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| 第5話 見知らぬ襲撃者:Dパート | 目次 |
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「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーッッ!!!!」
ゴロゴロゴロゴロコロゴロゴローーーーーーーッッ!!
ズドンッッ!! ヒューーン…ガシャアァァーーンッッ!!
「や、ヤバ…。」
大ごとになってしまった…。
まさかここまで取り乱すとは計算外だった。
案の定、ドタバタと2階から足音が聞こえてくる。
今の騒音で起きなければ、隣近所が空襲にあっても寝ているだろう。
パチパチと電気が灯る。
「こんな夜更けに、近所迷惑よ?」
秋子が心配顔で台所に現れる。
「いぇ。なんだか不審な音がして……。」
そこまで言ってから思い出した祐一が不審者を振り返ると、戸棚に体当たりを食らわして、頭で皿を割って尻餅をついているのは2階に寝かせていたはずのあの少女だった。
「はぁ…うぐっ…死ぬほどびっくりしたよぉっ…。あぅーっ…お腹すいてただけなのにぃっ…。」
顔を真っ赤にして、今にも泣くか怒るかしそうだった。
「あらあら…。」
秋子は子供でもあやすように、動けないでいる少女の介抱をした。
「お腹空いたの?」
「あぅーっ…。うん……。」
少女は、こくん!と大きく頷いた。
「じゃあ、何か作ってあげるから、座って待ってて。」
この夜更けにも関わらず、秋子はエプロンを巻いて、キッチンに立った。
「祐一君…?」
両手を頭の上に載せ、肘で耳を押さえながらあゆが様子を見に来る。
「あぁ、あゆ。もう大丈夫だから、寝て良いぞ。」
俺はトイレに行く、と言って祐一はようやく本来の目的を遂行しに立ち上がった。
用を足して戻ってくると、祐一は謎の少女の隣にちょこなん、と座って夜食が出来るのを待っているあゆを発見した。
「あゆ〜……。」
「えへへ…、ボクもちょっとだけお腹空いたんだよ。」
ちょっと舌を出して照れながら話すあゆが可愛らしい。
「………む……。」
言い淀む祐一の前にお手製のお茶漬けが乗ったお盆を手にした秋子が現れる。
「祐一さんの分もありますよ。」
陥落。
かくして真夜中に4人もの人間が集まって食卓を囲むことになった。
(しかも………家主以外は全員外部の人間……。)
出来の良いペンション並だ。
いや、ペンションでもさすがにオーナーのプライベートタイムには接待しないだろうから、ある意味それ以上かも知れない。
猫舌ですぐには手を出せないあゆのために、予め少な目のお茶が入れてあるのがあゆのものだ。そこに水を注いだところで”深”夜食の始まりだ。
祐一やあゆがさらさらとお茶漬けをすすって食べ始めたのに対し、謎の少女は食べ方が判らないのか、お茶漬けをぐちゅぐちゅとかき混ぜてばかりいる。
「腹減ってたんじゃないのか?」
祐一がそう指摘すると、一瞬敵意のある視線を送った後で、恐る恐る口を付ける。
「……美味しい。」
「そりゃあ秋子さんが作ったものだからな。美味いに決まってる。」
祐一が茶々を入れると、またしても恨みがましく祐一を睨む。
「今からでも遅くない。連絡先を言えよ。」
祐一はお茶漬けを一口すすってからそう聞いた。
「………。」
だが、今度は少女は何を考えているのか、貝のように口を閉ざしたままだった。
(こいつ、まさか本当はこれが目的で俺に因縁つけたんじゃないか?)
そんな疑惑が浮上してきた矢先だった。
「ね、枕元に果物置いてあったの、気がついた?」
「…え?」
祐一の質問が棘を帯びてきたのを感じ取ってか、あゆが全く関係のない話題を持ちかける。
「わ、判んない…暗かったから……。」
そう言われてみれば、台所の電気をつけることもしなかったような気がする。
意図的に因縁を付ける、という論理的な思考が可能だったかどうか怪しいものだ。祐一は喉まで出かかっていた不審感を、お茶漬けとともに胃の中に押し流した。
「そっか……。でも、おかげでボクも秋子さんの美味しいお茶漬け食べられて良かったよ。」
あゆはにこにこ、と頷きながら最後のお茶漬けを口の中に放り込んだ。
確かに、さっきの感覚で言えば、尿意を感じずにいたとしても次は空腹感で目を覚ましてしまったことだろう。
そう考えると、この子が迷い込まなかったとしたら祐一とあゆは飢えと尿意に耐えなければならないところだった。
いづれにしても水瀬家の子供達は寝不足決定だ。
一匹の睡眠生物を除いては……。
「地震になったら名雪はまず助からないな…。」
祐一は実の親を目の前にしてそんな悲観的な観測をした。
「大丈夫ですよ。」
「それはさすがに冗談でしょう?」
祐一が苦笑しながら指摘すると、そうですね、と秋子も微笑む。
「でも、あの子一人では寝せませんから。」
だからやっぱり大丈夫ですよ、と秋子は少しだけ真剣な表情で呟いた。
場が心地よい沈黙に包まれる。
ほぉっとため息をもらしたのはあゆだった。
それが何を意味するのか、祐一には全く想像もつかなかった。
全員がお茶漬けを食べ終わると、秋子が実に自然な動作で茶碗を回収してしまう。
「冷えないうちに眠るんですよ。」
そう言って微笑む秋子を、あゆが言い難そうに見上げている。
「あゆ、何か言いたいことがあるなら遠慮しないで言った方がいいぞ。」
祐一が無理矢理背中を押す。
「うぐぅ……。」
恨めしそうに祐一に視線を移す。
このままからかい続けても良かったが、時間が時間だけに祐一はさっさと退散しようとした。
「……こら。」
祐一のパジャマの袖は、しっかりとあゆの手の中にあった。
「あのね、秋子さん。ボク、この子と一緒の部屋で寝たらだめかな?」
意図的か、それとも、相談に夢中で聞こえなかったのか、祐一の言葉を無視するようにして秋子に嘆願する。
「…この子って俺か?」
祐一のパジャマの袖を握って”この子”と言うのだからそう聞けないこともないが、あゆの視線は謎の少女の方にしっかりと向けられている。
「あら、どうかした?」
秋子は心配そうにあゆの顔を見る。そうやって見つめられるとかえって言い難くなるというのはほぼ万人に共通だろう。そしてやはりあゆも御多分に漏れなかった。
「名雪、寝相も悪いですからねぇ……。」
言い難そうにもじもじしているあゆの心中を、秋子が勝手に察した。
「ち、違……うぐぅ…。」
昨日の夜中の出来事を見る限り、違ってはいないだろう?と思っていた祐一だったが、ふと思いついたことがある。
「名雪の部屋、時計がいっぱいあるから秒針の音が怖いみたいですよ?」
「う、うぐぅ…。」
あゆが顔を真っ赤にして俯く。
パジャマの袖ががっちり握られて手首が痛いくらいだ。
血が止まってそうだな…、と祐一は少しだけ不安になる。
「あらあら。」
睡眠生物による被害ではないことに安心したのと微笑ましいのとで、秋子が心底楽しそうな笑顔を作った。
「構わないかしら?」
秋子が少女に尋ねる。
「あたしは構わないけど……。」
「偉そうに言うな。」
祐一は思わず少女の脳天にちょっぷを食らわしたくなったが、利き手がどす黒くなってきていたのでまずはそっちを解決することにした。その間に少女は勝手に部屋に戻ってしまった。
「あゆ、痺れてきたんだけど…。」
「わ、ごめん…。」
慌てて祐一の手を解放するあゆ。
「で、でもね、祐一君。ボクの布団動かすの手伝って欲しいんだ。」
胸の前で軽く両手を合わせてお願いする。
……可愛い。
「お前なぁ……とても一昨日同い年になったとは思えない”可愛い”だぞ、それ?」
その通り。
”可愛い仕草”のレベルがもっとずっと下の学校のものだ。
「う、うぐぅ……ダメ、かな?」
「まぁ、ダメってことはないだろうけど…。」
需要はあるに違いない。
「そ、そうじゃなくて、手伝ってって……。」
「良いですよ。それより、あゆちゃんのお誕生日おめでとう会をしないといけないみたいね。」
「あ、そうだった。」
切り出す手間が省けた。
祐一はこれ幸い、と先ほど突然決定された”なゆちゃん&あゆちゃんハッピーバースデーだよ:どっちもとっくに過ぎてるけど”誕生会の件について相談を持ちかけた。
「あぁ。そうでしたね。」
秋子は笑顔で事情を説明した。
「名雪の誕生日、いつもクリスマスの近くでしょう?私はちゃんと2回に分けているんですけど、お友達が集まらないんですよ。祐一さんが来なくなってからはいつも寂しがってましたよ。」
なるほど、と祐一は納得する。
呼ばれる側にしてみれば、いくら”気にしなくていい”と言われても、いや、人によってはそう言われれば言われるほど、気軽に遊びに来るなんてことはしづらくなるだろう。
(何しろ4人集まった、というだけで昨日のあの騒ぎだからな。)
誕生パーティーやクリスマスパーティーなんて名前が付いたらどこまで張り切るか判らない。
「それに今年は部長さんになってしまって、冬の合宿初日と重なったものですから。名雪の誕生会もやっていないんです。」
まとめてしまってごめんなさいね、とあゆに謝る。
「う、ううん。そんなの、全然構わないよ…。」
あゆは嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃ、お布団動かしましょうか?」
「あ、俺やりますから、秋子さんはもう寝てください。」
祐一とあゆは秋子にこの日2度目のお休みなさいを言って二階に上がった。あゆに協力して名雪の部屋からあゆの布団を移動する
「祐一君、ボク、誕生会なんて何年ぶりだろ……。」
あゆは寝る前だというのに嬉しそうににこにこしている。
布団を運んでいなかったらスキップでも始めそうだ。
「そうだな。俺も久しぶりかもな。」
なんとなく照れ臭くなってそう言った話題を避けるようになったのはいつ頃だろう?
(お袋が異様に凝りやがったからな。人を呼ぶのが照れ臭くなったんだった……。)
さすが姉妹、経過から結果に至るまでよく似ている。違うのは周囲が敬遠したか本人が拒否したかの違いでしかない。
「ボク、今日嬉しくて眠れないかもしれないよ。」
「とっとと寝ろ。」
「うぐぅ……。」
だが、ちょっと嬉しそうな”うぐぅ”だ。
「……懲りてないな。」
「だって、祐一君ならきっとそう言うと思ったんだよ。」
意地悪だもん、と微笑む。
「ぐぁ、あゆに読まれるようじゃもう俺は駄目だ。引退する。」
「…何を?」
「布団運び業。」
「わ、だめだよ。」
名雪の部屋からほんの少し布団を移動する間にもあゆをからかって遊んでしまう。
「ほれ。これで眠れるだろう?」
既に熟睡している少女の布団の隣にあゆの布団を並べる。
「うん。ありがとう、祐一君。」
「いいから早く寝ろ。」
「うん。おやすみ、祐一君。」
「あぁ、おやすみ。」
布団を肩までかけたあゆが目を閉じるのを確認して部屋を出る。
(あの調子じゃまだまだ眠らないな。)
どうにも止まらない笑顔を持て余しているあゆの様子を思い出しながら、自分の布団に潜り込む。
「さ、寒っ!」
折角暖まっていた布団も、お茶漬けで暖めた体もすっかり冷え切っていた。
時計を見ると既に信じたくないような時間だ。
無理矢理に目を閉じる。
自然に眠くなるのを待つしかない。
だが、こういうときに限ってどうでも良いことを思い出してしまったりする。
(栞に悪いことしたなぁ……。)
謎の少女を”栞”と呼んで帰ってきてしまった。
誰かから伝え聞いたらまた”そういうこという人嫌いです”って言われそうだ…。
栞…あ、そういえば、明日の昼は佐祐理さんと屋上で待ち合わせだった…。
あの人も天然だよなぁ…3年生なのに………3年生は青……1年生が緑………。
………何故、気づく。
何故、今、気づく!?
祐一はそっと目を開いた。
あの時栞はなんと言った?
”私は緑のリボンで1年生、佐祐理さんは青いリボンで3年生です”。
”お姉ちゃんは赤いリボンで2年生”。
赤いリボンの美坂なら一人知っている。
だが、その美坂は一人っ子だと言っていた。
どちらかが嘘を言っている……もしくは、もう一人、美坂がいる。
「お姉ちゃんは赤いリボンで2年生……。」
口に出して呟いてみる。
「あ、良かった。祐一君、起きてるよ〜。」
不意に扉の所から声がして、祐一は飛び上がって驚いた。
「な、なんだ?」
「その……お茶漬け食べたから……その……。」
祐一は再びあゆを連れてトイレまで往復した。
幸い、今度は短時間で戻ってくることが出来たため、布団は暖かいままだった。。
(寝るっ!)
謎は全て後回しだ。
祐一は強い意志で自らを眠りの世界へと追い立てた。
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