| 転校生 R |
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| 作 : Ophanim |
| 第10話 乙女達 |
んー・・・。 なんだかいい匂いがするなぁ・・・。 花の匂いかな? あ、やっぱり・・・白い花だ。何て名前なんだろ? 綾波の髪にさしたら似合いそうだな・・・。 持って帰れないかな・・・? ん??? 何だ?重いぞ? 手が動かない? う、動け!動け!動け!動け!動け!動け! 動いてくれないと、もうチェロが弾けないんだ!折角合格したのが、無駄になっちゃうんだ!頼むよ!!動いてよ!!! んーん・・・。 ? なんだなんだ??? 声がしたぞ・・・? 僕は目を開けた。 夢だったんだ・・・。良かった・・・。右手が動かなくなったかと思った・・・。 ん?本当に動かないぞ? って言うか、感覚が全く無い!?。 僕は右手を見ようと首を動かした。 「な!!!」 僕は大声をあげそうになって慌てて左手で口を押さえた。 顔のすぐ横で、水色の髪が柔らかな寝息をたてている。 (こ、これは・・・夢の続きか・・・?) えーと、確か昨日は・・・部屋には入れなくて・・・?綾波の部屋に来て・・・そのまま寝ちゃったかな?でも、今は寝巻きに着替えているぞ・・・? はっ! 僕は恐る恐る腰に手を当てた。 良かった。 下着は穿いてる・・・。 い、異常は無いよね・・・。 ・・・。 こ、これは夢だな?夢だよな?うん、夢だ。夢に違いない。だから、綾波にキスしても許されるはず・・・。 僕はそっと上半身を起こした。 自由になる左手をそっと綾波の肩に当てる・・・。 ふにゅ。 や、柔らかい・・・。 「あ、シンジ、起きたの?」 ぎくっ!!! 「あ、あれ?ど、どうして母さんがここに・・・?」 僕は顔だけで後ろを振り向いた。右手は綾波の頭が乗ってるから動かせない。母さんは僕達が寝ている部屋の、もう一つのベッドで寝ていた。 「あんたが起きた時変な気を起こさないように一緒の部屋で寝てたのよ。今、何しようとしたのかなぁ?その手は?」 母さんは厳っしい視線を容赦無く僕に浴びせた。 「い、いや、こ、これはその・・・。」 うーん・・・。 「・・・?や、やだ!どうして碇君がここに!???」 あ、綾波が目を覚ましちゃった!! 「覚えてないの?レイちゃん。ごめんね、実は昨日シンジが・・・。」 「な、なにもしてない・・・ってっててて・・・。」 僕は母さんがとんでもないことを言い出す前に止めようと思ったけど、右手が痛くて動けない。よくよく見れば、右手は血が止まっててもう赤黒くなってる・・・。 「い、碇君、大丈夫?つ、冷たいっ!!」 ぴりぴりぴり・・・。 「いっててててて・・・。触らないで、綾波・・・。」 右手の感覚がじんわりと戻ってきた。すごく、痛い・・・。 「あ、ごめんなさい・・・もしかして・・・私のせい?」 綾波は泣きそうな声を出した。 「ああ、気にしないの、レイちゃん。慣れないくせに腕枕なんてするからこうなるんだから・・・。」 か、母さん! 「僕はそんなことをした覚えは無いんだ。信じて、綾波。」 僕は動く左手だけで綾波の肩を揺すった。 「え、ええ・・・信じます・・・。」 綾波は顔を紅くしながら答えてくれた。良かった・・・。 「それはそうよ、腕枕させたのは私だもの。」 ・・・? 「な、なんだとぉおおおおおお!」 母さんは天使のような笑顔の下に小悪魔の微笑を湛えて僕達を見つめていた。 ローマ市のとある建物の中に、多くの少年少女たちが集まっていた。それぞれに楽器を持ち寄っている彼ら、彼女らは、つい昨日、未来の大音楽家への一歩を歩み出した雛鳥達だ。 「それで、父さんと母さんはフロントに言って部屋を開けてもらったらしいんだ。で、中に入ったら僕達はもう二人並んで寝てただろ?だから、綾波を起こしたら悪いと思って僕だけ服脱がせて寝巻に着替えさせたんだよ。」 シンジは今朝の出来事をカヲルに話して聞かせていた。カヲルは聞くとも無しに聞いている。 「でも僕はもう熟睡しててさ、全然起きないんだ。そしたらさ、母さんが”夜中に目を覚まして獣になっても動けないように、シンジの右腕で腕枕させておいたら?”なぁんて言ったらしいんだな。余計なお世話だよ、まったく・・・。おかげで朝起きた時にはもうすっかり血が止まっててさ、冷たくなってんだよ?指先まで?今日演奏しろ、なんて言われたらもうだめだよ。全くもう・・・。」 シンジの話が一段落した、と見たカヲルはふふん、と鼻を鳴らした。 「なんだ、じゃあ、何もしなかったんだ?」 とたんにシンジは真っ赤になった。 「で、出来るわけないだろっ!」 これこれ・・・。これだからシンジ君はからかいがいがあるんだよね・・・。 「へぇ、じゃ、何かする気だったんだ?」 カヲルは意地悪くにやにやと笑いながら突っ込んだ。 「す、するわけないって・・・!い、いや・・・その、する気はあっても、しないって・・・。」 シンジは一層顔を赤くする。 ほぉら、面白いだろ? 「はぁん?本当かなぁ?実は何かしようと思ったけど、見つかったんじゃないの?」 ぎく! 「う!い、いや・・・その・・・う・・・うん・・・。」 シンジは消えそうな声で、そして体もそれにあわせて消えそうなほどに小さくちぢこめた。 「はっはっは。男だねぇ、うん、うん。正直でよろしい。」 カヲルはシンジの頭をぽんぽんと叩いた。 「で?今日はこれからまたリトライするの?」 「ばっ!馬鹿なこと言わないでよっ!まだ早いよ・・・。」 シンジはまた大きな声を出した。 「ん?今日の午後は空いてるよ?その気になれば、家に帰る前に綾波さんのホテルに行けるし・・・。」 カヲルはわざと手帳を大きく開いて、からかうようにシンジに今日の予定を見せた。 11時半には今日のミーティングは終わることになっている。 「も、もう!怒るぞ、カヲル君?僕と綾波はそんな関係じゃないんだ・・・それに、今日の午後はもう二人でどこか行く予定になってるんだから・・・。」 シンジは照れ隠しに怒って見せた。 カヲルは”そんな関係じゃないわけないだろ?”とからかうつもりでいたが、シンジの最後の言葉が引っかかった。 「え?”どこか”ってどこさ?」 「いや、あんまり予定らしい予定は立ててないんだけどさ・・・。ローマ市内をぐるーっと・・・。真実の口とか、トレヴィの泉とかさ・・・。定番だけど、綾波は初めてだしさ。見たことないって言うし・・・。」 シンジは照れながらカヲルに予定にならない予定を話した。 (おいおいおいおい・・・。) カヲルはシンジの無用心さに内心呆れ果てた。 イタリアの観光名所はスリや詐欺の楽園と言ってもいい。まして今をときめく日本人少年音楽家の一人として、今朝の朝刊に写真入りで昨日のキスシーンが掲載されているのだ。しかも、カラー印刷で・・・。 ”東洋の魅惑”というタイトルで掲載されているその写真には短い説明がついている。だが、その内容はそれを書いた人物が、シンジの演奏の素晴らしさの説明に3割、空色の髪の少女の可愛らしさの表現に7割の力を配分したことを如実に証明している。 そんな有名人がごみごみした裏通りを歩いてみろ・・・。 カヲルは頭を抱えた。 この国は、良かれ悪しかれ、マフィアの国だ。金になりそうなこの無垢な少女を見逃すはずが無い。 「シンジ君、僕はちょっと電話するところがあるから、これで・・・。」 カヲルは唐突にその場を離れた。 一人残されたシンジはカヲルが突然席を立った理由を色々思い巡らせていた。 (もしかして・・・カヲル君、気を悪くしたかな?カヲル君は長門さんには会えないからなぁ・・・。) シンジが悩んでいると・・・。 「こんにちわ。」 可愛らしい声がした。 綾波ぃ・・・。午前中は無理だって言ったでしょ? 「まだ終わらないって・・・ば・・・?・・・あ、ご、ごめんなさい。えーと・・・?」 そこにいたのは空色の髪の少女ではなかった。 「あ、こちらこそ、ごめんなさい。あの、日本人の方ですよね?」 茶色みのかった髪に青っぽい目をした美少女がシンジの隣に腰掛けた。 「う、うん・・・あ、いや、はい、そうです・・・。」 シンジはどぎまぎしてどもりながら答えた。 「あの、私、霧島マナっていいます。私も昨日、オーディションに合格して・・・。会場来たら、どこかから日本語が聞こえるなぁって思って、つい・・・。ごめんなさい。急に話しかけてしまって・・・。迷惑でした?」 「い、いえ!そ、そんなこと、ないですないです!ぼ、僕は、碇、シンジです。船の碇に、カタカナで、シンジ・・・。」 シンジが身振り手振りで説明をすると、マナもそれにあわせて首を傾げる。 「私は霧雨の霧に、海の島の島です、名前はカタカナでまぁな。気軽にマナって呼んで下さいね。」 マナは名前の説明の時にシンジの目の前の空間に指で”マナ”と字を書いた。 ふわっと微かな香水の匂いが漂う。 綾波のように目を引く肌の白さではなく、健康的に白い肌。 かちゃかちゃ、と音がして初めて気づく、ネックレスや髪飾り。気がついてみると、どうしてこれに気がつかなかったのか、と思うほど派手な色のアクセサリーなのだが、顔の表情や仕草がそれに少しも負けていないのだから、彼らが影を潜めるのも無理は無い。 「碇さんはどんな楽器で合格なさったの?」 マナはシンジに微笑みかけた。 「あ、ぼ、僕はチェロ、チェロ・・・。」 シンジは変に緊張してしまって声が裏返ってしまった。 「わぁ・・・私も弦楽器なんです。ヴァイオリンなんでぇす。」 マナは屈託の無い笑顔を綻ばせた。 緊張していたシンジもつい引き込まれて笑顔を漏らす。 「あの、良かったら、今日の説明会、一緒に聞きません?」 マナはちらっと左腕の時計に目をやった。もうすぐ説明会が始まる。 「あ、あぁ、いいよ。カヲル君も一緒でいいよね?」 シンジはこちらに向かってくるカヲルを認めてマナに聞いた。 「ええ、勿論・・・。」 マナはカヲルを振り向いて軽く頭を下げた。 「あぁ、昨日の・・・。シンジ君、やるねぇ、霧島さんに気に入られたのかな?」 カヲルは意外にもマナのことを知っていた。 「ヴァイオリンと声楽は会場が一緒だったからね。ホールが違っただけでさ・・・。日本人のダブル受賞で会場は大騒ぎだったよ。」 カヲルはそう説明しながら二人の先に立って歩いた。 (やれやれ・・・苦労がまた一つか・・・。) カヲルは苦笑いを漏らした。 だが、彼にとってその苦労は決して不快なものではないのだった。 私は胸に光る小さなネックレスを何度も何度も見た。 「これ、あげるから、つけていきなさい。」 お義母様がそう言って私にくれた、Kスクウェアのネックレス。 「こんな高いもの・・・。」 私は慌ててお断りしたけど、お義母様がどうしても、って言うから・・・。 「飾り気の無い子ねぇ・・・。」 私が出かけようとした時、お義母様が私の格好を見咎めてお小言を言った。 「そうですか?」 私は自分の格好を鏡に写してみた。薄い黄色のブラウスに、赤いチェックのスカート。結構派手な色を選んだつもりだったのに・・・。 「上、脱いで。はい、これ着て。それにこれ着て。・・・んー・・・じゃ、これもあげるわ。」 お義母様が選んでくれたのは、黄緑色のT−シャツに、薄紫のシースルーブラウス・・・。それに、お洒落な金のネックレス。Kスクウェアっていう、日本では有名なブランドもの・・・。 何度も御礼を言ったりしてすっかり遅れてしまった、と思って、しばらく駆け足で急いだら、かえって早く着き過ぎたみたい・・・。私は会場が見えてからはゆっくり歩いた。 「中で待ってようかな・・・。」 私は右手の腕時計と睨めっこをした。 15分前・・・。 「ちょっとくらい早い方が、いいよね・・・。」 自分を納得させるようにそう言って、私は建物の中に入った。 中は涼しい。 でも、暗い・・・。 暗さに目が慣れるまで、私はその場に少し立ち止まっていた。 「どうなさいました?」 急に背中から声をかけられた。何語? 「え、そ、その・・・。」 「あぁ・・・どうなさいましたか?」 ? 日本語だ・・・。 どうしてこの人、日本語話せるのかしら? 「あ、その・・・ここに、碇君・・・じゃなくて、き、昨日のオーディションの合格の人が・・・その・・・。」 「ああ・・・こっちですよ・・・。」 その背の高いイタリア人(?)の男の人は私の先になって歩き出した。 「おい、待てっ!!」 突然後ろから大きな声がした。 私の前を歩いていた男の人が急に私の手を取って走り出そうとした。 「ちょ、待って・・・。な、なんなんですか?」 「追われてるんだ。君も逃げないと危ない!」 ??な、何故?? 私はきょとんとしてその場に立ち止まってしまった。 すると、さっきまで親切だったその男の人は急に顔を歪めて私を突き飛ばすと、一目散に走り去っていった。 「大丈夫?お嬢さん?」 い、イタリア語、あんまり良く判らないんですぅ・・・。 「ジュリオ、ありがとう!」 二階から声がかかる。 これって、懐かしい声? 「あ、渚君。お久しぶり・・・。」 「お久しぶりじゃないよ、全く・・・。ほら、手。」 ありがと。 「シンジ君、君も何をやってんだ?一人で来させたのか?」 渚君は碇君に向かって責めるような口調で文句を言っている。 「うん、そうだけど?何か変?」 碇君は不思議そう・・・あれ?・・・誰かしら・・・?碇君と・・・仲が・・・良さそう・・・。 「えぇと、お友達?碇君?」 だ、誰なの?この人・・・? 「う、うん。綾波、こちら、霧島さん。霧島、マナさん・・・。」 え、えぇ・・・。 「霧島マナです。よろしく・・・あれ?あ、ありがとう、うちのネックレス、つけてくれてるのね?」 え!? 私が驚いたような顔をしていると、渚君が説明してくれた。 「うん。驚いたでしょう?シンジ君は鈍感だから気がついてないけど、Kスクウェアの霧島さんだよ。霧島グループの、ね・・・。」 その言葉を聞くまでも無く、私の胸は説明のつかない不安でいっぱいだった。 |