楽屋裏 : 月姫SS by Ophanim 六夜 |
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「何をって、原作に従ってスカートの中に遠野くんの頭を入れようとしただけよっ!」
ゆ、弓塚さん……。そんなの書いてません……ええ、どこにも。
「ばっ!そっ!そんな破廉恥なっ!」
遠野先輩は台本が破れそうなほど激しい勢いでページをめくって弓塚さんの言葉を裏付ける描写を探しています。心配なさらなくても、ありません。弓塚さんの妄想です。
「遠野〜〜〜っ!」
「お、俺は何もしてないっ!してないっ!!!」
乾さんが目から血涙を流して羨ましがっています。その一方で両手でしっかり首を締め上げている辺りはさすがに仲がよろしいようです。
シンジ:「いたたたたた」
じ、実感こもってますねぇ。
「ちょっと、兄さんっ!一人だけ何事もなかったように台詞読まないでくださいっ!!」
遠野先輩は今にも噛みつきそうな勢いで、睨み付けています。怖いです〜。
「さ、先に行かせてくれっ!」
わ、さすが兄妹ですね〜。
こんなになった遠野先輩でも怖くないんですね。
あっさり流して台本にかじりついてます。
でも、遠野先輩だって負けてませんよ。
「駄目ですっ!ちゃんと納得のいく説明を……」
「そうですよ。”行くなら二人一緒に”、っていうのがこの場合の正しい言葉の使い方です」
ちょうどお茶セットを持って戻ってきた琥珀さんがまたとんでもないフォローをかまして下さいました。
え〜と。む、難しくて判りませ〜ん。晶、まだお子さまだし〜……。
「ち、違うっ!絶対違うっ!!晶ちゃん、頼むっ!!!」
そ、そうですね。
ここは先に行ったもの勝ちですね!い、いえっ!決して変な意味ではなくっ!!
瀬尾晶:『見ると、ひとりの少女が、頭を押さえながら足を投げ出して倒れている。トーストは舞い降りた雀にすでについばまれている』
「瀬尾っ!」
遠野先輩が素早く弓塚さんが落としたトーストをわたしに投げてよこしました。
がすっ、とトーストとは思えない音がして、私の座っていたソファーに突き刺さる、パンらしいもの。
「わ、判りました〜。ちゅんちゅんちゅんぱくぱくぱく……」
この際、棒読みでも何でも良いです。
身を守るためです。
死んでしまったら志貴さんとのデートどころか、何もかもが水の泡です。
「あっ!わたしのトーストっ!」
弓塚さんは何故かわたしを睨み付けています。
ど、どうしてですか?
反対に、遠野先輩は勝ち誇ったような顔をしています。
「これでリテイクは無しよっ!」
「瀬尾さん〜〜〜っ!」
な、なるほど〜っ!って、わたし、どうしたら良かったんですか〜っ!!あぅあぅあぅ……。
瀬尾晶:『思わずしげしげとその少女を見つめるシンジ。シンジの視線に気付いてあわててスカートの前を隠す少女』
ばっ!
へっ?
私は目を丸くしてしまいました。
だって、弓塚さん、自分でわざわざスカートめくって、中身を見せてから隠すんですもの?
「わっ!」
「きゃっ!」
「ちょっ!わ、わざわざ見せること無いでしょうっ!!」
遠野先輩も切れるどころかちょっと呆れてます。
あ、うまいですね〜。
座布団一枚、です。
え?
ほ、ほら、きれる、とあきれる、が似てるかなって思ったんです……。
え、駄目?駄目ですか。
そうですか……。
いえ、良いんです。ちょっとだけささくれた心を癒したいな、と思っただけです。
「ディテールディテール」
弓塚さんはそう言ってちょっと照れたように顔を赤くしただけです。ど、どうしてそんなに平気なんですか?その、あの、ぱ、パンツ見せておいて……。ひょっとして、その、慣れてるとか……?女子高生の定番、援助なんちゃらとかでしょうかぁ…???
でも、見せられた男性陣の方もあんまり嬉しく無さそうですね。
さっきのアルクェイドさんにはあんなに敏感に反応していたのに……。
「し、白い……」
「……アンダースコート」
「ほら、一応バドミントン部だし」
弓塚さんはもう一度ちらっとスカートのはじっこを持ち上げて見せてくれました。
なるほど。
あの。でも、ですね。わたしはそれでも充分恥ずかしいと思うんですが、それを口にしたらこの先のナレーションは誰が代わってくれるんでしょうね?
レイ:「ゴメンね、マジで急いでたんだ!」
瀬尾晶:『さっと起き上がり駆け去りながら振り向きざまに手を振る、その快活で開けっぴろげな青い髪の短髪美少女の後ろ姿に、まだ起き上がらないまま見とれるシンジ。横でそのシンジの様子に思わず眉をヒクヒクさせるアスカ』
「瀬尾っっっ!!!」
「はいぃっ!」
えっ?
わ、わたし、何かしましたか??
「そう言うところは飛ばしても良いのよっ!!」
あぅあぅあぅ……。
遠野先輩……。
出番が少ないからって、シナリオ細かくチェックしないでください。
え〜と、場面変更です。椅子を並べてください。次は学校の教室になりま〜す。
瀬尾晶:『机には、シンジとアスカの相合い傘の落書きをグジャグジャに消した線のあと。その隣に「あんたバカあ?」の殴り書き。シンジとケンスケとトウジが、シンジがさっきぶつかった少女の話をしている』
あ、初めての人が居ますね。
ケンスケ、とは”相田ケンスケ”さんのことです。眼鏡、短髪、カメラ小僧、軍事オタク、だそうです。まぁ、配役上は誰でも問題ないでしょうね。それから、トウジ、とは”鈴原トウジ”さんのことです。わたしの実家の杜氏さんとは全く関係ありません。資料によると黒髪、短髪にジャージ、それから使用言語が関西弁だそうです。関西だと京都に丹後杜氏、兵庫に城崎杜氏、但馬杜氏、丹波杜氏、南丹杜氏、岡山に備中杜氏がありますね。それから、中国四国地方には……あ、か、関係ないですか?判りました。はぁ。残念です。
「はい、乾君、お願いね」
弓塚さんがまたクラスのアイドルの顔を出しています。いつもこうならきっと人気投票でも上位に行けますよ。保証は出来ませんが。
「おう。これって、本番もだったか?」
乾さんはトウジさんをやるんですね。確かに、ジャージと特攻服の違いはありますが、いつも同じ服装、しかも制服ではない、というところはぴったりかもしれません。
「そうよ。気合い入れてね」
トウジ:「ぬぁーにぃーッ!!!お前そのパンツ見たんか!」
シンジ:「別に見たってわわけじゃ。……チラッ…とだけ……」
瀬尾晶:『親指と人差し指で小さく間隔を示すシンジ。トウジ、顔を手で抱える』
トウジ:「クァーーーーッ!!!朝っぱらから運のエエやっちゃなー!」
瀬尾晶:『そのトウジの耳を突然横から引っ張る、学級委員長のヒカリ」
ずざっ!
がしっ!
「うおっ!遠野っ!」
「うはははは。さっきの恨み、思い知れ〜〜っ!」
逃げようとした”トウジさん”を素晴らしいスピードで捕まえる、”シンジさん”。わたしのナレーション通りに顔を覆ってしまったのが運の尽きですね。
さっきのお返しにがっちりと羽交い締めさんしてますね〜。
乾さん、もう逃げられません。
この隙にヒカリさんについて説明します。
”洞木ヒカリ”さんは学級委員長をしているように、責任感の強い女性で、……あら、トウジさんに恋心を持っているそうですよ。良かったですね、乾さん。髪は黒髪、桃割りのお下げ、です。ちょっと琥珀さんとはあっていませんが、当日は他の人になるでしょうから問題ないですね。
「では、乾さん、ちょっと失礼して」
ぴきゅ〜ん、と変な音がしました。
出番がやってきた琥珀さんの目が星のように輝いています。
めちゃ嬉しそうです。
何て言うか、新しい玩具をもらった子供のようです。
まぁ、本当にこれから玩具にするんでしょうけども……。
ぶるぶると首を振って最後の抵抗をしている乾さんの顎を左手で固定して、充分余分な時間をかけながら、右手を乾さんの耳へ。
むりっ。
「うっぎゃ〜〜〜〜〜っ!!」
乾さん、断末魔のような声。
ぎぎぎぎぎ、と変な音がしてます。
琥珀さんが手を離した後も首を激しく振ってなかなか痛がる様子をやめない乾さん。
変ですね?
どうしたんでしょう?
「あは。ちょっと唐辛子とかわさびとかマスタードとか、色々ブレンドして塗り混んでみました」
にっこり。
こ、怖いです。
なんだか、素でやってますよねぇ?
「せんでええっ!」
あらあら。
乾さん、すっかり関西弁が板に付いたようですね。
「ディテールディテール」
「書いて無いっちゅうねんっ!!」
う〜ん。
正解!
書いてありません。はい、どこにも。
トウジ:「いてていてて、痛いがな〜いいんちょ〜」
ヒカリ:「もう、朝っぱらから何つまんないこといってるのよ! 鈴原、週番でしょ!さっさと花瓶の水代えてきて!」
瀬尾晶:『ヒカリに連行されていくトウジを見ながらシンジがぼやく』
あららら。
琥珀さん、ぐったりとなった乾さんを本当に連れて行ってしまいました。
ちょっと心配なので見てきます。あ、いえ。危険なので助けに行ったりしません。見るだけです。本当に。
すぐ戻りますが、もうすぐ読み合わせも終わりますし、締めは主人公である志貴さんに説明してもらうことにしましょうね。
それじゃ、志貴さん、お願いします。
シンジ:「尻に敷かれるタイプだな、ありゃ」
アスカ:「あんたもでしょ!」
はぁ。
アルクェイドの尻なら敷かれたい、とか思ってる奴、一杯いるんだろうな〜。そんなにいいもんじゃないぞ、あれ。あいつあれで結構重いし。どさくさに紛れて血吸われそうになっても逃げられないし。まぁ、いいんだけれども……。
あ〜あ。俺もどっか頭のネジがいかれてしまったのかもしれない。
月姫本編に比べて暇すぎる、この状況が、とても不満だ。本来なら喜ぶべき、とてもゆっくりとした時間なのに………。
あっと、晶ちゃんが逃げ帰ってきた。
『わ、わたしはナレーションが残ってますから〜』なんて言ってるよ。
恐がりのくせに好奇心旺盛だから、見に行かないと落ち着かなかったんだろうな。本当に猫みたいだ。
あ。
有彦が帰ってきた。さすがに顔が疲れてるな〜。
それに比べて琥珀さんの満足そうなこと。相当玩具にして遊んだんだろうな〜。下手に我慢しないで倒れてしまえば楽なのに、あれで有彦も結構打たれ強いから……。
まぁ、その方が。琥珀さんの色んなクスリのお試しには最適か。……その後で自分に同じクスリが打たれるんだろうけれども……。
瀬尾晶:『そこから始まるシンジとアスカの喧嘩をわきで白けた目で見ながら、窓枠にひじをかけ、空を見上げて………』
晶ちゃんがナレーションを再開している。でも、まぁ、この分だと出番はないだろう。
俺は暇つぶしに持ってきてあった読みかけの長編小説『唐の教会』に目を戻した。
ふと、気がついた。
部屋の中が余りに静かだ。
不思議に思って顔を上げると、みんなの視線が俺に突き刺さっていた。
「?」
「出番ですよ?」
首を傾げる俺に、晶ちゃんが丁寧に教えてくれた。
そっか。台詞、あったんだ……
<意味深な展開と意外な結末を待て次号>
感想はこちら
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