我が輩は猫ですの from Ophanim
使イ魔対決編





 私は使い魔ですの。

 用事はご主人様の飼い猫ですの。

 オプションで遠野家の実態調査もしてますの。

 や、もう終わりにしますね。まぁ、だいたい主要なところは全員終わってますよね。ふぇ〜、疲れた疲れた。

 え、そんなことない、後一人残ってる、ですって?

 えぇ……。

 わ、判ってますの。

 でも、あのお方はボスキャラですから。さ、最後にとっておいたんですの〜、あは、あは。そ、それに、エンディングも一つしかない半端キャラだしぃ…………。

 うう……。やっぱり、やらないと駄目ですか?

 そうですか、はぁ……。

 なんとなく嫌な予感がするんですよね〜。なにげに怖いし……。

 それに、私、なんとなくあの方……琥珀さんには『猫じゃない』ってばれてるような気がするんですよね。

 にやにや笑いながら何事もなかったように話しかけてくるし。うっかり頷きそうになってしまいますわ。あの笑顔にだまされちゃいけないような気がするんですの。

 でも、みなさんのご期待には背けません。

 非常に危険なことは重々承知の上で、琥珀さんの部屋に侵入を試みますね。試みるもなにも、猫ですから。普通に開いている窓からひょひょいっと入れば良いんですけどね。

 あ、でも、う〜ん。遠野家の窓から入るって言うのは、厳しいですね。爪をかける場所も無いんですよ。

 いぇ、無理じゃないんです。私はその気になれば飛べますから。でも、猫が飛んだらまずいですよね?多分

 だから、お台所に行ってみますの。それでいいですよね?

 いいことにします。と、言いますか、琥珀さんの本拠地に潜入したらまず無事では帰ってこられないと思います。

 よいよい、と…。あ、いましたよ。ターゲットが……。ふんかふんかと、調子の外れた鼻歌を歌っていやがります。

 私が入っていくと瞬時に気がつきました。

 「あら!猫ちゃんじゃないの。いらっしゃい」

 にぱっ、と音が出そうな満面の笑顔。だまされちゃいけないと思っていても、琥珀さんのこの笑顔を見ると、つい嬉しくなってしまいますね。

 「そうだ。猫ちゃん。今日は良いものが手に入ったんですよ?」

 琥珀さんはごそごそ、と台所の隅を漁って何かを取り出します。

 なんでしょ?変なクスリならいりませんよ。

 「じゃじゃ〜ん。猫ちゃんなら飛びつかずにはいられない、ナマリブシですよ〜。美味しいですよ〜」

 琥珀さんは茶色くて小さなナマリブシを取り出して床におきました。

 む。まずいですね。これは飛びつかないといけません。

 あ、知らないですか?

 要するに、鰹節の元ですの。関西では「なまぶし」と言うらしいですよ。鰹節はしっかり乾燥させますので、削らないと食べられないくらいすっかり固くなってますが、ナマリブシはまだ水分たっぷりで柔らか美味しいのです。つまり、非常に元の魚に近い状態な訳で、猫なら飛びつかないと不自然ですの。

 あ、ちなみに、お前元は西洋人なのに妙に日本に詳しいとか言う人には悪夢攻撃ですの(はぁと)。

 仕方ないです。

 私はちょっと鼻をぴくぴくさせた後でダッシュしておもむろに口に入れました。

 がっきっ!!

 ☆@φ$%*◎#×っ!!??

 いた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!

 歯が、歯が〜〜っ。

 涙目で睨むとそこには………………。

 「あれ〜?おかしいですね〜?猫さんなのに、”生り節””鉛まぶし”の違いも判らないなんて?」

 そこっ!にこにこした悪魔が一匹いますのっ!

 じゃ、じゃあ、こっち?

 がきっ!

 い、痛い……。

 「あらあら。そんなの、どっちも偽物に決まってるじゃないですかぁ〜」

 あぅ〜〜〜っ!

 鬼っ!

 悪魔っ!

 性悪女っ!

 「へ〜んですね、変ですね〜。臭いぴくぴくしたのに判らないなんて変ですね〜♪」

 はっ!

 魔女がいつの間にか注射器を取り出して狙ってますのっ!!

 ここは逃げるですのっ!!!

 しゅたっ!

 あっ!ま、回り込まれたですのっ!

 ここは、あ、あそこの開いている窓からっ!……は、何か嫌な予感がしますのっ!

 性悪女が、私が入ってきてから充分な時間があったのに、開いているところを敢えて塞がずに回り込んだのはあからさまに不自然過ぎますのっ!一旦窓から逃げる、と見せかけて……反転っ!

 「あっ!

 さすがの琥珀さんもついてこられませんね。ふぅ、脱出成功ですの。

 「ちぇ〜。皮剥いで三味線にしようと思ったのに〜」

 なっ!琥珀さんは心底つまらなそうに恐ろしいことを言いますの。

 え、それは猫さんにとっては、だろ?ですって?

 あの。え〜っと。で、でも。皮を剥がれるっていうことは、私にとっては、その………………は、裸に剥かれるという意味で………………そ、それはそれで恐ろしいんです……。

 ご主人様に服を買ってもらったと言っても、猫の毛の色が毎日変わったら不自然過ぎますから、家の中でおおっぴらに来て歩くわけにも行きませんし。それに、この服は前のマスターの魔力がこもった、とても大事な魔導服ですの。ご主人様に新しい服を買ってもらっても、おいそれと他人にはあげられないですのっ!

 でも、琥珀さんは余裕の微笑み。これはきっと何かまだ切り札を隠していますね?

 「ふふふ。猫ちゃん。裏をかいたつもりでしょうけど、その行動が既に猫らしくない事には気がついてないようですね〜」

 あっ!?し、しまったですのっ!

 琥珀さんは更に割烹着の中から、はらりとアイテムを差し出しました。

 「さぁ、失策を取り戻したければ、このマタタビに反応するしかないですよ〜」

 ま、マタタビっ!?猫にマタタビはあまりにも有名ですっ!

 し、知らない人はいないと思いますが、とにかく、人間にとってのお酒のようなものですの。もっと適切な表現もあると思うんですが、それだと口にしたりここに書いたりするのが不適切になりそうなのですの。

 まぁ、要するに、マタタビは猫さんにとっては甘美な響き。

 でもっ!

 うううううっ!怪しいっ!

 あからさま以上に怪しいっ!

 「ほらほら〜。早くしないとみんなに言いふらしちゃいますよ〜」

 そんなこと言ったって、そっちに行ったからといって言いふらさないなんて言って無いじゃないですかっ!

 でも。

 ……でも。

 今度猫らしくない行動をとったら『ご主人様以外の人には猫らしく振る舞え』というご主人様の命令に背くことになりますの。ここは判っていても琥珀さんの罠にはまるしかないんです……。

 さようなら、ご主人様。

 少しの間でしたが、レンは幸せでした。

 願わくば、とっととご主人様も琥珀さんの餌食になって、すぐさまあの世でお会いできますように。

 ボクからの最後のお願いです。ぱんぱかぱ〜ん

 いや、冗談ですが。

 ごくりと。

 私は喉を一つ鳴らしてから、覚悟を決めて琥珀さんの持つマタタビに突進しました。

 「お〜っ。さすがは猫ちゃん。マタタビには弱いですね〜。踊ってますよ〜」

 うううう、周りをしっかり籠に囲まれていくのが判ります。でも、判っていても中で踊るしかないんです。

 今、最後の扉が閉められました。もう逃げられません。

 ごめんなさい、ご主人様。

 これでお別れです。

 疲れてきたみたいで頭が朦朧とします。なんだか意識も遠くなってきました。

 「でも、それ、マタタビじゃなくて、痺れ薬をまぶしただけの木の枝だったりして」

 そんな琥珀さんの声は耳の遠くで聞こえてました。

 あぁ。ほんと、極悪ですね。

 まぢ、死ぬかも………………。



 私は使い魔ですの。

 今は大ぴんちですの。


<ヤバイのである>


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