コンビニ:07.おでん by harumi
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既に午前2時を回った辺りだった。 この時間、牛乳やらパンやらが入ってきて、忙しさは一応のピークである。 そんなとき、賑やかな女の二人連れが入店してきた。 いつも通り私は挨拶をする。 「いらっしゃいませ、こんばんは」 女の方の一人が、つかつかと俺の方に寄ってくる。 こういう客の次の台詞は、たいてい「トイレ貸して下さい」だ。 俺はトイレのある場所を客に教えようと、仕事の手を休め、その客に向き直った。 するとどうだ、(文字通り)俺に顔を付き合わせて 「いらっしゃいませぇーこんばんはぁ」 と言ったかと思うとそのままツカツカとトイレへ。 俺は思わず呆然と立ちつくしてしまった。 その女がトイレに入って戸を閉める音を聞いて、我に返った。 俺は冷静だった。すぐに仕事を再開。 イヤなことは忘れるに限る。 トイレから女が出てくると(その間もう一人はトイレの前の鏡の所にいたようだ)、やかましげに店内を物色しはじめた。 マジでやかましい。 見たところ女子高生だろう。 (髪が長いときの)○室奈美○のコピーが二人いるみたいだった。 そのうち片方が携帯電話(PHS?)を取り出し、どこかに電話をかけだした。 勿論、店内で。どでかい声だ。 立ち読みをしていた他の客が、静かに店を去るのが見えた。 俺は黙々と仕事を進める。 電話も終わり、買うものも決まったようだ。 レジでの会計を、俺は手早く済ませる。 こんな客にも笑顔は忘れない。だが手早く。 「ありがとうございました、またお越し下さいませ」 決まり文句を言って俺が仕事に戻ろうとすると、その女のうちの片方が(たぶん丁寧にも挨拶を返してくれた方の女だと思う・・顔をよく見なかったので区別が付かないのです・・) 「おでんのつゆだけ頂ぉー戴」 俺は(当然のことだが)優しく丁寧に、 「お客様、おでんのつゆだけの販売はいたしておりません」 「だから頂戴っていってんじゃないの」 「・・・・タダで、と言うのもやってないのですが・・・」 「えぇーっ、うそぉーーー、前はくれたよぉ」 え?前?前っていつだ? 「前というと・・?」 「2・3日前の深夜の時は、もらったもん」 「ええっ?・・・・ホントは・・ダメなはずなんだけどな・・・・」 「でももらったしぃー」 遠い記憶がよみがえってきた。 デジャヴュでなく、前にもこんな事があったような気がする。 おでんのつゆだけ?ましてやタダで配るなど良いわけがない。 おでんのつゆは、おでんを買ったときについてくるいわば『おまけ』なのだ。 グ○コのキャラメルのおまけだけをくれ、と言って、おまけをタダで渡す店があるだろうか? あるはずがない。それとおなじことだ。 これは以前にもあったことで、その時に店長に確認済みである。 つゆが欲しいなら、70円のおでんを一つだけ買えばいいのだ。 それでつゆを多めにと言うことならば、いくらでもサービスする。 ここは断固とした態度を示さねばと思い、口を開きかけると、 「前にくれたのに今度はダメなんてへんだよねぇー」 「ほんと、ケチケチすんなよなって感じ」 「曜日によって態度が違うんじゃあねぇ」 「・・・・・・」 目の前の女どもは、ステレオでわめきだした。 左右からの口撃は凄い迫力だ。 あーでもないこーでもないピーチクパーチク・・ 冷静に考えてみた。 ・・・前にもらった事があるというのが、この二人の狂言だとしても。曜日によって態度が違う、意識の統一が図られていないと客に言われては、やらないわけにはいかない。 なにより、つゆさえやれば、こいつらは俺の前から消えてくれるようだ。 無実の罪を着せられた犯人が、警察の威信を懸けた尋問にさらされているのに似ている。 『おまえがやったんだろうが!言っちまって楽になれ』 分かったから、黙ってくれよ・・ 俺は楽になることにした。 おでん用の容器に半分ほどおでんのつゆを入れ、女に差し出す。 「なみなみだよ。いっぱいにいれてよねー」 瞬間、怒りが頂点に達したかの様に感じた。 頭に血が上り、顔が赤くなったと思った。 しかしどうやら、俺はかなり寛大な人間らしい。 俺はあふれんばかりに、なみなみとつゆを注いだ。 「さんきゅー」 女どもは消えた。 もし俺が塩を持っていたら、すかさずまいていたところだ。 俺は仕事に戻った。 こうして奴らは、まんまとおでんのつゆをタダでせしめたのだった。 おでんのつゆが注がれた容器は、空になって我がコンビニの駐車場に転がっていた。 ああいうのは片づけると言うことを知らんのだ。 そりゃあそうだろう、あの態度を見れば。 それはそれで幸福なのかもしれないけどね。 全く、このバイトをしていて出会う人々のキャラクターは、変化に富んでいる。 彼女らがこのコーナーに貢献したことに感謝することにしよう。 万華鏡のタイトルを付けたのは全くもって正解だった。 ところでこの話には後日談がある。 ちょっと長くなりそうだし、それはまた次回。 |