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| 第4話 新しい仲間:Dパート | 目次 |
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昇降口で靴を履き替えている香里がふと外を見ると、雪が降ってきているようだった。
「あぁっ!降り出しちまったよぉっ!」
全速力で走ってきた北川がさりげなく香里を追い越してその進路をふさぐ。
「お、結局間に合わなかったなぁ。」
祐一は北川からのノールックパスをしっかり受け止めて話の流れを作る。既に数年来の友人のようなコンビネーションだ。
「…教室で雪が降り始めるのを見てから走ってきたって間に合うわけないでしょう?」
香里は平然と北川を避けて帰ろうとする。
「香里、パンツ見えるからちょっと待ってくれ。」
祐一はその場にしゃがみ込み、ゆっっっくり時間を掛けて弁当袋から外靴を取り出す。
祐一の言葉で反射的にスカートを押さえた香里は背中を靴箱にぴったり寄せて背後を取られないようにする。
「この制服、もともと少しスカート短いのよね…。」
「雪国の制服には不向きじゃないのか?」
「昔の生徒会の投票で決まったからな。男子の組織票があったんじゃないのか?」
”雪の矛盾”をうやむやにするように話の流れを再構築しながら、北川と祐一の意識は確実に香里の鞄を目指す。
「ストッキング履くから大丈夫よ。あ、そういえば、スパッツもしてたっけ。」
私服の時の感覚でスカート押さえてしまったわ、と香里が移動を再開する。
「ふ、ふーん、じゃあ、見られても安心?」
北川は自爆覚悟のネタ振りをした。
「馬鹿なこと考えてると蹴るわよ?」
顔は笑っているがいつ蹴りが飛んできてもおかしくない。だが、北川の努力の甲斐あって香里は足を止めた。
「と、ところで、俺、今日病院に行く用事があるんだけど、香里、栞の病室まで案内してくれない?」
祐一はぐっと香里の腕を取って呼び止めながら、香里の視線の死角で北川にノートを渡す。北川もその死角の中で香里の鞄にノートを差し込んだ。
「しおり?」
北川のOKサインを横目に捉えていた祐一は、香里の言葉に一瞬遅れて反応する。
「そ、そうそう。栞。」
「…栞って、誰?」
香里は無表情で首を傾げた。
「え?だ、誰って、ほら、美坂、栞…。」
「聞いたことない名前だけど、相沢君の知り合い?」
「家族じゃないのか…?」
「家族…?あたしはひとりっ子よ?」
そうか、と祐一は自分の早とちりを認めた。
「そんなこと言って、実は相沢君が変な病気持ってるんじゃないの?あたしに移さないでね。」
ずいっと北川の肩を押して道を切り開く。
用事が終わった今、北川も敢えて道を塞ぐ必要はないので香里に道を譲る。
「うまくいったな。」
ふぅ、とため息をつく祐一。
「すっげー怒ってたけど…。」
北川は心配そうに祐一を見た。
「あれで?」
「あれは凄く怒ってるね。」
北川がぶるっと一つ身体を振るわせる。
「あ、雪止んだな。」
香里が傘を差していないのをぼんやり眺めながら祐一が話す。
「美坂の怒りで干上がったんじゃなきゃいいけどな。」
北川は独り言のように呟いて、また一つぶるっと身体を振るわせた。
倉田総合病院は人に聞いていればすぐに着けた。
その建物には…。
「おい、病棟がこんなにあるとは聞いてなかったぞ?」
少なくともA〜Cの3つの病棟があり、それぞれ5,6階建てはあるだろうか?
当然208号室もA−208〜C−208の3つはあるはずで、それをいちいち回っていたら昼の面会時間が無くなってしまう。
途方に暮れていると、見慣れた制服が歩いてくるのが目に入った。
青いリボンなので自分たちと違う学年だ、と言うことは判る。
「あの、すみません。」
祐一は青いリボンの少女に声を掛けた。
「はい、なんでしょう?」
「ここに入院している患者さんで、美坂栞さんの病室はどちらでしょう?」
「はい?えー…ちょ、ちょっと待って下さ〜い。」
聞かれた少女はきょろきょろ、と辺りを見回して、ナースステーションに駆け込む。その様子を見てから、祐一は訊ねる人物を間違えたことに気づく。
(看護婦に聞くもんだろうなぁ、常識的には…。)
世間の荒波に揉まれる必要性を痛切に感じる瞬間だ。
見慣れぬ姿の看護婦よりも見慣れた制服の見知らぬ少女に頼ってしまった。明らかに部外者で、不適任にも関わらず、だ…。
「判りましたよ〜。さ、行きましょう!」
少女は祐一の先に立って歩き出した。
「い、いえ。あの、場所さえ言っていただければ…。」
「C棟ですよ〜。」
少女の答えは確かに祐一の問いと対応していたが、祐一の意図した対応ではなかった。
「いえ、そのぉわざわざ案内していただかなくても…。」
「いいんですよ〜。佐祐理も行ってみたかったんですから〜。」
少女…佐祐理はそう言って笑った。観光名所じゃあるまいし、行ってみたいも何もないものだ、と祐一は苦笑する。
「えーと、佐祐理さんって言うんですか?」
「佐祐理でいいですよ〜。」
歩調を緩める様子もなく歩く佐祐理に、祐一は”俺は相沢祐一”と簡単に自己紹介する。
「相沢さん、お見舞いですか?」
「祐一、でいいよ。」
「あははー、照れるので祐一さん、って呼びますよ〜。」
それも照れる、と思いながら、結構早足の佐祐理についていく。
「で、祐一さん、お見舞いですか?」
「そうだけど…。」
「妬けますね〜っ!」
あははーっと笑う。
病院の中で大声を出すのは非常識ではないのだろうか?
「佐祐理、声大きいよ。」
祐一は唇に指を当ててたしなめた。
「あははーっ、祐一さん、照れなくてもいいですよーっ!」
逆効果だ…。
「そうじゃなくて、他の患者さんに迷惑だろ?」
「ふぇ…、そ、そうですね…。あはは…佐祐理、馬鹿だから忘れていました…。」
泣き笑いのような顔をしながら、しゅんとなる。
「今度から気をつければいいよ。」
「そうですか?祐一さん、ありがとうございます。」
そう言うと佐祐理はぱっと明るい笑顔を取り戻した。
「ここですっ。」
佐祐理は祐一に場所を指し示した。
「あぁ、ありがとう。」
「ちょっとだけ佐祐理もご一緒してよろしいですか?」
勿論、と答えて扉をノックする。
「入っていいですよ〜。」
可愛らしい声が漏れてくる。
「おう、お待たせっ。」
「お邪魔しまーすっ。」
二人は栞の病室に入っていった。
「あれ?祐一さんと…?」
「佐祐理で〜す。」
佐祐理はぴょこん、と頭を下げた。
「栞、忘れないうちにお金返すよ。それと、これ、お見舞いな。」
面会時間を気にしながら、祐一はまず用件を済ませた。それからおもむろに弁当を広げる。
「栞、昼飯まだだったら一緒にどうだ?」
「病院のお食事しましたよ〜。」
それもそうか、と納得しながら、だけど、食べたいもんあったら遠慮なく取れよ、と付け加える。
「ほえ?美味しそうですね〜。佐祐理も食べていいですか?」
「あぁ、佐祐理は何がいい?」
「これがいいです〜。」
そんな二人の会話を唇に指を当てながら見ていた栞は、ほぉっとため息をついた。
「祐一さんと佐祐理さんはお付き合いしているんですね〜…。」
いいなぁ、と力無い笑顔を見せる。
「そんなことはないぞ。さっき会ったばっかりだ。」
祐一は栞に林檎で作ったうさぎを差し出しながら説明した。
「え?そうなんですか?」
「あぁ。時間にしてまだ5分くらいだから、栞の方が長いつきあいだぞ。」
祐一は栞に向かって指と指の間隔でそれぞれの関係を説明して見せた。
栞はまだ納得していないようにじーーっと二人を見つめている。
「でも、祐一さんは昨日、2年生だって言いました。」
「おお。ほうだほ(そうだぞ)。」
祐一は口の中いっぱいにご飯を詰め込みながら答えた。
秋子さんの料理は冷えてもうまいなぁ、なんてことを考えながら…。
「でも、その人3年生です。」
ぶはっ!
米粒爆弾が破裂したが、すんでの所で両手で受け止めた。
「な、なにぃ?」
「私は緑のリボンで1年生、お姉ちゃんは赤いリボンで2年生。その人…佐祐理さんは青いリボンだから、3年生です。」
「はい。佐祐理は3年生ですよ?」
栞からもらった割り箸で料理をつついていた佐祐理が、それが何か?と言いたげに首を傾げる。
「祐一さん、これ、とても美味しいですねーっ。」
「さ、佐祐理さんっ!」
祐一は問答無用で呼称を変更した。
「はい?」
「佐祐理さんは先輩なんだから俺に敬語使わないでくださいっ!」
なんだかとても無礼なことを平気でしていた気分で居心地が悪い。
「あははーっ、そうですねー。でも、佐祐理は馬鹿だから敬語使っちゃうんですーっ。」
佐祐理の側には全く改める意志はないが、それはこれまでの会話で何となく判っていたから諦める。だが、祐一が上級生、それも異性に対して敬語を使用しなかったら、栞が抱いたような印象を与えるのは仕方がないだろう。
それからしばらくは3人で楽しい会話が続いた。その楽しい時間の終わりが唐突でなかったら、ここが病室であることを忘れそうだった。
「あ、検査の時間です〜。」
栞が悲しそうな顔をした。
「栞、済まなかったな。」
なんだか騒ぎに来ただけになってしまった。
「そんなことないです〜。私も楽しかったです。」
たは、と笑顔を吐き出す。
「栞は何の病気なんだ?」
口にしてしまってからしまった、と思う。
佐祐理の顔も緊張していた。
部屋の中に奇妙な静寂が流れる。
「あ、あ〜、さ、差し支えなかったら、ってことで…。」
「…言い難いんですが…。」
祐一の必死の繕いも間に合わず、栞は思い詰めたように口を開いた。
「実は…。」
「…実は?」
「………。」
ごくっと、佐祐理の白い喉がなる。
「風邪です。」
………。
「か…ぜ…?」
「はい、風邪です。」
ほぉあぁ…という二人分ため息が重なる。
「どうしたんですか? 疲れたような表情ですけど?」
「…もっと難しい病名が出てくるのかと思った。」
祐一はそう言い、佐祐理は無言で頷いた。
「すみません、何かがっかりさせてしまったみたいです。」
「いや、風邪なら大したこと無いからいいんだ…。
「あ、だったら流行性感冒でもいいですよ。」
栞はにこっと微笑む。
「いや、いいよ。検査、行くんだろ?」
祐一は脱力しつつも、栞が深刻な病気でなかったことを喜んだ。入院するほどの病気だ、というだけで深刻に考えすぎたかも知れない。
「風邪治ったら学校で一緒に昼飯食おうな?」
「祐一さんの奢りですか?」
「秋子さんの弁当があるときだけな。」
「残念です。」
少しも残念そうにせず、そう答える。
広げた弁当を片づけて部屋を出る。
「それじゃあ、また今度〜。」
佐祐理は検査に去っていく栞に元気に手を振った。
「祐一さんのお弁当、美味しかったです〜。でも、今度は佐祐理のお弁当も召し上がってみてくださいねぇ〜。」
佐祐理は栞の姿が見えなくなるとそう言って祐一に笑いかけた。
「普段は友達と一緒に屋上に近い踊り場で食べてますから。」
「お、おぉ…。栞が退院したらみんなで、な。」
祐一は、何もこの寒いのに階段で食べなくても、とも思ったが、せっかくの佐祐理の誘いを無下に断るのも憚られたので無難に答えた。
「あは、え…と…そ、そうですね。」
そうできたらいいですね、と歯にものが詰まったような言い方をする。
「どうしたの?佐祐理さん?」
「あははー、佐祐理、馬鹿だから、祐一さんに遠回しに断られたのかと思いました…。」
そんなことないですよ、と祐一も苦笑する。
「じゃあ、とりあえず、明日の昼は俺一人でお邪魔します。」
祐一はそんな安請け合いをした。
「判りましたぁ。」
佐祐理はとびきりの笑顔で応える。
「ところで、結局佐祐理さんの用事は良かったんですか?」
祐一はまだ少し相手との距離を測りかねながら聞いた。
「え、えぇ。もう充分見学しましたから。」
見学って、と笑おうとしたが、意外と真剣な佐祐理の顔に、作り笑顔すらそぐわない気がしてやめてしまう。その気になって注意して見ていると、時折真剣な表情で病室の様子を覗き見ている様子が見て取れた。もしかしたら、栞の所に向かうときも、大声に真実を隠して何か観察していたのかも知れない、と邪推してしまった。
(あ、しまった…。)
佐祐理の様子を観察するのに夢中で、C棟への行き方を記憶するのを忘れていた。
(まぁ、C−208と判れば今度はナースステーションに行くだけで済むだろう。)
それに、風邪ぐらいでそうそう長く入院することもないだろうし、と考えを変える。
「それじゃ、明日また。」
外来受付と出入り口が見えてきたところで祐一はそう言って佐祐理に手を挙げた。
「はい。祐一さん、また明日〜。」
佐祐理も手を広げてぱらぱらと手を振る。
「栞が退院したらみんなで、な。」
何となく、そう言ってみる。
元気よく振られていた佐祐理の手が一瞬止まる。
「…そ、そうですねーっ。」
佐祐理の言葉もやはり歯にものが詰まった感じになった。
その態度にどこか釈然としないものを感じながら、祐一は帰路についた
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