

 練習、練習・・・っと。

 「はい、良く出来ました。み〜んなこういう生徒さんだと私も楽なんですけどね。この前、どうしてもKI学園に行きたいっていう生徒がいて・・・。理由聞いたら、何て言ったと思います?」

 生駒先生はため息を混ぜながらお母さんに話しかけた。

 「さぁ?家から近いとか、逆に、遠いとか・・・?」

 「全然。”制服が可愛いから”ですって。」

 あ・・・それ、多分、直美ちゃんだ・・・。

 お母さんと生駒先生はその後もしばらく和やかに話をした後、どちらからとも無く立ち上がった。

 「それじゃ、今日はお忙しいところをどうもありがとうございました。」

 「いいえ、こちらこそ。これからもレイをよろしくお願いいたします。」

 ほら、というお母さんの声で、私も急いで立ち上がった。

 「のんびりしているのでいつも心配しているんですよ・・・ほら、あんたも挨拶。」

 ぺこ。

 がらがらがら・・・。

 「・・・早かったわねぇ・・・。」

 「ね?だから、来なくてもいいって言ったでしょう?」

 私は甘えてお母さんに寄りかかった。ずいずいと押して行く、この方向には、美味しいケーキを出す喫茶店があるの。

 「あ!こいつめ・・・でも、まぁ・・・いいか・・・。今日だけよ?」

 ぺち、と小さく叩かれたけど、痛くない。

 「私、苺がいいな。」

 「はいはい・・・。」

 あ。

 私は注文を取りに来たウェイトレスさんをじぃっと見つめた。

 可愛い制服だなぁ・・・。

 って思ってたら、お母さんはさっさと注文をウェイトレスさんに言って帰してしまった。

 もぉ・・・。もうちょっと見てたかったのに・・・。

 「さっきの話だけど、それにしても、制服が・・・っていうのはちょっとどうかしら?どう思う?」

 え?あ、な、何?制服???

 「ん〜???か、可愛い方が良いなぁ・・・。」

 私はウェイトレスさんの方を見ながら答えた。

 「はぁ?高校の制服の話よ?」

 お母さんは確認するような感じで私に聞き返した。

 「へ?あ、そ、そうね。うーん・・・まぁ、三年も着るものだから、私もどうせなら、可愛い方がいいなぁ。・・・あ、勿論、同じような高校だったら、っていう話よ?」

 私は自分の意見を正直に話した。ウェイトレスさんを見ていたら、制服が可愛いのも大事だな、って思ったから・・・。

 「ま!なぁにを偉そうに・・・。高校を選ぶつもりでいるわけ?この子ったら・・・。選んでもらう立場のくせに。」

 お母さんはわざと大袈裟な身振りでそんなことを言った。

 「で、でも・・・。」

 「冗談よ。で?どうするの?虹越高校?」

 ちょうどケーキと紅茶が届いたので、そこで一度話は途切れた。でも、私はその間に自分の考えをまとめた。

 「一応面接は受けると思うけど、別に私立じゃなくて、市立でいいと思っているの。」

 私は慎重に、でも、はっきり、自分の考えを話した。

 「どうして?私立の方が合格実績はいいのよ?」

 お母さんの口調は少し咎めるような響きを持っていた。

 「ん・・・せ、制服が可愛いからって言うのは?」

 お母さんは”え?”と文句を言いたそうな顔をした。

 「・・・あんた、センス悪いわ・・・。」

 市立の制服は私立のよりもずっと地味なの。

 「わ、判ってますよぉ・・・。」

 今のは冗談・・・。

 「自覚してるなら良し。」

 ま、待って・・・。

 「ち、違うわよ!私だって、私立の制服の方が可愛いと思うし、合格率がいいのも知ってるもの・・・。」

 このままじゃ”私がセンス悪いのを自覚している”ことになっちゃう・・・。

 「じゃ、どうしてよ?」

 う・・・怒ってるのかな?

 「ん・・・んと、学費とか・・・。」

 どんどん声が小さくなってしまう・・・。

 「なぁに言ってんのよ?どうせ大学まで行くつもりのくせに・・・。変なところで遠慮してんじゃないわよ。」

 わ・・・お、怒られちゃった・・・。

 「・・・ごめんなさい・・・。」

 しゅんとなってしまった私に、お母さんが優しい声をかけてくれた。

 「あら、ごめんなさいね。そう言うつもりで言ったんじゃないのよ?あんたがなかなか本心を言わないから。で?本当のところはどうなの?」

 うう・・・お見通しなのね・・・。

 そう、今までのは、全部建前なの・・・。

 「・・・ほら、大学受験以外にも、大切なものってあるでしょ?・・・ある・・・わよね???」

 私はどきどきしながらお母さんに説明した。

 お母さんはコーヒーを飲みながら、ゆっくり、小さく、頷いた。

 「し、進学校に入ってしまうとぉ、つ、詰め込み式のお勉強ばっかりでしょう?テストしか出来ない、とか・・・。」

 聞いてる?お母さん?

 「そ、それよりはね?のんびりとね?ほら、大学受験もするけど、部活動とかぁ、お稽古事とか・・・。」

 「アルバイトとか?」

 う・・・。

 「ば、ばれてるのね・・・。」

 「そりゃあね、まぁ、自分の娘の考えることくらい、多少はね・・・。っていうか、あんたの考えることくらい、多分誰でも判るわよ?」

 うー・・・アルバイトしてイタリアに行くお金を作ろうと思ったのに・・・。

 そういいながら、お母さんの口調には責めるようなところが無い。そのことに励まされて、私はもう一度聞いてみた。

 「ねぇ・・・だめかなぁ?」

 「私よりもあんたの旦那さんに聞きなさいよ。”あなたのために、アルバイトしてもいい?”って。」

 ???

 旦那さん???

 ・・・え!

 碇君のこと!?

 やぁん、照れるぅ・・・。

 「ふられてもいいなら、聞きなさい。」

 顔を真っ赤にして照れまくっている私を、お母さんはたった一言で冷やした。

 「・・・嫌。」

 「考えてもみなさい。自分のせいで優秀な娘が一生を棒に振ったなんて知ったら、彼がどんなに苦しむか・・・。」

 私は返す言葉も無くて下を向いていた。

 「あんただって、彼があんたのために、”ここで練習してもいい”って言ったら、どうするの?」

 え?

 あ・・・う・・・。

 ご、ごめん、お母さん。

 お母さんの言いたいことは凄く良く判るんだけど・・・。

 「・・・ごめん・・・凄く、嬉しい・・。」

 どうしても、顔が緩んでしまって・・・えへ。

 「それでもいいわよ。今は。でも、将来必ず後悔するでしょうね。」

 お母さんは平然と答えた。

 「うん・・・そう思う・・・。」

 私は素直に頷いた。

 「だから、今はとにかく、自分の将来について考えなさい。なんだったら、自分”達”の将来でも良いわ。あなた達にとって、どういう形が理想なのか、そのためにはどうしたらいいのか、そして、そのためには今何をするべきなのかを考えてごらんなさい。」

 お母さんの言いたいことは、頭では良くわかる・・・。

 それに、それが正しいことも・・・。

 ・・・我慢、しよう・・・。

 「判った。とにかく、練習にもなるし、受けてみる。」

 私がそう言うと、お母さんは変な顔をした。

 「練習?練習って何よ?」

 え?そんなこと言われても・・・。

 「受験の、練習・・・。推薦って、時期が早いのよ。推薦落ちてからでも一般で受験できるし、市立の試験日は更にそれより後なのよ。」

 私は順を追って説明した。

 試験の順番で行くと、

 1・私立の推薦

 2・市立の推薦

 3・私立の一般

 4・市立の一般

 5・私立の二次募集

 6・市立の二次募集

 7・私立の三次募集(補欠合格)

の順番になるの。っていっても、三次募集が実際に行われたって言う話は聞かないけど・・・。あ、ちなみに、私立の入試日はあんまり重なっていないから、直美ちゃんが好きなKI学園と私の受ける(予定の)虹越高校は併願出来るわ。

 私立の推薦で合格すると、他の高校との併願は出来なくなるけど、一般で合格した場合は入学金の半分を納めることで入学の権利を保つことが出来て、市立の合格発表の後で入学手続きをとることが出来るの。ただ、公立の場合は市立と同じ日に試験と手続きをするからこの併願は出来ないの。

 「なぁんだ。そういうことなの。それじゃ、試験は受けるのね?」

 私はゆっくり頷いた。

 本当は面接が嫌だから推薦も受けるつもり無かったんだけど・・・。

 それを見てお母さんが深くため息をついた。

 「ごめんね、心配かけて・・・。」

 私はお母さんのため息に込められた思いを感じて謝った。

 「何はともあれ、まずは合格することね。それからどうするか考えましょう。」

 そう言うとお母さんはコーヒーを平らげてしまった。

 「はぁい。」

 私はお母さんが”もう帰りましょう”と言い出す前にケーキを食べてしまおう、とフォークを手に持った。

 「あ、それから。」

 お母さんが思い出したように声を出した。

 「なに?」

 私は目をケーキから離さずに答えた。

 「今日は母さん、嬉しかったわ。あなたは私の自慢だからね。それだけは忘れないで。」

 「・・・うん。」

 私は今度は目を上げることが出来ずに、ケーキを見ているふりをした。


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