| 転校生 R |
| 作 : Ophanim |
| 第14話 晴れ舞台 |
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合同祭二日目。
球技大会が始まった。
職員チームと3−A、つまり、去年の2−Aは、優勝チームということで団体戦ではどの競技も無条件でシードされ、二回戦からの登場になる。10チームのトーナメントだから、一回勝てば文句無しに4位以上になれる。その代わり、ここで負けた場合5、6位決定戦に回る権利が無い。5、6位決定戦は一回戦を戦った2チームだけが参化でき、この2チームのどちらかが4位以内になった場合は5、6位決定戦は行われない。
「一回勝てば3点以上は確定、でも、負けたら1点ももらえないの。」
「ハイリスクハイリターンってわけね。」
ヒカリさんは腕組みしながら考えてる・・・。
「ローリスクハイリターンや。一回くらい勝つやろ。」
鈴原君が自信たっぷりに笑った。
私の午前中は自分がエントリーしていた種目の個人戦でつぶれてしまった。体育館でやる種目にしか登録して無かったのに、結構疲れた・・・。
「よ、大丈夫か?」
教室に戻ってきた私に相田君が声をかけた。
「えー・・・1点しか取れなかったし・・・。」
私は自分の机に座りながら答えた。
「さすがやなぁ。午後のソフトのための体力温存なんやろ?」
鈴原君はそんなことを言って私をからかった。
「トウジ、あんた、性格悪いよ?レイちゃん、お疲れ様。お昼にするよね?」
ヒカリさんはいつの頃からか、鈴原君を”トウジ”と呼ぶようになった。こういうの、いいなぁ・・・。私も碇君のことを・・・シ、シン・・・ジ・・・やぁ!もぉ!恥ずかしい!!
「な、なに紅くなってんだ?」
「どうせ碇のことでも考えたんやろ。」
す、鈴原君、図星ですぅ・・・。
「ね、お茶持ってきたんだけど、飲む?」
ヒカリさんは隣に座っていた見知らぬ女の子のバッグを勝手に開けた。
「あ・・・ありがと。ねぇ、見て見て。今日、私の自作お弁当なの。」
私はお弁当を広げてヒカリさんに見せた。
「ええ!レイちゃん、一体何時に起きたのよ?」
ヒカリさんはまん丸な目をして私を見た。
「五時くらいかしら?」
「うわぁ。早起きだぁ・・・。」
私達は他愛も無い話をしながらお昼ご飯を食べた。
「それはそうと、ソフトの相手はどこになったんやろ?」
鈴原君がヒカリさんお手製の巨大おにぎりを頬張りながらトーナメント表を眺めた。
「お兄ぃ!愛する妹のクラス相手に本気出さんやろなぁ?」
元気な声が鈴原君の背中にかかる。
「なんや、ナツコのクラスけ?あかんな。昨日も言うたやろ?そっちかて兄貴が大事やったらわいの応援せいっちゅうの。わいの進学もかかってんねんで?」
あ、鈴原君の妹さん?・・・と、もう一人?どこかで見たような顔・・・。
「いややもん。うちのクラス、最初うちが投げるんや。お兄ぃには言い訳できるようにぶつけといたるわ。なぁ、ノゾミ。」
「そうね。ぶつけられたら、打てなくても仕方ないもんねぇ。」
・・・こ、怖い・・・。
「ナっちゃんにノゾミ!トウジにぶつけたりしたら、お姉ちゃん、怒るわよ?」
ひ、ヒカリさんの妹さんなの?
随分豪快な妹さん・・・。
「だぁめだよぉ。あたしだってお姉ちゃんに負けたく無いもんねぇだ。お姉ちゃんが投げるんでしょう?」
え?ノゾミちゃん、選手なの?普通の?
「違うわよ。こっちはレイちゃんが投げるの。」
ヒカリさんはもじもじしていた私を前に押し出した。
「あ、あの・・・お手柔らかに・・・。」
私はノゾミちゃんと握手をした。
「えぇと、レイさん?レイさんはお姉ちゃんより上手なんですね?じゃ、遠慮しないで頑張ります!!」
ノゾミちゃん、勘違いしてます。私、手加減して欲しいくらいなんですぅ・・・。
3−A対1−Aの試合が始まった。
「「お願いします!」」
一旦両チームが整列し、元気な掛け声で挨拶を交わした後でベンチに戻る。キャプテンだけが残ってじゃんけんしている。
「ほら。」
ぽこ。
急に目の前が暗くなった。
「だ、誰?」
振り向いた私は、そこに信じられない人を見つけた。
「お、お母さん!?」
お母さんはにこにこ笑いながら私を見ていた。
「帽子忘れたでしょう?帽子しないとまた日射病になっちゃうわよ?」
私は頭の上に乗っている真新しい帽子を手に取った。水色の野球帽に刺繍で”Rei”と書いてある。これ・・・手作りじゃない!?
「こんなの作ってくれたの?し、仕事忙しいって言ってたのに・・・?」
私がそう言うと、お母さんは小さな声で”馬鹿ね”と言った。
「あなたの面倒を見るのも私の仕事よ。ほら、もう行きなさい。ちゃんと写真撮ってあげるから。」
お母さんに促されて、私はとことことマウンドに立った。
締め切りが近いって、この前言っていたのに・・・。
一生懸命やります。
「プレイボール!」
審判の声がかかる。
「さぁこいっ!」
ノゾミちゃんが打つ気満万で打席に入っている。
私はそーっと第1球を投げた。
「うりゃああああああああああああああああああっ・・・っててて・・・。」
ノゾミちゃんのバットは大きく空を切った。
勢い余って倒れてしまう。
「大丈夫?」
ノゾミちゃんはすっごく怖い目で思わず駆け寄ろうとした私を睨んだ。
「平気っ!さっさと次投げてよっ!」
こ、怖い・・・。
ひょろひょろひょろ・・・。
がすっ!
「サードっ!」「りゃあっ!」「アウトぉ!」
な、何が何だか判らないけど、何だかうまく行ったみたい。
「いいぞっ!綾波さんっ!!」
いきなり後ろから声がかかったので思わず振り向いて頭を下げてしまった。
くすくす、という笑い声が、味方から、ノゾミちゃんのクラスから、見に来ている観客の人たちから、とさざめきのように広がって行く。
恥ずかしいなぁ・・・。
「はよぅしてや!」
ナツコちゃんがいらいらしたような声をあげる。
あ、は、はい・・・。
えいっ・・・がこっ・・・ぽす。
ナツコちゃんの打った球はへろへろと一塁にいる鈴原君にグローブに収まった。
「ツーアウトぉ!」
「お兄ぃ!落としてくれてもええんちゃう?」
「あほぬかせ!」
二人で楽しそうに言い合いをしながら、ナツコちゃんは自分のクラスに戻っていった。
「次投げまぁす。」
一応みんなに声かけてから、えいっと球を投げる。
きぃん!
凄い音がしてすぐ頭の上をボールが飛んでいった。
こ、怖かったぁ・・・。
「綾波さん、大丈夫?」
私の後ろにいた三笠君が、マウンドにぺたんと座っていた私の手を取って助け起こしてくれた。
「ええ、ありがとう。」
私は三笠君にお礼を言って、立ちあがった。なんだか、いいなぁ・・・。相手が碇君だったら、もっと良かったのに・・・。
「次投げまぁす!」
「いいからさっさと投げて!」
わ、私って、一年生にも甘く見られているのね・・・。
えいっ!・・・がこっ!!・・・ぱしっ!・・・ぱしっ!
「スリーアウトっ!チェンジっ!!」
ひゃあ・・・。
うちのクラス、みんな上手だわ・・・。
私はみんなから頭を撫でられたり、肩を叩かれたりしながらベンチに戻った。
さぁ・・・今度はこっちの攻撃。
頑張って点を取・・・ってもらうぞぉ・・・。
みんな、いっぱいとって来てね。
試合は鈴原君の予想通り、楽勝で終わった。
3−Aの勝因はやっぱり私がピッチャーをしたせいだった。結局あの後はものすごい点の取り合いになって、1−Aは一点も取れなかった一回表の攻撃が最後まで響いて負けたから・・・。
「な、一回でええっちゅうたやろ?ちょっとでもびっくりさせたらええんやて。」
うーん・・・それはそうなんだけどぉ・・・。
「なぁに?レイちゃん、不満なの?」
ヒカリさんがにやにや笑ってる。
「だって、最初は0点だったのよ?でも、そのあとはずーっと2点とか3点とか・・・。」
全部で5回の試合だけど、スコアは15−10とかいうバレーボールみたいな点数になってしまって・・・。
「すっかりやる気じゃない?自信無さそうにしてた昨日とは全然違うわねぇ?」
そ、そんなこと言われても・・・。
「明日も頼むでぇ。」
鈴原君は用具を片付けながらそんなことを言った。
「ええっ!?ど、どうしてっ!?」
明日には直美さん、帰ってくるじゃない・・・。
「直美ちゃんには他の試合に回ってもらうの。レイちゃん、今日勝ったじゃないの。明日も頑張って。」
うー・・・。
ヒカリさんの作戦には従わないと・・・。
全ての競技で1位を狙えるなら何も考えなくてもいいんだけど、色々な競技を同時にやっているから主力をどの競技に集中させるのかが作戦担当、ヒカリさんの腕の見せ所になるの。
決勝に残れそうな試合があれば、そこに主力を集める。1位と2位では4点、2位と3位では2点の差がつくから、こういう試合で勝たないと・・・。逆に4位から下はあんまり点数が変わらないからあんまり考えなくていいの。それに、今回団体戦はとにかく一回戦を勝てなければ一点ももらえないし・・・。だから今年はとにかく一回戦を勝つことを目標にして後は勝った後に考えることにしたの。
で、今日はミニサッカーとバレーボール、バスケットボールにソフトボール、と効率良く一回戦を勝ち上がったのでヒカリさんの計算も大変。
スポーツ万能の直美さんを上手く使うためには、私が一人でソフトボールのピッチャーを担当した方が都合がいいっていうことらしい。
「できるかなぁ・・・?」
急に不安になってきちゃった・・・。
「なぁに言ってんのよぉ!さっきまで物足りなそうにしてたくせにぃ・・・。」
ヒカリさんはぱしん、と私の背中を叩いた。
「さ、体育館に行くわよ。次はバドミントンでしょう?」
そうだ。
まだあったんだった・・・。
「あらら?まだ何かあるの?」
お母さんは残念そうに私の方を見た。
「うん・・・。ごめんね。お母さん、先帰ってる?」
私は謝りながらお母さんの方を見た。
「馬鹿ね、一緒に帰りますよ。」
お母さんは優しく微笑みながら私の頭を撫でてくれた。
ありがと・・・。
いつも私をからかってばっかり、なんて思ってごめんね。
「どうせすぐに負けるでしょ。」
・・・前言撤回・・・。
か、勝つもんっ!!
今日は夕飯の準備とか、お手伝いとかしなくてもいいんだぁ。久しぶりにお母さんがみんなのお皿に夕飯のおかずをよそってくれるの。
「今日はご苦労様。」
むー・・・。
私は唇を尖らせながら夕食をついばんだ。
「悪かったわよぉ・・・。でも、本当にすぐ負けるなんてねぇ・・・。」
お母さんはむすっとしている私の顔を見てくすくす笑った。
「ひっどぉい・・・。」
私は頬を膨らませて文句を言った。
「まぁまぁ・・・。それでもみんなと一緒に試合をして勝ったんだろう?どれ、母さん、写真を見せてくれ。」
お父さんはお母さんが撮った私の写真を早速見ている。
「ちゃんと動画で撮ってあるからね。レイの晴れ姿、見てやって頂戴。」
二人は仲良く顔をくっつけるようにしてデジタルカメラのファインダーを覗き込んでいる。
「ごちそうさま。美味しかったわ。」
私は早々に退散することにした。
「あら?怒ったの?」
お母さんは心配そうに私の方を見た。心配かけちゃったみたい・・・。
私はちょっと反省して、笑顔でお母さんに答えた。
「ううん。疲れたから早く寝たいだけ。」
私はとことこと自分の部屋に戻り、部屋着に着替えてお風呂に向かった。
シャワーを浴びながらボディーシャンプーを使っていると、、さっきの二人の顔を思い出す・・・。二人のあんなところ見てたら、碇君に会いたくなるじゃないの・・・。
床にぺたんと腰を下ろして髪を洗う。ふと鏡を見ると、シャンプーの白い泡の合間から水色の髪がこぼれている。
ずっと嫌いだった水色の髪。
嫌われるのが嫌で、真っ黒に染めて隠してきた髪の色。
いつの間にか髪の色だけじゃなく、自分の本当の心まで偽るようになっていたかもしれない。
シャンプーの泡はじわじわとなくなっていく。
私の偽りの仮面が取れていったように・・・。
碇君が誉めてくれた・・・。
”その方が、ずっといいよ・・・。”
私はたっぷりシャワーを浴びせて泡をすっかり取り除いた。
何度も何度もすすいで綺麗にする。
洗い上がった髪は輝くような光沢を取り戻す。
もっと綺麗な髪にしたい。
”僕は綾波のこの髪の色、気に入っているんだから・・・。”
そう!
もう、他の人が何て言っても、気にしないの。
碇君が誉めてくれれば、それでいい。
だから、もっと気にいってもらえるように、綺麗な髪にしたいの。
リンスで仕上げをする。髪をタオルで巻いて、そのままゆっくり湯船につかる。
肩がぱんぱんって音を立てそうなほど張っている・・・。
碇君、私、頑張ったの。
誉めてくれるよね。
私は湯船の中に顔を半分潜らせて、今日の試合を振り返った。
明日は、もっと頑張ろう・・・。
碇君にまた誉めてもらえるように・・・。
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