コンビニ:13.辞意 by harumi
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俺は、ある決意を胸に愛機「ブルーサンダー2号」を駆っていた。 コンビニ店員を辞する決意である。 さかのぼること約一ヶ月前。 いろいろな用事が重なって4週間近くバイトを休むこととなった。 この時期、長期に渡って休むことは前にも店長に申し合わせていたため、休みはすんなりと取れたのだが、その時「この際だからこれを機にバイトをやめるか」という話になった。 私「じゃあ、やめましょうか」 店長「え?やめる?!復帰するんじゃないの?」 私「でも4週間も休むわけだし…それにバイトできるの、この時期くらい迄っていう話をしてましたよね」 店長「そうだっけ?」 私「え??じゃあ、私のかわりのバイトの募集、してないんですか?」 店長「一応やっているんだけどね。まぁ何とかなるでしょ」 私「……………。じゃ、こうしましょう。私が休んでいる間に、新しいバイトを募集しておいて下さい。新人が入って研修も私のいない間に終わったら、今までの私のシフトにその新人を入れて下さい。4週先なら私も少し時間に余裕が出来ますから、その時に新しいバイトがいなかったら私に声をかけて下さい。新しいバイトが入った直後なら、その人の新人研修を私がやっても良いですよ。新人の研修期間が終わるまでのバイトということで。」 新人研修とは、新しいバイト君に仕事のノウハウを教える仕事である。 俺の時は二回、ベテランの深夜のバイトの人と一緒に働いて、仕事のノウハウを教わった。 店によっては三回の場合もあるし、店長直々に教わる場合もある。 新人とはいっても二人で深夜のバイトをするわけで、教える方は楽なものである。 とにかく俺の示した条件の提示は、当然なのかもしれないが、店長にとっては全く都合の良いものである(と思う)。 なぜって、つまりは俺がいない間に補充要員が見つかったら俺を勝手にやめさせて良いですよ、と言ったようなものだからだ。 しかも俺の休み明けにバイトがいなかったら、しばらくはまだ働きますともいった。 店長はすんなりと受け入れた。 それにしても、前はとっとと辞めてくれと言う感じだったのに、妙に引き留めるような素振りを見せたことに少し驚いた。 しかしそれも社交辞令だろうと、この時は思ったのだ。 4週間後。 用事がすっかり終わった俺は店に電話を入れた。 電話には店長ではなく、店長の奥さんが出た。 店長の奥さんも勿論コンビニの店員である。 私「私、シフト(勤務)に入ってますか?」 奥さん「入ってないですね」 私「じゃ、もう行かなくても良いと言うことですね?」 奥さん「えーと・・うーん・・」 私「??かわりの新人のバイトは見つかったのですか?」 奥さん「そうじゃないんだけど・・」 私「なら他の深夜の人が、私の時間を穴埋めしている状態なのですか?」 奥さん「そう」 私「じゃ、私は勤務に戻るべきですか?」 奥さん「…うーん…」 どうも要領を得ない返事ばかりする。 この夫婦ははっきりものが言えないのか? 私「じゃあどうしろというのですか?」 奥さん「私じゃあよくわからないし、店長と直接話した方がいいとおもう。でも今は店長はいないから…」 私「じゃあ、自宅の連絡先を…」 奥さん「あ、今休んでると思うから…」 私「それなら日を改めて電話しますね」 その後、いつ電話しても店長は留守。 一体、居留守でもしているのか?と思いつつ、そんなこんなで一週間が過ぎた。 こっちから連絡が付かないのに向こうからも連絡がないのは、これはもう俺はいらないということだと判断した。 しかし、もう一年以上もバイトをしている店。 それなりに愛着もある。 店長にも結局は世話になっているわけで、最後は直接会って感謝と別れの挨拶をするのが礼儀というものだ。 なんだかんだいっても、働かせてもらって、給料ももらっているのだから。 それで今、店へと足を運んでいるわけである。 頭の中はなんと挨拶するかを考えていた。 (長い間お世話になりました。考えてみると、私の中では一番長いバイトになるんです。もうこのお店で働いて一年以上になるんですよね。その割に給料は一円も上がりませんでしたね。募集の張り紙、訂正した方がいいんじゃないですか。他の平均的なコンビニよりも安い割に深夜は一人だし、あっちのコンビニは深夜二人で時給はここより高いし……) ・・・・・・・・・。 俺は考えるのをやめた。 店にはやはり奥さんしかいなかった。 しかし、まぁ、奥さんに挨拶しておけばそれでいいだろう。 わざわざ店に足を運んできたという事実には変わりないんだし、要は心だ。 誠意は見せたよね? ところが俺が口を開く前に奥さんの口から出た言葉は、 「今週働いてくれない?」 だった。 俺は訳が分からず、一瞬ぽかんとしてしまった。 今週?ってことは、二日後かぁ、おい!? 奥さんの話はこうだ。 ついこの間、突然深夜のバイトが一人やめてしまった。 今まで五人で回していた深夜が四人になり(そのうちの一人は俺だから、現在は三人)そのうち二人は学生だから、かなりきついのだという。 俺のシフトは週一の日曜深夜。 月曜日は学校があるから学生がバイトをすると寝ないで講義に出なくてはならない(そりゃあそうだろう)。 もう一人のフリーターのバイトは、平日の深夜を四日間やっているので日曜深夜までバイトできない。 学生のバイトが俺のかわりに日曜深夜に入っていたが、寝ないで講義はかなりきついらしく、今週だけでも変わって欲しいというのだ。 俺にはそれで事情が飲み込めた。 恐らく俺の抜けた穴には、その辞めちまった奴をあてる気でいたのだろう。 俺が電話を入れた時に奥さんが曖昧な返事をしたのは、まだそいつがはっきりした態度を示さなかったからか、いなくなった直後でまだ対応を決めていなかったからかもしれない。 とにかくそいつはいなくなり、かわりはいない。 思えば4週間前に店長に俺が辞めると言ったときも、店長はそいつが辞めそうなのを悟っていたのかもしれない。 それにしても・・ 俺がいなかった一ヶ月、いやそれ以前から募集しているはずなのに、俺がそろそろいなくなることはわかっているはずなのに、あんたらはなんの働きかけもしなかったのか? その突然辞めちまったバイトみたいに、俺だってバイトで従業員じゃあないんだ、今すぐ辞めることだって出来るんだぞ? それをなんだ、そっちからはなんの連絡もしないくせに、俺が店に挨拶に出てくればいきなり働いてくれだと?! おまえら、虫が良すぎるんだよ!! それなら事前に連絡しろよ! 昇給はどうなってんだよ!!! などと言えるはずがない。 週末はゆっくりと過ごす予定だったのだが、それはおじゃんになった。 タダ働きする訳じゃないんだし、食料も手に入るし、研究も一段落ついてるんだし、一日だけなら…と前向きに考え、俺はOKしたのだった。 奥さんがいうには、バイトしに来るときには店長もいるから、その時に今後のことも話せばいいということだった。 その時、ちょっとだけ「あれっ?」と思ったのだ。 奥さんの「今後」という言葉の微妙なニュアンスに… 週末、時間よりもかなり早めに店に着くと、店長はなぜかそわそわしていた。 他の店員と話し込んでいて、俺が話しかけても気のない返事。 俺がいつもよりも早く店に行ったのは、勿論勤務時間に差し障り無い時間に店長と「今後」の話がしたかったからだ。 店長は俺との話し合いを避けているように見えた。 俺は勤務開始まですることもなく、なにげに連絡板を眺めていた。 そこに張ってあるシフト表を目にしたとき、俺は我が目を疑った。 なんと来週も俺のシフトが入っているではないか。 おい、一日じゃあなかったんかい… 俺が勤務を開始し、他のバイトが帰っても、店長はなぜか忙しそうだ。 店に人がいなくなったとき、たまりかねて俺は店長に尋ねた。 私「店長、シフトが来週も入っているみたいですけど…」 店長「ん?ああ、頼むよ。」 さも当然といった返事。 私「……奥さんにも聞いていると思いますが、私の今後のことについてですが…」 店長「え?ああ、今後ね。募集はしてるんだけどね。」 私「してるんだけどねって…」 店長「とりあえずしばらく頼むよ」 私「しばらく?しばらくっていつまでですか?」 店長「しばらくだよ」 俺は初めて理解した気がした。 こいつは問題から逃げているのだ。 人と衝突するを避けているのだ。 俺はそれ以上、何も言えなかった。 結局もう”しばらく”働くこととなった。 というわけで、このコンビニ万華鏡ももう”しばらく”続きます。 ハァ……………… |