コンビニ:09.虫

by harumi

コンビニに限らず、結構見かけますよね、これ
正式名称は何というのだろうか?
『虫よせマシン』じゃあ味気ないかな・・




私が勤めるコンビニの虫対策は、外にぶら下がっている虫よせマシンくらいである。
いやいや、それはここに限ったことでなく、どのコンビニでもそうであろうと思う。
隙間さえあればどこからでも進入してくる虫に対し、コンビニは全く無力なのである。
実は結構深刻な問題なのだ。

(大きめのデパートでは、入り口から入ってくる虫をエアカーテンによって防いでいる。
 エアカーテンは元々外気を遮断して店内の温度を保つためのものらしいが、
 入り口のドアから進入してくる虫に対しても効果があるようだ。)

以前客に、
「このコンビニ、虫が多くないですか?」
と言われたことがある。
それもそうだろう、まわりは人家が少なく、人影もまばら。
コンビニの裏は、草が生え放題に延びている。
夜ともなれば煌々と明るいコンビニの窓に、
こんな環境では虫が寄りつかない方がおかしいというものだ。

店長に対策をお願いしたこともあったが、どうにもならないと言うのがその返事だった。
24時間客がいる店内で殺虫剤を撒くわけにもいかない。
お店の入り口をなるべく開け放さないようにするしかない、とも言われた。
でもそれは店員ならばいつでも心がけていることだ。

俺に出来ることと言えば、店内を飛び回る虫を、ただ眺める他はない。
まさか追いかけてはたき落とすわけにも行かないし、それほど暇でもない。

まぁ、虫と言っても、空中をやかましくブンブン飛び回るか、
地面を這いずり回っているくらいで、
ほおって置けば実害はないだろうと思っているそこのあなた
一つだけ例外がある。
それはおでんである。
他のものはラップに包まれていたり容器に入っていたりするが、
おでんだけはどうにもならないのだ。

我がコンビニは(困ったことに)夏でもおでんの販売を行っている。
ほとんど売れることはないのだが、お店の方針ともあらば逆らえない。
(御存知のように、我が愛すべき店長は頑なである)
おでんの販売をアピールするためには蓋は開け放して置かねばならない。
そして、空中には虫が飛び交っている。

・・・言いたことはもう分かっていただけたと思う。
これ以上は何も言うまい。
俺が夏場のおでんを嫌いな理由の一つである。
これを読んでいるあなたも、よくよく注意されたし。

それでもどうしてもおでんが食べたいときはどうすればいいのか?
おでんの容器に自分でおでんを取り分けるようにすると良い。
なぜなら、自分でより分けたならよくよく注意できるし、
万が一”それ”が入っていたものを買ってしまったとしても、
自分のミスとして諦められるからである。
勿論店員は”それ”が入らないように注意はしているが、
不幸な事故はいつ起こるか分からないのである。



深夜、仕事が一段落ついて、一息ついていたとき。
お店のどこからともなく鈴虫の鳴く声が聞こえてきた。

 リーン リーン リーン

誰もいない店内に響きわたる音は、場違いな雰囲気にも妙にマッチしているように感じて、
俺は何とも言えない気分になった。

鈴虫は夏の間中、我がコンビニに住み着いていたようだった。
どうやら数匹が迷い込んだらしい。
そのうち、昼でも夜でも鈴虫が鳴くようになった。
たまにその声を聞くならばまだ良いのかもしれない。
しかし店長ともなれば、毎日その声を聞かねばならない。

ある日のバイトの開始前、店長がこうつぶやいていた。

「真昼っからリンリンリンリン泣きやがって・・
 もう発狂しそうだ・・」

それを聞いて、俺は前にNHKで「鈴虫の鳴き声を聞く会」が紹介されていたのを思い出した。
自分の飼育している鈴虫を持ち寄り、どれほど長く鳴いているかを競うのだという。
そのために、鈴虫にウナギを与えて精を付けている人さえいた。
番組の内容を店長に教えたら一体どんな反応が返ってくるのかという欲求は、
俺の慈悲深い(?)理性によって押さえられた。

シチュエーションによって、感じ方もずいぶん変わってくるものだ。
いや、生活習慣だろうか。それとも年齢だろうか。感受性?
愛でる者と、忌む者。

店長の気持ちも分からなくはない。
コンビニの中で聞く鈴虫の声は、冷静に考えてみれば、
たしかに場違いで、あまりにも寂しげだった。
聞こえてくるべきではないはずの音なのだ。

その次のバイトの時、なぜか鈴虫の音を聞くことは出来なかった。
ここを去ったのか、あるいは・・・・




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