転校生 R
作 : Ophanim
第13話 祭りの前


 



 人がわいわいがやがや・・・。

 結局、今年も夏祭り、来ちゃった。

 初めはあんまり乗り気じゃなかったんだけど、大和さんがどうしてもって・・・。

 「ヒカリさん達と一緒なら、いいです。」

 私がそう言って、大和さんが快く了承して、で、今日・・・。

 「綺麗だなぁ・・・。すごく良く似合ってますよ?」

 私の浴衣を見た大和さんの最初の言葉。

 ありがとう。とっても嬉しいです。

 「でも、イタリア行ってたんですって?惜しいなぁ。こっちいたら、一緒に海にでも行こうかと思ってたのに・・・。僕の家の別荘が結構いいところにあって・・・。あ、大丈夫、一般の人は入れないようにも出来るし・・・。」

 大和さんはどうにかして私を誘いたいみたいね。

 「でも、私、泳げないんです。」

 私は半分だけ、理由を説明した。

 どうしてそうしたのかは、判らない。

 でも、何故か、そうした方が良いような気がしたの・・・。

 「あははは・・・焼きに行くだけでも良いよぉ。でも、まぁ、無理には誘いませんって・・・。」

 じゃ、行きません。

 私は丁寧に断って、金魚すくいや射的を眺めた。

 去年は・・・楽しかった・・・。

 今年も、それなりに楽しいけど、どうしても気分が乗らない・・・。

 ヒカリさんは鈴原君と一緒で、しかも去年よりも気兼ねしなくて済む分だけはしゃいでいるし、相田君は千恵美さんと仲良く射的に勤しんでる・・・。あ、射的のおじさん、青くなってる・・・。あの二人、すごいもんねぇ・・・。

 でも、なんと言っても直美さんが少しも楽しんでいない。

 私と二人だけだったら、まるでお葬式のように黙ってたと思う。

 「疲れた?ちょっと、何か買ってくるから、二人ともここで待ってて・・・。」

 大和さんは私達があんまり静かなので、疲れたと勘違いしたのか、私達を座らせるとどこかへ買い物に出かけてしまった。

 「やっぱり、来なければ良かったかなぁ?」

 私は二人きりになったので、直美さんにそっと耳打ちした。

 「あ。いい、いいのよ・・・。ごめん、あたしのせいで、つまんないよね・・・?」

 そ、そんなことはないけど・・・。

 「無理に連れ出したの、私だから・・・。こういうところ来たら、気も紛れるかと思ったんだけど・・・。」

 直美さんが元気無いの、原因は判ってる。

 渚君が出る日本公演、延期になっちゃったから・・・。

 しかも、ちょうど合同祭の最中・・・。

 直美さんはクラスの中心的存在。去年、渚君と組んで鈴原君に勝ったように、3−Aの優勝には直美さんの活躍は欠かせない。芸術祭の方でも高音部のまとめ役だったから、抜け出すなんて、無理だろうなぁ・・・。

 「私だったら、いなくても全然目立たないから、抜け出せるかもしれないけどねぇ・・・。あ、髪は目立つけど・・・。」

 くすくすくす・・・。

 あ、良かった。笑ってくれた。

 「ありがと。まぁ、一日くらい、なんとかなるかもしれないし、悩まないことにするわ。」

 ふぅ・・・直美さん、元気になってくれた。

 「レイちゃん、イタリア行って、ちょっと変わったよね。」

 ?

 そう?

 「別になにも・・・?変わってないと思うけど・・・。」

 私は自分で自分を眺めてみた。どこも、変わってないよ?

 「自分じゃ判らないわ。でも、何て言うか、・・・そうねぇ・・・こう、自信持ってるって言うか・・・。それに、ほら、前だったら、自分で自分の髪が変わってるなんて言わなかったと思うわ。」

 ・・・。

 「じゃ、それ、きっと、碇君のおかげよ。イタリアのせいじゃないわ。」

 私は強くなってる。

 前よりずっと・・・。

 そう確信した。

 「彼女達ぃ?暇?

 どこから現れたのか、男の子二人組みが私達に声をかけてきた。

 「残念でした。待ち人、いますもの。」

 ほら、強くなった。

 こんな言葉が、ちゃんと言えるもの・・・。

 「そうよ!邪魔だからあっち行ってよ!!

 ・・・直美さん、それはちょっと、強すぎ・・・。



 終わってしまえば、夏休みなんて短いもの。

 二学期が始まると私達の放課後は合同祭の練習に費やされるようになった。

 「今年はレイちゃんのイタリア土産、3−Aのシンボルにしようね!」

 ヒカリさんはそう言って私に笑いかける。

 そ、そんな大したものじゃないのに・・・。

 私がクラスみんなに買ってきたお土産はいろんな色で組み上げられたスカーフ。

 これを、男子は首に、女子は髪に簡単に巻きつけて一致団結を表現することになった。有難いやら恥ずかしいやら・・・。

 でも、今年はアスカさんと競争するわけでもないし、登録、あんまりしなくても良いよね・・・。

 「綾波ぃ、ちょっと、来てくれへんかぁ?」

 鈴原君?

 なんだろ?

 鈴原君は私をグランドに連れて行った。

 「呼んで来たでえ!

 大声をあげる。

 「良かったぁ!お願いね、レイちゃん。」

 ヒカリさんが私の手を取って・・・こ、これなぁに?????

 「そ、ソフトボールぅ???」

 そんなぁ・・・。

 ヒカリさんが言うには、私にピッチャーをやってもらいたい、と言うことだった。

 今年のソフトボールは、ソフトボール部員以外の女子がピッチャーをやることに決まっている。出来るだけ多くの人がヒットを打てるように、だそうだ・・・。

 「で、どうして私?」

 私は更衣室の中で着替えながらヒカリさんに聞いた。

 「本当は直美ちゃんに頼もうと思ったのよ。そしたら、丁度その日がカヲル君の公演らしくて・・・。」

 ヒカリさんは私に両手を合わせた。直美さんはこの間から練習に出ていない。既に来日している渚君と、可能な限り長く一緒にいたいからだ。

 「そういうことなら、いいけど・・・でも、他にもっと上手な人がいるでしょう?」

 私が聞きたいのは、そこなの。

 「あのね、直美ちゃんなら、多分経験無くても、びしばしすんごい球を投げられると思うの。でも、他の人、誰が投げたって打ちやすい球しか行かないのよ。」

 私は体操着に着替えて、グランドに戻った。

 「そんなの、私が投げて何か変わる?」

 「まぁ、いいから、投げてみてよ・・・。」

 ヒカリさんはそう言って私にボールを渡した。打席に鈴原君が構えている。うわぁ・・・なんだか、凄そう・・・。

 「ねぇ、絶対私に当てないでね?じゃ、行くわよ?はい。」

 平凡な、山なりのボールが飛んで行く。

 これ、別に誰が投げても・・・きゃ!・・・凄い・・・空振り???

 うわぁ!という声が上がる。

 「やっぱ、左ぎっちょは打ちにくいわ!

 「どれ、今度は俺にやらせてくれ。」

 「俺も打ってみたい!」

 ・・・あ、そういうこと?



 「疲れたぁ・・・。」

 私はすっかり張ってしまった左肩を揉みながら家に戻った。

 「あら?何かしたの?」

 お母さんは不思議そうに私の顔を見た。

 「こんなに砂っぽくして・・・あ、こら、先に顔洗ってきなさい。すぐお風呂入って。そんなんで私の部屋入らないでよ?コンピューターに悪いんだから・・・。」

 はいはいはい・・・。

 部屋着は持ってきてもらうことにして、まずはシャワーを使う。

 「今日ねぇ、ソフトボールのピッチャーしちゃった。」

 お母さんが戻ってきた時、なんだか無性に自慢したくなって、そう話してみた。

 「へぇ?あんたが?珍しいわねぇ・・・。大丈夫だった?」

 お母さんはガラス戸越しに話をしてくれた。

 「うん、左だと、打ち難いんだって。きーんって凄くいい音しても、全然遠くまで飛ばないの。あと、ふぁあになったりするの。」

 それはファールって言うのよ。

 お母さんは私の間違いを訂正しながら、まるで自分のことのように嬉しそうに聞いてくれた。

 「あんたが外で運動するなんてねぇ・・・。去年までじゃ考えられないわ。恋する女は強いわね。」

  ・・・ま、またぁ・・・。

 「そ、そんなんじゃないってばぁ・・・。」

 私はぷくぅっと頬を膨らませてガラス戸を開けた。

 あ・・・。

 「ば、馬鹿!そんな格好で出てくるんじゃありません!!

 お母さんは私にバスタオルを投げつけるようにしてガラス戸を閉めた。

 「と、とにかく、あんまり無理しないで・・・。調子に乗ってるとまぁた入院しちゃうんだからね。」

 お母さんは怒ったようにそう言うと、慌てて脱衣所から出て行った。

 そういえば、今年入院した時は、ソフトボールの授業中だった。

 炎天下で、帽子もかぶらないで授業受けてたんだから、当たり前かもしれない。私は、日の光に弱いんだから・・・。

 私はそっと身体を拭き、部屋着に着替えた。

 お母さんが仕事をしている部屋に行く。

 「あら、上がったの?風邪ひかないようにしなさいよ?」

 そう言うお母さんは、こっちを向こうとしない。

 「あの・・・お母さん・・・。」

 私が話しかけても、お母さんはこっちを向かない。

 「なによ?」

 つっけんどんに思える受け答えも、鼻をすすりながらだと少しも迫力が無い。

 「もう、心配かけないように、頑張るから・・・。見ててね、お母さん。」

 私はそれだけを言って、部屋を離れた。

 「行けないわよ!忙しいんだから・・・。」

 お母さんの声が扉の向こうから聞こえてくる。

 お風呂の扉を開けた時、見えたもの・・・。

 溢れ出る想いを、手紙に書く。

 愛情の深さを、感じた瞬間・・・。

 単なる余興の、練習。

 偶然が重なった、代役。

 それも、”女子限定”という条件が無ければ回ってこなかった役目・・・。

 そんな小さな役目でも、お母さんにとっては娘の晴れ舞台なんだね・・・。

 しかも、これまで散々苦労をかけた、手のかかるわがまま娘・・・。

 ねぇ、さっき、お母さんの目から、涙が溢れてたんだよ。

 頑張らないと、だめだよね?

 応援してね、碇君・・・。



 合同祭が始まった。

 水泳大会、私は用無し。

 3−Aは去年に引き続く優勝(つまり、去年は2−Aなんだけど・・・)を狙って練習を重ねてきた。

 でも、泳げないんだから仕方がないよねぇ?

 私は泳げない人が参加できる水中競走でなんとか1点を取った。

 「もう、泳げない人、6人しかいないのねぇ・・・。」

 ヒカリさんは私を見ながらにやにや笑ってる。

 ・・・い、いいでしょ、び、びりでもぉ・・・。1点は1点なの!

 簡単に説明すると、合同祭を通じて、種目別に設定されたポイントを多く取った人が勝ち。これで、個人の点数が決まるの。各種目の中のどんな小レースでも1位には10点。2位には6点。以下、3位に4点、4位に3点、5位が2点、6位が1点。それ以下は何位になってもポイント無し。当然、登録する種目が多ければ多いほどポイント獲得のチャンスが増えるってわけ。で、個人の得点をクラス毎に合計して、団体の点数が決まるの。今のところ、私達の学校は一学年3クラスだから、職員のチームを入れて10チームに分かれてる。合同祭の前半の運動部門と後半の芸術部門にはそれぞれ個人賞が設定されてる。去年は、芸術部門で碇君と渚君が頑張ったのよ。えへ。

 ・・・いいでしょ、別にぃ・・・。

 わ、判ったわよ、ちゃんと説明すると、運動部門も芸術部門も渚君が優勝。碇君は芸術部門の2位。

 これでいい?直美さん。

 ・・・は、はいはい。

 あの、鈴原君も、運動部門の、2位。

 これでいいわね?

 こうしてみると、去年優勝したのも頷けるわね。各部門の優勝、準優勝を総なめにしてるわけだし・・・。

 残念だけど、今年は去年のような勢いが無い。

 去年はなんといってもアスカさんの大活躍に加えて、鈴原君と渚君のヒカリさん争いがあってクラス全体が盛り上がっていた。

 今年は・・・。

 「それでも今のところ3位よ?」

 ヒカリさんは驚いたように順位表を眺めた。

 嘘?

 どうして?

 「そらそうや。去年のうちらが異常やったんやて。」

 鈴原君は呆れたような顔で説明してくれた。

 純粋に体力的な勝負をすれば、1年生より2年生、2年生より3年生の成績が良くて当たり前。そして、3年生よりも職員チームが強くても不思議は無い・・・。

 「っちゅうわけで、この先職員チームが出られる競技が少なくなるわけやから、点数は当然伸びへん。当面の相手は3−Bや。」

 あ、ちょっと自慢ね。

 去年の総合優勝は碇君と渚君の芸術点も大きかったの。

 偉いでしょ。

 でも、今年はそれが無い。

 ということは、総合優勝するには、

 「体育祭の間に差を広げておかないといかんなぁ・・・。」

・・・と言うことよね?

 でも、口調とは裏腹に、鈴原君は自信ありそうな顔になってる。

 鈴原君はやる気だ。

 今年は個人優勝のチャンスだもんねぇ・・・。

 「頑張ってね。」

 ヒカリさんは人目も憚らずに鈴原君の肩を揉んであげている。

 「まかせぇや。今年はやるでぇ?なんせ進学がかかっとるんやから・・・。」

 し、進学ぅ?

 「そうよ。こいつ、馬鹿だから、勉強しても高校行けないでしょう?」

 そ、そこまで言うのぉ???

 「せやから、体育科を目指すんや。体育科ちゅうても、わいはあほやさかい、試験じゃ入れんのや。せやから、推薦で試験抜きにしてもらうんや。」

 し、しかも、自分で認めるの?

 「中学総体の成績は結構良かったんだけどね。ここで負けるようだとまた評価下がっちゃうから・・・。体育科には体育科の悩みがあるのよ。」

 ヒカリさんは甲斐甲斐しく鈴原君にマッサージをしている。旦那さんの世話を焼く奥さんみたい。

 ・・・なんだか・・・悔しいなぁ・・・。

 私だって、碇君が近くにいたら、・・・て、手ぐらいは、繋・・・げないけど、触ってあげられるもん。

 でも、みんな、もう将来に向けて歩き出してるのね・・・。

 私も見習わないと。

 頑張ろうね、みんな。



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