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〜外典〜
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Ophanim
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第7話 Wheel of Fortune:Dパート
目次
ぶぅ〜ん
。
道路脇の道を歩く祐一のすぐそばを車が走り抜けていく。
何を間違えたのか…。
やはり、順を追って聞かなかったのが間違いだったのだろう。
「香里は一人っ子だって言ってたんだ…。」
そう言った祐一に、栞は何とも言えない間を取って、
「祐一さんのクラスに、私のお姉ちゃんと同姓同名の人が居たんですね。」
と微笑んだのだった。
その間を、
”驚いた”
と取ればいいのか、
”考え込んだ”
と取ればいいのか、はてまた、
”既に答えを準備していた”
と取ればいいのか、さっぱり見当がつかない。
(自然、と言えば自然だったが……。)
演技、ととれないこともない、実に微妙な間だった。
さすがにドラマを見込んで鍛えているだけのことはある。
「祐一く〜ん。」
不意にどこかから声をかけられて、祐一はきょろきょろと辺りを見回した。
「こっちこっちぃ〜。」
声はすれども姿は見えぬ……。
……っていうか、見えないふりをしたい。
「
こっちだってばぁ〜っ!!
」
だが、無視していると状況は更に悪化する。
「よぉ、あゆ……。」
仕方なく、今、気がついたふりをしてやる。
あゆは車の窓から身体を半分以上乗り出して両手を振っていた。
恥ずかしいことこの上ない。
わざと車道側に回ってあゆと反対側から車に乗り込む。
「ゆ、祐一君、引っ張ってもらえる?」
窓から半分以上身体を乗り出していたのだから、戻るのはとても大変だ。
「……全く世話が焼ける……。」
服を引っ張ろうとして一瞬背中が見え、その白さにはっとなる。
「
わ
、わ、
お尻触ったらだめだよっ!
」
「
ば、馬鹿っ!そんなこと大声で叫ぶなっ!
」
あゆの顔はまだ窓の外にある。
大声でそんなことを叫ばれたら祐一は即刻変態さんの仲間入りだ。
窓に引っかかって服がめくれるたびに大騒ぎしながら、ようやくあゆが車の中に収まると、それを待っていた秋子が車を走らせる。
「仲がいいですね……。」
楽しそうだ。
「とっても迷惑なので二度とあゆを窓から出させないで下さい。」
祐一は心の底の、更にその奥から願った。
「
うぐぅっ!祐一君がなかなか見つけてくれないからだよっ!
」
あゆはボクは悪くないよっとばかりに頬を膨らませた。
「それはそうと、どうして車なんですか?」
祐一は当然の疑問に今頃思い至った。
何となく悪い予感がする。
「そうそう、名雪さんが大変なんだよ。」
あゆは
”明日の天気は雪です”
とでも言うような調子でそんなことを言った。
珍しくつけたテレビの中で、知った名前が消えていく。
知ってはいるが、見たことはない、その少女は
”教祖”
などと呼ばれていた。
(愚かな……あなたが過去に拒否した力は……既にここにあるのに……。)
眠ってはいるが、確実にある。
何故なら、彼女の娘が拒否したのは彼女の力であって少女の力ではない。
多くの偶然と「語りかける者」の力による「紡ぐ者」の気紛れで、彼女と彼女の娘の持つ力は違ってしまった。
その元凶がかつての力を欲して
”教祖”
などと呼ばれている。
「そもそも、名前を変えてしまったのすら間違っているわ。」
ようやく声にした言葉は少し怒っている。
「なぁに?お母さん?」
風呂上がりの娘が驚いたようにこっちを見ていた。
「なんでもないわ。ちょっとこの子の身勝手さに怒っただけ。」
それよりも、ちゃんと暖まった?と娘の身体を案じる。
「うん。もう大丈夫。」
雨も雪も降っていないのにびしょ濡れになって帰ってきた娘の姿に大層驚いたのが数十分前。
大急ぎでお風呂の準備をして制服を脱がせたが、その間ずっと娘は嬉しそうにしていた。
「また、聞こえた。」
時折呟く言葉に充足感がある。
「そう。どうかしたのかしら?」
「
”動かす者”
が……。」
「そう。判るわ。」
短く答えてお風呂に追いやったのが十分ほど前だっただろうか?
「テレビ、何?」
「ん。沢渡さんのところの真琴さん。挫折して新興宗教の教祖に祭り上げられていたみたいね。」
可哀想な人。
でも、そのおかげで、自分はまだ生きている。
お礼を言うべきなのかも知れない。
いや、その分、終えたはずの業を背負い続けているのだから礼を言う必要もないのかもしれない。
「お夕飯にしましょうか?」
母はその命を救ってくれた、いや、繋いでくれた娘に声をかけた。
「お腹空いた。」
「そうね。いっぱい修行したんでしょうからね…。」
舞、と。
母は愛娘の名を呼んだ。
ぷくーーーっ
と、これ以上ないほど頬を膨らましたあゆを先頭に、一行は家に戻ってきた。
「じゃ、祐一さん、あとは自分の部屋に運んで置いてくださいね。」
秋子も夕食の支度があるのでその場を離れていく。
後には暖房器具の箱を一人で抱える祐一だけが残された。
「……って、俺が悪いのか?」
悪いのか、うん、そうなんだろう……。
はぁ、と一つため息をついてから、よっこらせっと、暖房を運び上げる。
部屋についてからもうベテランの域に達した梱包解除作業をすんなり終え、早速暖房を実戦配備する。
ぴーぴーぴーぴー
。
「……うん、何となく判ってた。」
うるさいスイッチを切ってから、灯油を取りに階下に移動する。
途中であゆをみかけた。
「あゆ、灯油のある場所知らないか?」
「知らないよっ。」
…なんとなく言葉に棘がある…ような気がするのはきのせいだろうか?
「だって、俺は普通の反応をしたと思うんだけどなぁ……。」
反応は普通だった。
ただ、力の加減をちょっと間違えただけだ。あと、相手も、ちょっとだけ間違えた……。
「はぁ……。」
灯油缶を持って途方に暮れる。
さっきの様子だと秋子さんにも愛想尽かされてるかな、と考える。
「はぁ…………。」
祐一はまた一つため息をついた。
「祐一君……。」
その背中に消えそうな声がかかる。
「あ…あゆ…。」
「その…、灯油さんの場所、聞いてきたから……。」
無言で歩き出すあゆの背中を追う。
「……。」
「……。」
ここ、と言う代わりに指で指し示す。
「あ、ありがと。」
祐一が灯油缶を立てて座り込むと、あゆはそっと立ち去ろうとした。
「
あゆっ!
」
びくっと身体を震わせて、あゆが立ち止まる。
「そ、その……さっきは、ごめん……。」
「いいよ、ボク、もう怒ってないよ。」
その言葉通り、あゆの顔には笑顔が貼り付いていた。紙で作ったような笑顔が…。
「その…、ごめんな。俺は……。」
「うん。ボクの言い方が悪かったんだよね。」
?
もう一度あゆの顔を見る。
なるほど、あゆは怒っているわけではなかったようだ。
貼り付いていた笑顔の下に、ちょっとだけ悲しそうな素顔が透けて見える。
「いや、そ、それはそうなんだろうけど、それでも、やっぱり、女の子に接するのにちょっと、乱暴だった……。」
祐一は、ごめん、としっかり頭を下げた。
「う、うん。ボクもびっくりしたよ……。」
あゆはちょっとだけ顔を赤くしておどおどしながら答えた。
「服も破れちゃったし……。」
それを言われると祐一は弱い。
先ほど、秋子とあゆが暖房器具などを買い込んで帰ってきた時、祐一を見かけて車を止めてもらったのはあゆだった。だが、その車の中で、あゆが漏らした一言。
”名雪さんが大変なんだよ。”
余りにも重大な内容を、余りにも平然と……。
それを聞いた祐一は病院の時のようにあゆの胸ぐらを掴みかかった。
ただ一つ違ったのは、病院では栞が止めてくれたが、今回は秋子が運転中で止められなかった点だ。
ぐっと首が絞まるその力よりも、あゆは
”胸の近くを触られた”
ことを恐れて叫び声を上げた。
尋常でない叫び声を……。
運悪く、あゆが着ていた服は祐一のお古だったため、生地が多少弱くなっており、祐一の非常の力も加わって肩口からびりりと裂けてしまった。
もっとも、そのおかげであゆの首が絞まらずに済んだのだが……。
が、端から見るととんでもない光景だ。
車の中という密室で女性に対して力ずくで何かを強要しているように見える。
「そ、それは……ほんとにごめんな。」
「ちょっとだけ怖かったよ。」
くすくす笑うその表情からは、もう怒っているという感情は微塵も感じられない。
「
それじゃ、後でねっ!
」
ぶんぶん
と手を振って走り去っていくあゆは、もういつもの明るく、前向きなあゆだった。
「ふぅ……。」
灯油を入れ終わって部屋に戻る。
今度は暖房はきちんとその職務を果たしてくれた。
「ある意味、あゆで良かったのかもな…。」
これがもし、病院の看護婦相手だったら…。
栞がたまたまあそこに居合わせなかったら…。
考えるだに恐ろしい。
今頃は誕生会の準備どころかどこかの警察署で取り調べだったの真っ最中だっただろう。
「あ、そうだ。」
誕生会で思い出した。
大したものじゃなくてもいいから、とりあえず何かプレゼントは買っておいた方がいい。
祐一はコートを片手に、折角暖まりかけてきた部屋を後にした。
「あ、祐一〜。」
騒動の張本人がにこにこと立っていたので意味もなくちょっぷを食らわしてみる。
「痛いよ……。」
「
お前も電話くらい入れろっ!
」
無事で良かった、と声を掛けるのが何となく照れ臭くて、祐一はとりあえず怒ってみせることにした。
「
寒っ!
」
外に出ると寒さが錐のように服の繊維を貫き通してくる。
祐一はコートのボタンをしっかり留め直すと、ゆっくりと商店街に向けて歩き出した。
名雪は無事だった。
事故の直前、支柱の真下にさしかかっていた名雪はそこから全速力で
”前に”
加速してその場をやりすごしたのだ。
もし躊躇して立ち止まったり、逆に後ろに下がろうとして足を滑らせたりしていれば、確実に名雪はこの世の者ではなくなっていた。天野美汐の言う通り、
”あまり一生懸命にやらない方が”
良かったことになっていたであろう。
が、結果生きている。
一年生が一人、倒れた後に弾んだパーツで頭に怪我をした、というので大事をとって救急車を呼び、その責任者として顧問と部長の名雪が同乗した、というのが真実だ。水瀬家にかかってきた電話も、部長の帰宅が遅れる、という連絡でしかなかった。
何のことはない、祐一が持ったような心配は全て杞憂だったのだ。
病院まで名雪を車で迎えに行ったものの、帰ってきてすぐに
”真琴の部屋が寒い”
と言われ、暖房がないのに気がついた、と言う。あゆと秋子が祐一を拾ったのは、名雪と真琴に留守番を頼んで、ついでに祐一の分の暖房も買って帰ってきた途中だった。そして、何故名雪が家に残ったのか……。
「大変だからだよ〜だとさ。」
ため息混じりに名雪の口真似をする。
顧問が病院から戻ってきていないので選手名簿を確認できない。となると、明日の誕生会が始まるまでに反省文を作成しておかないと、もし選手に選ばれて無かった場合に名雪は二重に怒られる。というわけで、
「部活にも行って時間も無くなったのに反省文も用意しないといけないんだよ〜。」
と、
”大変”
なので、一緒に暖房を買いに来られなかった、とあゆは言いたかっただけなのだ。
馬鹿馬鹿しい。
あゆは国語が苦手らしい、と看破したのは他でもない祐一自身だったはずなのに、まんまとはまってしまった。
「ふぅ。」
とりあえず近くの雑貨屋に入ってプレゼントになりそうなものを物色する。
二つ……。
あ、待てよ……。
祐一はもう一人、自称記憶喪失の女の子、沢渡真琴のことを考えた。
あゆの話では名前だけは思い出した、という。
テレビを見ていたらそれっぽい音節がたまたま並び、それで思い出せた、と言っている。
眉唾だが……。
あいつが実は記憶喪失のふりをしているだけだったとしたら、それを良いことに都合のいいときに
”今日が真琴の誕生日だったような気がする”
とかやられかねない。ここは一つ、なし崩しにあいつもまとめてお祝いにしておいた方が無難だ。幸いまだ年の初めだから、今年1年のどこかの分ということで済ませておく、という建前が通用するだろう。何、記憶が戻ればすぐにも立ち去らなければならない立場にいる奴だが、楽しいこと好きの秋子さんならきっとすぐに了承してくれるはずだ。
祐一はもう一つ、プレゼント購入の計画を立てた。
<続き>
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