我が輩は猫ですの from Ophanim
使イ魔登場編





 吾輩は猫である。

 名前はまだない。

 …………………。

 …………。

 ……。

 ですわ。

 ………。

 名前、あるんですけれど。

 ………その

 自信が、………ないんですの。

 あ、一応、自己紹介、しますね。

 その、『月姫』は、ご存じでしょうか?

 あ、ご存じですか。

 わたくし、その月姫外伝の『歌月十夜』のアイドルで、他の作品ではアルクェイドさんしかしたことがないという、あの『アイコン』までやらせてもらってる、レンと申しますの。

 以後お見知り置きを。

 とある高名な魔術師の『使い魔』としてこの世に生を受けたんですの。

 使い魔というのは、まぁ、その、魔術師の雑用係ですの。

 でぇ、その。

 何をするのかと言いますと、ですね……。

 あ〜……。

 何だか、恥ずかしいですの。

 でも、その。

 白状してしまいますと。

 あの。

 その最初のマスターがとても良いお方で。

 実は、雑用は一度もしたことがなかったんですの。

 だから、具体的に何をするのか、私も良く知らないんですの。

 え?

 猫が雑用出来るかって言われるんですか?

 あ、そうですね、あの、説明不足でしたの。

 えぇ。私の今の身体を作ってるこの黒猫はですね、もともとは、どこかのお城のお姫様に飼われていた黒猫でしたの。

 それとは別に、マスターが人間型の魂をくれましたの。

 ですから、私は人間の姿になることも出来るんですの。

 マスター、最期に私に触れて下さいましたの。

 頭を撫でて、下さいましたの…………。

 あのお方は良い方でしたのに。

 アルクェイドさんときたら……………。

 え、どうして彼女にもらわれたか、ですか?

 先程、黒猫の身体がお城のお姫様のペットだったとお伝えしたつもりですが?

 えぇ。

 信じられないかもしれませんが、アルクェイドさんは本当にお姫様なんです。

 とんでもないことですが。

 だって、私、人間の姿になったらまだ小学生くらいですのよ?

 それになのに、あの方は無邪気にも、

 「ちょっと淫夢見せてきて」

とか命令するんですのよ??????

 私はそれがどんな物か知りませんので、とりあえず、目標の人間の願望を出来るだけ尊重しまして、それで足りないときはちょっとその方の深層心理から拝借した知識で脚色を加えて、眠っている時間に足りるように色々努力してますの。

 それをあの人は、『レンはまだ子供だから悪戯するのよ』とか言ってくれやがるんですわ。

 ひどいことですの。

 使い魔虐待ですの〜。

 猫苛め反対ですの〜っ。

 え、主人に対して何て言い種だ、ですって?

 違いますわ。

 アルクェイドさんは私のご主人様ではありませんの。

 私の今のご主人様はですね。

 「あ、レン、ここにいたのか?」

 あ、来ました。

 ちょぴっとだけ血を下さいました、遠野志貴様ですの。

 正確には七夜=有馬=遠野=志貴様らしいですが、長いので志貴様、とかご主人様とか呼ばせていただいてますの。

 前のマスターには申し訳ないのですが、私、今のこのご主人様、結構気に入ってますの。

 お仕事もくれましたの。

 それがですね。

 うふ

 知りたいですか?

 『ご主人様の前以外では猫らしくしろ』ですの。

 ですから、今もこうして猫の姿のまま、ご主人様とちょっと距離をとって座ってますの〜。

 え?

 じゃあ、名前あるじゃないかって、おっしゃるんですか?

 でもですね、この名前で呼ぶ人はたった二人ですの。

 ご主人様と、アルクェイドさん。

 あとの方は『猫』『黒猫』『猫さん』『アルクェイドのところの使い魔』『ケモノ』とか、本当に、名前らしいものを呼んで下さいませんですの。

 だから、本当に自信がないんですの。

 でも、でも、私はご主人様の使い魔ですから、ご主人様がレンって呼ぶなら、レンで良いんじゃないかと思いますの。

 ね。

 ご主人様。

 私はご主人様の顔を窺おうと、ちらっと顔を向けました。

 「……って、あれ。おまえも日向ぼっこか?」

 うふふ。

 考えてることが判るって良いですねぇ。

 先が読めますよ。はい。

 そうですね、『歌月十夜』をお持ちの方は該当部分を見つけることが出来ると思います。

 中庭でひなたぼっこ、「屋敷・午前中〜中庭。黒猫日和」のシーンなんかお奨めです。

 っていうか、そこです。

 あと、「屋敷・正午〜幕間2」も見てください。スキップしたら駄目駄目駄目です。

 「あ、いいよ、いいよ。別に何もしないからそこにいろって。ここでこうしているの、気持ちいいだろ?」

 え?

 あの………………。

 ご、ご主人様。

 ご自分が何を言ってらっしゃるか判ってますか?

 そんなこと言われたら、私、動けないじゃないですかぁ!

 私の姿を見たご主人様がくすり、とお笑いになりました。

 あ、危ないですの。

 動いてしまいそうでしたの……。

 あ〜……。

 せ、背中が痒いですの〜。

 「まったく、何してるんだろうね。俺たち?」

 ………………知りません()。

 「あぁ、でも」

 え?

 こ、今度は何ですか?

 是非、動いても良いようなご命令をお願いしますのぉ……。

 「おかしいな。お前、俺に触れさせてもくれないっていうのに」

 ばっ!

 ば、馬鹿なこと言わないで下さいですのっ!

 い、いくらご主人様でも、そ、そんなこと……。

 だって。

 私、今、毛皮一枚隔てて『いっしまとわぬじょうたい』ですのよ?

 猫ですから。

 そ、そんなので触れられたら、は、恥ずかしいじゃないですかぁ。

 し、しかも、ご主人様の言葉、前の話と通じてないし……。

 「ま、いいけど」

 良くないです……。

 「あぁ、この塀の向こうはとっくに崩れちまってるのかも」

 はぁ。

 そんなことはなかったですけども?

 「はぁ?なんだそれ」

 ふぇ?

 えっと、その……。

 なんですの?

 変なご主人様ですね。

 「まぁ、いいや、な。レン」

 ぽんっ!

 ひゃあっ!

 急に予想外の行動を取らないでください。シナリオ無視したら駄目ですの。

 ご主人様の手が背中に乗ってます。

 でも、そこ、気持ちいいですの〜。痒かったところです〜。

 私はちょっとだけ使い魔のお仕事を忘れて、ご主人様の手に背中をこすりつけました。

 痒みが取れてとても幸せですの〜。

 「志貴さま?志貴さま?」

 あ、翡翠さんの声がしますね〜。

 「翡翠、ここだよ」

 ご主人様が手を上げると、翡翠さんが深々とお辞儀をします。

 むぅ。

 あ、翡翠さんのお話はまた今度、です。

 「志貴さま、昼食の準備が整いましたので食堂までお越し下さいませ」

 「おーけー。それじゃ先に行って待っててくれ」

 ご主人様は翡翠さんを帰すと、私の方を見てくれました。

 「俺達も行くか?」

 ………………油断しましたの。

 がばっ、と。

 ご主人様が私の身体を持ち上げました。………猫のように。

 あの。

 ですからっ!

 そこは私のですっ!!!

 ………………無いけど)。

 余りの恥ずかしさに、私はじたばた暴れてご主人様を引っ掻いてしまいました。

 罰が悪いので、猫のようにぷいっと逃げてしまうことにします。

 怒ってるでしょうか?

 「やれやれ。今日は機嫌が良さそうだと思ったんだけどな〜?」

 ご主人様は『猫は気紛れだからな〜』と言いながら、昼食に行かれました。

 えと。

 ご、ご主人様。わ、私は、人型が主ですのよ!ご主人様の使い魔ですのよ〜!

 ご自分で忘れてしまってるのではないでしょうか?

 う〜、不安ですの。



 わたくしは使い魔ですの。

 用事はまだ無い…ですの。


<続くのである>


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