転校生 R
作 : Ophanim
第15話 ふたおや






 ちりちりちりちりちりちりちり・・・・

 ?

 うるさいなぁ・・・。

 もうちょっと眠らせてよ・・・。

 ・・・・・・?

 目覚まし?

 どうして目覚ましなんてかけたんだっけ?

 ・・・???・・・!!

 私は勢い良く布団をはねのけた。

 パジャマがはだけるのも構わずに部屋の電気を点ける。

 「う・・・もう7時半・・・。」

 これはもうお弁当なんて作っていられないわ・・・。

 目覚ましを止めようとして左手を伸ばした時、信じられないほどひどい痛みが肩を襲った。

 「あ、いたたた・・・。」

 思わず肩を押さえてうずくまる。

 き、筋肉痛なの・・・。

 普段あんまり身体動かしてないから。

 一生懸命肩を揉んでいたら目覚ましは勝手に止まってしまった。私の目覚ましさんは2時間鳴りなり続けるタイプ。・・・ってことは5時半からずっと鳴り続けだったのですねぇ・・・なんて近所迷惑・・・。

 くしゅん。

 私は小さくくしゃみをした。

 ちょっとこの格好は寒い・・・。

 私は体を震わせながらクローゼットを開いた。

 夏休みがこの前終わったと思ってたのに、最近はすっかり秋めいていて夏服だけだと朝は少し肌寒いくらい。

 寒さを堪えるためにもとりあえず制服に着替える。下着が透けないように厚めのブラウスを着て、その上に去年お義母様にいただいたサマーカーディガンを羽織る。去年これいただいた時って、碇君を起こしに行ってたのよね・・・。いきなりお義母様に”それじゃだめ”なんて言われて・・・。膝が出るくらいスカート短くされて・・・。そりゃあ・・・ルーズソックスだけ真似してスカートがあってなかったら変だったけど・・・恥ずかしいから今は元に戻している。もう、見てもらいたい人もいないし・・・。でも、サマーセーターとこのクリーム色のカーディガンは気に入ったので今も着ている。胸元にちょっとだけ入っている赤黒ラインがアクセントになってるの。

 着替え終わって洗面所へ。

 顔を洗って髪を梳かして・・・・・・あれ?待って。

 えーと・・・。

 今7時50分。ご飯食べて、8時10分?・・・でも、今日は朝から試合って言ってたから・・・ち、遅刻しちゃう!!

 「ちょ、ちょっと!急がないと・・・。」

 私は慌ててキッチンに飛び込んだ。

 「あら、おはよう、レイ。」

 お母さんは悠然とコーヒーを飲んでいる。

 「おはよう、お母さん。いきなりでごめんだけど、学校まで送ってくれない?」

 私はトーストをくわえながらお願いした。

 「あら、だめよ。今日私は午前中お仕事なの。午後からなら行けるわ。」

 お母さんは何事も無かったかのようにあっさりと断った。

 「ええっ!・・・どうしよう・・・第一試合なのに・・・遅刻しちゃう・・・。」

 私は涙目になりながらお母さんを見たけど、お母さんは少しも表情を変えない。

 「あらそう?困ったわね。」

 ・・・顔が全っ然困ってないよ、お母さん。

 ぴんぽーん

 不意に玄関のベルが鳴る。

 「あら。早かったわね。おはよう。」

 お母さんは誰が来たのか判っているみたい・・・。

 「そりゃあねぇ・・・私の娘みたいなものですもの。」

 ゆ、ユイおばさ・・・お、お義母様・・・。

 「ど、どうして?」

 お義母様は驚く私を急かすように手を取った。

 「レイちゃんが活躍するところ見られるように二人で仕事半分こしたのよ。昨日は私がチトセの分をやって、今日はチトセが私の分を午前中やってくれるわ。ほら、早くしないと遅刻なんでしょう?」

 お義母様は家の前に止めてあった車に私を押し込んだ。

 「ご、ごめんなさい・・・私、疲れて寝坊しちゃって・・・。」

 私は助手席のシートベルトをしながら謝った。

 「あぁ、いいのいいの。私が寝かせておいてってチトセに頼んだんだから・・・。」

 お義母様は微笑みながら、ちらっと玄関先のお母さんを見やった。

 「レイ、しっかりね。お母さんも午後には行くから。」

 お母さんも笑顔で私を見送る。

 あぁ・・・二人とも・・・何から何まで・・・。

 私は目頭が熱くなったので足元に目を落とした。

 車がゆっくりと走り出しても”間にあいそうよ”と声をかけられても、私は顔を上げることができなかった。



 「あ、来た来た!

 「おっそぉいっ!

 ご、ごめんなさい・・・。

 私はぺこぺこしながらみんなのところに行った。

 「レイちゃんレイちゃん、帽子忘れてるわ。」

 お義母様が笑いながら私に野球帽をかぶせる。

 「あ、ありがと・・・。」

 「頑張ってね。昨日シンジに教えてあげたら、すごく驚いてたわよ。」

 え・・・お、教えちゃったの?

 なんだか、恥ずかしい・・・。

 「そ、それで、その・・・碇君、なんて・・・?」

 恐る恐る聞いてみる。

 「”すごいや、今日も頑張って”って。」

 そして私は今、グランドの真中に描かれた円の中にいる。

 左肩は筋肉痛ですごく痛いけど、一生懸命投げる。

 球は昨日ほど思ったところに飛んでくれない。でも、相手にとってもコースを読みにくくしているみたいで、かえって昨日よりも”ひっと”打たれない。

 ベンチに帰る度に、お義母様が頭を撫でてくれるのも嬉しい。

 結局私達は8−6で2−Bに勝った。

 決勝は午後から、職員チームとやることになった。

 「勝ったんだって?」

 ヒカリさんが満面の笑顔でとんできた。

 ヒカリさんはバスケットボールで勝ちあがりを決めていた。

 「なんとかねぇ・・・。」

 私は照れながら答えた。

 「ね、みんなで御飯にしない?」

 直美さんが渚君に寄りかかるようにしてやってきた。

 「あら、いいの?渚君と二人で食べたかったんじゃないの?」

 ヒカリさんがにやにや笑いながら直美さんをからかった。

 「そぉんなこと言ってぇ・・・ヒカリちゃんだって二人で食べないでいいのぉ?」

 直美さんはヒカリさんの言葉を軽く受け流すと、私の隣に座った。

 すごいなぁ・・・。

 私だったら、真っ赤になるだけだろうなぁ・・・。

 「あ!

 私は鞄を見て忘れものに気がついた。

 「どうしたの?」

 お義母様が驚いて私を見る。

 「お弁当、忘れちゃって・・・。」

 朝寝坊したからなぁ。

 「そりゃあ、あんな時間まで寝てたらねぇ。」

 お義母様はくすくす笑って・・・?・・・って、お義母様が寝かせてたって言ったじゃないですかぁ!!

 私はぷぅっと頬を膨らませてお義母様の肩をつついた。

 「嘘嘘、ちゃあんと作ってあるからねぇ。」

 お義母様は笑いながら大きなお弁当箱を取り出した。

 「朝トーストにするって聞いたから御飯にしたわ。いっぱい食べてね。あ、みんなも試食してみない?」

 お義母様はお弁当を広げながらみんなを見た。早速鈴原君が手を伸ばしてきて、ヒカリさんに手を叩かれる。

 「あぁあ!あたしも作れば良かった!

 直美さんは渚君が手にしているコンビニお握りを恨めしそうに見つめた。

 「直美がなんか作ったの見たこと無いぞ?」

 「ひどいなぁ!上手いんだよ?あたし。」

 「その割に作っているところ見ないよなぁ・・・。」

 「・・・じ、時間が無いから完成見本を作ってもらっているのよっ!」

 直美さんってば・・・。

 「ほら、レイちゃんも食べて。」

 あ・・・なんだか、美味しい・・・。

 「こんなにたくさんつくるの、朝早起きだったんじゃないです?」

 なんだか、悪いわ・・・。

 「いえ?6時くらいかしら?慣れればこんなものよ?」

 お義母様はこともなげに答えた。

 「私もお義母様みたいな美味しいお弁当作りたいです。」

 「あら、じゃあうちに来る?教えてあげるわ。」

 お義母様は嬉しそうに話した。

 「あの・・・。」

 直美さんが私の方を見た。

 「おかあさまって?」

 し、しまった・・・。

 「あぁ。私が言わせてるのよ。シンジが欲しかったら私をそう呼びなさいって。」

 は、恥ずかしいから説明しないでぇ・・・。

 「へぇ・・・じゃ、欲しいんだ。」

 や、やだもぉ!直美さぁん・・・。

 「欲しいんだよ、きっと。」

 ひ、ヒカリさんもぉ・・・。

 「そ、そんな意味じゃ・・・。」

 私は顔を紅くしながら二人の口を塞いだ。

 「へぇ・・・あ、それじゃあ、いらないんだ?だったら僕にくれ。」

 な、渚君っ!!

 「あ、あげません!!

 私は両手を胸の前にしっかりくっつけた。碇君の写真、生徒手帳の中に入れてあるから・・・。

 「へぇ???碇君はいつからレイちゃんのものになったのかなぁ?」

 直美さんとヒカリさんは更に私を追及した。

 「は、春からずっと、私のものです!」

 私の言葉を聞いて、みんなにこにこ笑ってる・・・。

 うー・・・ま、また、からかわれてしまったのね・・・。

 結局私はお昼をずーっと顔を紅くしたまま過ごした。ずっと傍にいてくれたお義母様が、ぽつんと”ありがとう”と言ったのが、ちょっと嬉しかった。



 っばっしーん!

 ・・・・・・へろへろへろ・・・。

 こて・・・。


 すとらいぃく!

 「ず、ずるぅい・・・。」

 私は知らず知らず涙を浮かべて文句を言った。

 だ、だって、怖かったんだもん。球が速くて・・・。

 「ずるくありませんよぉだ。私、ソフトボール部にはいませんでしたから。」

 伊吹先生は私に向かって小さく舌を出した。

 「だ、だって、運動部だったんでしょう?」

 口を尖らせている私の前を、また凄く速い球が通りすぎる。

 ぱしいん!

 ・・・ぺた。


 こ、腰が抜けちゃった・・・。

 すとらいぃく、つー!

 「い、今のはずるいですぅ!!」

 ぱしーん!

 三振ばったーあうとっ!

 げーむせっと!!

 ・・・そんなのあり?

 あり。

 あ、そう・・・。

 あぁあ・・・負けちゃったぁ・・・。

 決勝、職員チームだったけど、まさか伊吹先生がこんなに速い球投げるなんて・・・。

 ありがとうございましたぁ・・・。

 守備位置毎に並んで挨拶・・・。

 伊吹先生はピッチャーだったので私の正面にいる。

 ・・・一応、握手・・・。

 「・・・て、手加減してくれたって良かったと思いますけどぉ・・・。」

 私は恨めしそうに伊吹先生を見あげた。

 「いやぁよ!レイちゃん、容赦無かったからねぇ・・・。」

 伊吹先生は笑いながら首を振った。

 「えぇ?いつですかぁ?」

 私は理由が判らなかった。

 「ほら、レイちゃん、碇君を少しも貸してくれなかったもの。」

 む!

 「だ、だ、だって・・・。」

 「あははは。冗談よ。ま、完全に冗談ってことも無いんだけどさ・・・。」

 んもぉ!どっちなんですかぁ・・・。

 「レイ、頑張ったわね。」

 あ。お母さん・・・。

 「もうちょっとだったんだけどねぇ・・・。」

 ううん。21−7だよ・・・。動いているうちにあんまり痛くなくなって、前の試合よりもよかったと思うんだけど、かえって打ちやすくなってしまったみたい・・・。

 堪えてた涙がぽろぽろと流れ出す。

 「あらあら?どうしたの?この子は・・・。」

 お母さんは私を抱くようにして背中をさすった。

 「チトセが来るまで試合していたかったみたいよ?」

 お義母様が説明する。

 「ま、けちゃったし・・・。」

 私は嗚咽混じりに訴えた。

 「「レイちゃーん!」」

 ヒカリさんと直美さんの声がする・・・。

 「バレー勝ったよ!バスケットも・・・。」

 二人ははぁはぁと息を切らせながら走ってきた。

 「ご、めん・なさ、い・・。」

 涙が止まらない・・・。

 「あ、負けちゃった?別にいいのよ。」

 ヒカリさんが笑顔で説明する。

 バレー、バスケ、ソフト、ミニサッカー・・・。この他にも職員チームが決勝に勝ちあがってきそうな競技はたくさんある。その中で、職員が多く参加するソフトボールで優勝を狙うのは至難の技だ。

 「だから、ソフトボールにかかる時間が長くなればそれでよかったのよ。その分バレーとバスケが手薄になって勝ちを計算できるから・・・。」

 勿論、勝ってくれたら一番良かったけどね、とヒカリさんは微笑みながら締め括った。ありがとぉ・・・。

 「レイちゃん、今日はもう予定無いでしょう?帰って休んだら?顔色悪いわよ?」

 直美さんが心配そうに私に話しかけた。そう言われてみれば、ちょっと疲れたかも・・・。

 「今日は昨日よりも日差し強かったからねぇ。レイちゃん、そうしたら?」

 お義母様も心配そうに促す。じゃ、お言葉に甘えて・・・。

 私はまだ少し鼻をすすりながら学校を後にした。

 お義母様の運転する車に3人で乗りこむ。

 「タクシー使って来たんだけど、間に合わなかったわ。」

 「あ、大丈夫よ。ビデオあるから。帰り寄ってく?」

 「そうねぇ・・・そうしようかしら?」

 「お夕飯、うちで一緒に食べて行くっていうのは?」

 「そうねぇ・・・うちの人、どうかしら。」

 「私あの人に連絡するから、あの人から言ってもらうわよ。」

 ・・・二人は何も無かったかのように会話を続けている・・・。

 「あの・・・。二人とも、今日は、ごめんなさい・・・折角応援に来てもらったのに、勝てなくて・・・。」

 二人の”お母さん”は顔を見合わせた。

 「あれ?あたし、あんたに勝てって言ったっけ?」

 ?お母さん?

 「私も言ってないわよ?」

 お、お義母様?

 「頑張ったんでしょ?いいじゃないの、結果はどうでも・・・。私達は、レイちゃんが元気に身体を動かしていたのが何より嬉しいのよ。」

 お義母様はそう言ってにっこり笑った。

 「ユイ!前見てよっ!!しかも、しっかりいい台詞だけ持って行って・・・。っとに、あんた、昔からそうよねぇ・・・。」

 「あぁ!そんなことばっか言って・・・。あんたがいつもレイちゃんをからかっていじめるから、そうならないうちに言っただけよ。」

 「う・・・。」

 「ほら、また何か言って泣かせるつもりだったんでしょ?だいたいあんたは度を越してからかうから良く無いのよ。この前のイタリア行きの時だってさぁ・・・。」

 ・・・ふふ・・・。

 私は座席に横になった。

 仲がいいなぁ・・・お義母様がお姑さんなら、苦労しないわ・・・って、考え過ぎかな・・・。

 でも、碇君、私、今、幸せよ・・・。

 私は二人の楽しそうな口喧嘩を子守唄代わりに目を閉じた。


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